朝、出発
零
「君はぼくによく似てる」
そう言って穴に沈み、消えて行った。
壱
目覚ましの音が室内に響いた。ぼくはその音を聞いて目を覚ます。目覚ましと言っても、餌をあげるようになってから毎朝家の裏に来るようになってしまった鳥なので、放っておいても止まらない。
「おはようございます」
誰もいないのに毎朝ぼくは起きる時に挨拶をする。習慣のようでもあるし、自分に対して起きろと言う戒めでもある。
ぼくが起きたのにも関わらず、天然の目覚ましは鳴り止む事を知らない。放っておいても止まないので、硬くパサパサになったパンを掴んで、家の裏へ向かった。
ぼくの姿を見るや否や、天然の目覚ましはよりいっそう騒がしくなる。
「急かさないでよ。ちゃんと持ってきたから」
持ってきたパンは二つ。それとは別に水とミルクを持ってきた。これも習慣みたいなものだ。自分用と、目覚まし用。寝ぼけていてもここまでは無意識にできる。しかし、以前目覚まし用のパサパサのパンを食べてしまい、苦い思いをしたので、それ以来はちゃんと目を覚ましてからくるようにしている。
「君たちは、普通の目覚ましと違って、叩いても、言っても止まらないからね」
そう言って硬いパンをちぎって投げてやると、あれだけうるさかった目覚ましが一瞬で静かになった。
「やっぱり君たちを静かにさせるにはこれが一番だね。ぼくも食べようかな」
ぼくの朝食はいつもパンとミルクだ。たまに果物やとうもろこしを食べるけれども、肉はほとんど食べない。
ただ、ぼくたちの生活は狩りが中心だ。だから、ぼくのように肉をほとんど食べないのは珍しいらしい。
「おい! 起きろ落ちこぼれ! 狩りの時間だぞ!」
ぼんやりと目覚ましと一緒にご飯を食べていたら、クドが来てしまった。まだ準備は出来ていない。かと言って、部隊長であるクドを追い返すわけにはいかない。
「起きてるよクド。裏にいる」
そう言うと、クドは裏手へ回ってきた。
「お前……まだ朝食を済ませてなかったのか。狩りの時間まであと少しだぞ」
呆れた口調でクドはそう言った。
「大丈夫ですよ、クドリャフカ部隊長。ぼくの装備は準備に時間、かかりませんから」
ぼくはからかうようにクドにそう告げた。
「お前な、いくら仲が良いからって部隊長の俺をからかうなよ。そんな態度だから他の隊員に距離をおかれるんだぞ」
「わかってるよ」
「わかってないな」
「そんな事よりも着替えるから、先に集合場所に行っててくれないかな、クド。それとも、覗き趣味とかあるのかな」
そう言うと、クドは表情を歪めた。クドは気が短いと有名だ。ぼく以外がここまで言ったら流石に怒るだろう。
「わかったよ、遅刻すんなよ」
やはり、クドはぼくに対しては怒らない。集落で孤立しているぼくを想ってのことだろう。怒ってくるのは他にいるけれども、優しくしてくれるのはクド以外にいないのだから。
クドが家から離れて行ったのを確認してからぼくは着替え始めた。典型的な狙撃隊の装備なので、実際に獲物と死闘を繰り広げるクドなどに比べ、圧倒的に軽く、準備に時間もかからない。
ぼくはさっさと装備をまとめ、部隊内でぼく以外が使うことのないボウガンを抱え、集合場所へ向かった。
弐
「遅ぇぞ! 走れ!!」
集合場所が見えてくると、すぐにクドの叫び声がきこえた。これも、クドの気遣いだ。一番最後に来る隊員に対して、毎回叫び声をあげることにより、嫌われ者のぼくが他の隊員から嫌がらせや叱咤を受けないようにしている。
「すみません、隊長」
ぼくはそう言って走る。毎回のことであっても、他のみんなが揃っているのに、こっちが何もアクションを起こさないのは流石にまずいのを知っているからだ。
集合場所に着くと、予想通り既にクドリャフカ部隊は全員揃っていた。
部隊全体をまとめるクドリャフカ部隊長。大きな獲物に直に攻撃を加える遊撃隊をまとめるバク遊撃隊長。素早いが体力の少ない小さな獲物を仕留める狙撃隊をまとめるリヒャルト狙撃隊長。獲物を生け捕りにしたり、仕留めた獲物を集落へ持ち帰る捕獲部隊をまとめるマーカス捕獲部隊長。そして、それぞれの部隊の末端員たち。
ぼくたち狗族と呼ばれる種族は、毎日狩りをして生活をしている。集落に女、子どもを残して、男だけで狩りに出る。
狩猟部隊も数隊からなり、それぞれの隊にノルマが課せられている。ノルマは族長がその部隊の構成員を見て、過不足のないように課す。そして、狩猟部隊はノルマをクリアし次第、無駄に狩ることをせずに集落へ戻る。
狗族は食糧を蓄えることを滅多にしない。蓄える時は、乾季と呼ばれる水が不足する時期の直前だけだ。なので、毎日狩りにでないといけないし、狩りすぎて明日の獲物がないという状況は決して作らないようにしている。
「全員、武器、携帯食糧は持ったか! 我々の部隊のノルマが一番多い! 我々の部隊が帰れなかったら、集落そのものがなくなると思え! 準備はいいか!!」
そうクドリャフカが叫んだ。すると、今までなんとなくそこに立っていたものの表情にも力が入った。ぼくもなんとなく頑張らなきゃという気持ちになり、つい武器を抱えてる腕にも力がはいる。
「クドリャフカ狩猟部隊! 出発する!」




