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始動胎動  作者: 未優
9/12

重圧

「馬鹿野郎……」

クドリャフカは泣いていた。演技でもなんでもなく、本気で。集落の者たちはそんなクドリャフカに声をかけることができなかった。

「シ……お前が、死なない方法だって……あっただろうに!」

クドリャフカは怒っていた。これもまた、彼の本心から、怒りを抑えられずにいた。彼の本心の行動が、結果落ちこぼれがやるようにと指示した行動になっているのも、彼にとっては皮肉だった。

「あの時だって……俺やリヒャルトを守る必要はなかったのに」

クドリャフカは考えていた。なぜ落ちこぼれがあんな行動を取ったのか。そして、俺にもあんな演技をさせたのか。あの演技があったからこそ、まわりから、処刑について疑われる事がなかったのだが。

落ちこぼれの処刑が決まった日。クドリャフカは、乾季の疑いをもって、集落へ戻った。その帰路で、落ちこぼれから簡単なメモを受け取っていた。

そのメモは、彼が大婆様の前に立った時からの行動指針を示したメモだった。しかし、それには、自分自身が処刑されることや、いまここに至るまでの内容が書かれていた。

ここまでわかっていたのに、なぜ落ちこぼれは生きようとしなかったのか。それが可能だっただろうに。

「クドリャフカ、処刑の日の夜に集落が使っている水場の流れを遡り、集落の族長となる……か」

これもメモの内容だ。これまでのメモの内容は全て本当だった。もしかすると、落ちこぼれは彼のために死んでいったのかも知れない。

もう、クドリャフカは考えないことにした。落ちこぼれの言う通りに、今は盲目的に行動をすることにした。

真っ暗な夜。クドリャフカはそっと集落を出て、水源を遡って行った。落ちこぼれが乾季の話をした。そして、メモの終着点は水源上流。きっとそこに何かがあって、自分も納得できることだろう。

クドリャフカは昔から獲物を捕まえる時は、足音を殺していた。今もなんとなく足音を殺していた。本当に、特に上流に何があるとの予想も立てずに、なんとなく。

暫くぼーっと歩いていたら、上流に何かが見えてきた。クドリャフカはそれに気付き、目を凝らし、自然と姿勢を低くして、気配を殺した。


「どうなってるんだ! お前ら蟻も、魚も!」

「どうなってるって言われてもな」

声が聞こえてきた。聞き覚えのある声と、聞き覚えのない声。

「そもそも俺の時はあんなの居るって聞いてないからな、そっちこそどうなってんだって話だよ」

声の主は3人らしい。ただ、呼吸はもっとたくさん聞こえる。お偉いさん3人に、護衛がいるといったところだろうか。

クドリャフカは気配を殺したまま、更に目を凝らし、様子をうかがった。


見えてきたのは、水源を塞ぐように建築されつつあるダムのようなもの。


「なんだあれは……あれが出来たら集落は一瞬で乾季じゃないか!」

やはり、落ちこぼれの判断は間違っていなかったとクドリャフカは心の中で安堵した。それと同時に、後悔も。

しかし、今はそれどころではない。人為的な乾季。あれでは大婆様が判断できないのも仕方が無い。未然にそれを防ぐためになんとしてでも相手の数や、相手が誰かを把握する必要がある。

「ひとりは、確実に集落で聞いた声なんだ……思い出せない」

歯がゆい思いをしながら、気配をしっかりと殺し、音も立てぬよう、這ってじりじりと声のする方に近寄って行く。


「あいつのせいで俺たちの奇襲は失敗したし、多大な被害を負ったんだぞ」

荒っぽい息遣いでそう言っている。

「今回だって、そいつが勘付いたんだろ。どうするんだよ、このままじゃ我々が疑われるのも時間の問題だ」

冷静な、けれども少し怯えているような声でそう言っている。

「大丈夫だ」

聞き覚えのある声が、自信に満ちたように言った。


「その問題児は、今日処刑した」


今日、処刑した?

クドリャフカの頭の中で情報が整理されて行く。

奇襲の失敗、多大な被害?

どれも、頭の中の引き出しにある事象ばかりだ。

我々まで疑われる?


そして、クドリャフカは再度人影に目を向けた。既に彼の頭の中では、情報の整理が終わっていた。情報がある状態で見るのと、ない状態で見るのとでは、やはり、全然違う。その情報がたとえ間違っていようと、脳はその情報に従い、整理するからだ。

「虫族……魚族……狗族か」

今日処刑した。恐らくこれは落ちこぼれの事だ。落ちこぼれがもし死ななかったら、この会合はなかったのかもしれない。もしかすると、落ちこぼれはクドリャフカにこの現場を抑えさせる為に死んだのかもしれない。

処刑の事を知っている。これは狗族の上層部だけ。クドリャフカの部下達は今日、いきなり収集したので、この話を事前に知り得て、ここに他の種族を集める事は出来ないだろう。

「……くそっ」

クドリャフカは小さく舌打ちした。こんな事を企んでいる狗族が居たとは。

奇襲の失敗、多大な被害に関しては、恐らく虫族の蟻だろう。昔、クドリャフカがいたアルベルト狩猟部隊を奇襲した蟻がいた。あの時襲ってきた蟻は、ほぼ全滅させた。恐らくその生き残りだろう。もしくは、情報部隊が近くにいたのか。

我々まで疑われる。これは、よく集落に物を売りに来る魚族だと思われる。魚族が商人をやること自体が珍しいからよく記憶に残っている。あれは、ものを売ることよりも、集落の作りに興味津々だった。


「今回も、お前の思うがままか……落ちこぼれ」

そう呟いて、クドリャフカは立ち上がった。この距離なら立ち上がった時点で気配を殺していようと見つかるだろう。

「誰だっ!?」

最初に気付いたのは、蟻だった。その後に魚族の商人が一瞬こちらをうかがい、直ぐに逃げ出した。

「狗族だっ! ばれたぞ! どうなっている! これだから狗族は! 殺される!」

一緒にいる狗族への文句や、自分の思うことを撒き散らしている。しかし、一番落ち着きがないのは恐らくこの魚族ではない。そう思い、クドリャフカは見慣れたその狗族の者に目を向けていた。

「クドリャフカ……遊撃隊長。どうした、こんな遅くに、こんなところで……」

冷静を装った言葉ではあるが、声も身体も震えているのが、暗い中でもよくわかる。


「大婆様こそ、こんなところで何をやっているのですか」

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