疑問
誤
実はアルベルトが死んだあの日から、ぼくの目には少し不思議な変化があった。なにもないところにふと色が映り込むようになっているのだ。なんでそんなことになっているかもぼくにはわからないし、この色になんの意味があるかもぼくには良くわかっていなかった。
この事をクドに相談した時は、多分蟻との戦いの後遺症だろうと言われた。気にしすぎず放っておけば治ると。ぼくは言われたように気にしないことにした。しかし、黄緑っぽい色のところにはウサギが居たり、赤っぽい色の獲物はこちらに攻撃を仕掛けてきたり、狩りにおいて便利なので、その時は意識するようにしている。
さっきもこの色のおかげでウサギを捕まえることができた。
「落ちこぼれはまーた、ウサギ捕まえてるのか? やめろよ、名誉あるクドリャフカ狩猟部隊でそんな小さい獲物を捉えるの。みっともないだろ」
捕まえたウサギを満足気に抱えてたぼくに対して、同じ狙撃隊の人がそう言ってきた。ぼくはこの人の名前を知らないし、言い返すつもりもない。だから、適当に相槌をうって流そうとした。
けれども、その発言に対して過剰に反応した人がいた。
「口を慎め。まだ乾季は遠いが、保存が効くウサギの肉は貴重だろう。お前が今持っている携帯食料の肉はなんの肉だ」
リヒャルト狙撃隊長だった。どうも、アルベルトの件から、クドもリヒャルト狙撃隊長もぼくに気を使っている気がする。けれども、そんな事よりも気掛かりな事を言われた。
「リヒャルト狙撃隊長、乾季が遠いとは?」
だから、ぼくは考える前に口を動かし、その気掛かりな部分をリヒャルト狙撃隊長にぶつけた。
「隊長は、狩猟前に大婆様のところに行く。そこで天気だとかを占ってもらう。外れた事はない、大切な情報だ」
大婆様。大婆様とは、集落の者なら知らない者はいない。ありとあらゆることを占いで見て、集落の移動や、狩りの量などを決める方だ。その占いの結果と判断は長年培われたものであり、疑う余地など、基本はない。そう、基本はない。
「……だけど、リヒャルト狙撃隊長。水源上流から嫌な雰囲気がします。なんだか、明日にも水がなくなりそうな」
ぼくたち下っ端には、大婆様の判断は聞かされない。知りたければ隊長から聞くしかない。ぼくはてっきり、大婆様と族長は乾季が近いと判断して、多くの獲物をとってくるように指示を出していると思い込んでいた。
「落ちこぼれ。それはお前の予想か?」
「はい、ぼく個人の考えです」
リヒャルト狙撃隊長は、それだけ確認すると、すぐに走り出し、クドの元へといった。心なしかリヒャルト狙撃隊長の表情が険しくなっていたように思えた。
程なくして、クドの声が響いた。
「みんな! 聞いてくれ!」
狩猟中は、個々の判断を尊重すると言っていたクドが急に叫んだため、部隊の者は全員一瞬で止まった。
「俺は大婆様から乾季はまだまだ遠いと聞いていた。だが、どうやら乾季は近いように感じられる。だから俺は、大婆様、そして族長の意思を無視して、集落に戻り、水の蓄えの準備をしようと思う。この行為は裏切りとされ、処罰をされる危険が大きい。処罰を逃れたいものは狩猟を続けてよい。責任は全て俺がとる!」
今の話を簡潔に整理すると、クドは、大婆様や、族長ではなく、ぼくを信じたらしい。落ちこぼれと呼ばれるぼくの言葉を、リヒャルト狙撃隊長とクドリャフカ狩猟部隊長は集落の最高権利者以上に重いと捉えたのだ。
「クド、ぼくは……」
「お前は俺と一緒に集落へ戻る。疑問を感じていたのは俺も一緒だ」




