君はぼくによく似てる
苦
抵抗もせず、ぼーっと運ばれるのを待っていた。運び終わって、セッティングが始まってもぼくはだらんとして、吊るされたままぼーっとしていた。この吊るされているだけと言うのが案外辛い。本来血流が流れる方向に上手く流れていないのか、締め付けが強いのか分からないけれども、だんだんとぼーっとしてくる。それに、皆はぼくではなく、ぼくを吊るしている木を運んでいたため、輸送中はものすごく揺れて、酔った。素直に気持ち悪いだけなのだが、セッティングをしている者には、それが死を覚悟して絶望していると思われているようで、ある意味気が楽だった。
暫くすると、セッティングが終わった。セッティングをしていた者たちが、クドに何か報告をしたら、そのまま足早に去って行った。去って行った先には大婆様も見える。いままでない程に喜んでいるようだった。それと、大穴の上流を気にしている。水量の激増によって、自分が流されないようにでも警戒しているのだろうか。
「よう、落ちこぼれ」
そんな風に周りを観察していると、クドが話しかけてきた。
「どんな気分だ」
「やあ、クド。最悪だよ、変な気を起こす前に落として貰いたいくらいだ」
ぼくは茶化すようにそういった。すると、クドはナイフを出して右手で掴み、そのまま右手の親指で後ろを指した。
「安心しろ落ちこぼれ。リヒャルトが銃を構えてるのが見えるだろ? 俺が変な気を起こしたらあそこから狙撃される。いくら俺でもあいつの狙撃は避けられないさ」
言われた方向を見ると、確かにリヒャルトが銃を構えていた。
「あいつなりの良心なんだろうな。きっとああでもされないと俺はお前を落とさなかっただろうよ」
確かにクドなら、ぼくを助けようとどんなことでもしただろう。ただ付き合いが長いだけ、エリートと落ちこぼれなのに、どうしてこんなにも気をかけてくれたのだろうか。
「で、何か言いたいことは?」
あまり長く話していると、疑われるからだろう。クドはぼくに話をするように促してきた。そして、ぼくはそれに応えるように口を開いた。
「クド。君はぼくによく似ている」
「俺はそう思わないけどな」
まるでこう言われることがわかってたかの様な即答だった。
「クド。君はぼくの責任を取ってくれなかったね」
「このナイフでけじめはつけるさ」
クドの返事は、呼吸の隙すら与えないレベルだ。
「クド。ぼくは君のせいでこうなってるんだよ」
「俺はそう思わないな」
ぼくが本当の言葉を口にするのはまだ先だ。
「クド。お前が落ちろよ。ぼくの責任を取ってお前が落ちて死ね」
「なんで集落で一番の落ちこぼれの責任を俺が取らないといけないんだ?」
まるで
「クド。責任を取ると言っていたのは嘘だったのかい?」
「誰が好き好んで落ちこぼれの責任なんかを」
決まった台本を読むかのように
「クド。君は卑怯者で愚劣な奴だったんだね」
「なんとでも言うがいいさ、俺のこの本性はもう死んでいくお前に知られてもなんの問題もない」
お互いの言葉には
「クド。もう君とは口をききたくない」
「俺もそう思っていたところだ」
感情がこもっていなかった。
そして、クドリャフカはナイフを振りかぶった。ナイフを投げようと、手に力が籠り、身体全体が動いた。
「クド。ぼくが落ちたら全力で落ち込んで泣くんだ」
クドが少し反応した。しかし、もうナイフは手から離れている。止めることはできない。
「そして塞ぎ込んで、今日の夜くらいまで家に籠るんだ」
ナイフを投げたクドリャフカが目を皿のようにしてこちらを見ている。ナイフはそろそろぼくを地面に繋ぎとめているロープに触れようとしていた。
「夜になったら、ぼくが流されたこの流れの上流に向かって」
身体に今まで感じた事のない浮遊感。恐らくロープが切れたのだろう。
「クド。ぼくは君の事が大好きだったよ。さようなら」
こちらを見るクドリャフカの瞳には涙が溜まっていた。きっと、ぼくの瞳にも涙が溜まっていただろう。
「クド。君はぼくによく似てる」
そう言って穴に沈み、消えて行った。




