不地の大穴、不死の大穴
質
不地の大穴とは。世界の中心にあるとされている大きな穴だ。実際その穴が世界の中心かは定かではないが、この世の終わりがそこにあるとされているため、中心と言う者が多い。そこには大量の水が全方位から勢い良くなだれ込み、その水量は急激に増減を繰り返す。なので、近寄っただけで水量が増え、水に攫われた者も多い。狗族の殆どは、例え乾季で水が不足していても、近寄ろうとする者はいない。
不地の大穴。他の種族の間では、不死の大穴と言われる事もある。あらゆる種族で、裏切り者の処刑などに使われ、そこから帰った者はいない。しかし、不死と呼ばれるのには訳がある。
あの穴は、水によって更に地中深くへと掘り下げられているのだ。なので、決して地面へ到達することがない。故に不地の大穴。地面に到達しなければ死ぬこともできない。故に不死の大穴。つまり、落ちたら最後、永遠に落ち続けると言われているのだ。それは、単に死ぬより、よっぽど辛いことだ。
ぼくは、そこに落とされるらしい。
「大婆様……! 今回の件は私の独断であります! 落ちこぼれは関係ありません、罰を与えるのならば、どうか私のみを……」
「お前への罰はお前への罰だ。クドリャフカ遊撃隊長。見苦しいぞ。これ以上位を落とすことのできない者へ与える罰は、これ以外にないだろう」
クドが必死にぼくを庇おうとしてくれた。しかし、大婆様はそれに一切応じるつもりはないようだった。大婆様の言葉には、歓喜と信念を感じられた。そして、その決断を下す前も下した後も、族長からは何も感じられなかった。
「ですが……!」
「いいよ、クド」
なんとかしてぼくへの罰を軽くするように頼み込んでいたクド。ぼくにはクドのそんな姿を見ることが、耐えられなかった。
「クド。君が落とすんだ。ぼくをあの大穴に。その代わり……大婆様」
ぼくが大婆様に対して言葉を発すると、大婆様からは少し不安の色が漏れた。
「落ちこぼれ、ワシはお前と口をきくつもりはない。だが、最期にもなろう。寛大な心持ちで今回だけは許してやる。なんだ」
威厳のある言葉とは裏腹に、大婆様の言葉には不安の色しかなかった。おそらくは、ぼくの次の言葉で一気に不利になることを恐れているのだろう。大丈夫、そんなことはしない。
「処刑の際、執行人のクドリャフカ以外は、ぼくに近付けないでください。執行の確認は遠くからの視認でお願いいたします」
そう告げると、大婆様からは一気に安堵の色が漏れ出した。恐らく大婆様は、自分が今不利になるのを恐れていたのだろう。そして、この要求ならばなんら問題はないと判断して、安心したのだと思う。
ぼくは、クドの地位を下げずに、どうするかを考えていたのに。
「いいだろう。その程度の要求なら飲んでやろう。処刑は明日。日の出と共に行う。それまでお前の身柄はここの地下に拘束させてもらう」
これも、恐らく、ぼくの発言を縛るためだろう。そんなことをしても無駄だというのに。
「それで文句ないな」
「はい」




