大婆様の決断
ロク
ぼくとクドは集落へと戻った。結局、着いて来る者はいなかった。ぼくとクドだけで戻ってきた。最初、リヒャルト狙撃隊長も戻ってこようとしたが、それに関してはクドが止めた。
「俺もお前もいなかったら、誰が指揮をとる」
その一言だけでリヒャルト狙撃隊長は何も言い返さず、残ることを決めた。
そして、集落へと戻ってきたぼくたちは、今、族長と、帰路でクドが怪しいと言っていた大婆様の前にいる。
「クドリャフカ狩猟部隊長、どういうつもりかな、これは」
大婆様がそう言った。族長は黙ってこちらを見ているだけだ。
「天候から、乾季が近いと判断致しました。なので、水の確保をするために戻ってまいりました」
「愚か者が! 乾季はまだ遠いと言っただろうが!」
クドの言葉に、大婆様が叫んだ。ぼくには、その言葉が、焦燥と不安の色を帯びていたように感じた。
「えぇ、もし私の判断が誤りでしたら、如何なる処罰でも受ける所存でございます。なのでどうか、族長殿、お言葉を」
クドは冷静に返している。ぼくは何も言わない。大婆様も族長もぼくのことはまるで空気のようにでも感じているみたいだ。無視すらしないで、完全に意識していない。
「クドリャフカ狩猟部隊長。それはなんだ、大婆であるワシの言葉では不満があると言うのか?」
「はい。あなたが大婆様になる前までは、いくら大婆様が話されても、最後の言葉は必ず族長殿でした。なので、私のけじめとしても族長殿の言葉をいただきたい」
大婆様の言葉に怯むことも焦ることもなく、至極冷静にクドは切り返した。それに対して大婆様は言葉を飲んだ。その行動にも焦りの色が見えた。
「クドリャフカ」
大婆様の焦り具合を見て、まるで助け舟を出すように族長が口を開いた。
「全ての判断は大婆様によるものだ。最後の宣言が誰の言葉でも、変わらないだろう」
そう告げた族長の言葉には、焦りも不安も冷静さも威厳も、なにもなかった。まるで感情のない人形が話しているようだった。確かにこのような状態なら、クドが大婆様の言葉を不信に思うのも仕方が無い。
「だ、そうだ。クドリャフカ狩猟部隊長。狩りで勝手な行動をし、獲物を持ち帰らなかった罪は重い。しかしながら、部隊長という立場上、重い刑には処せない。従って、クドリャフカ狩猟部隊長、お前は」
ちらりと大婆様がこちらを見た。言葉からは既に焦りも不安も消えていた。色濃く漏れ出てきているのは、自尊心と、企み。ぼくは既に大婆様の言葉を信じていなかった。それどころか、大婆様に任せていては、集落は終わってしまうのではないかとまで思い始めていた。
「遊撃隊長への格下げ及び、そこにいる落ちこぼれの処刑を執行しろ」
どうやら、ぼくは何らかの処罰を与えられるらしい。
「クドリャフカ隊長。お前の手で、その落ちこぼれを不地の大穴に落とすのだ」




