電柱担いだ少女A
活動報告でのアンケートの結果、執筆することとなった二作品の片方です。
昔の作品ですがどうぞ。
片方と違いこちらは冒頭だけです。
皆様の感想次第で連載になるかも。
どーもはじめまして。私はエーと言うっス。がさつな女ですが、これでも冒険者やってるんス。
実家を継いで魔法武器職人になれと親に言われていたんですけど、修行がキツくて逃げ出したんスよ。
って私の身の上話なんてどーでもいいんスよ!
それより、数日前のことなんスけど私は小遣いせびりに……じゃなくて、えっと、そう! 修行っス。修行に行ってた森の中で変な「棒」と出会っちゃったんス。
* * * * *
エーの目の前には不思議な形をした一本の棒が刺さっていた。大きく、それでいて見たこともない形だった。
撫でてみると表面は滑らかで、芸術品のように思えた。
材質は石のように見えるが、より強度の高い謎の物質で、先端に行くまでに太い釘のようなものが何本も刺さっている。見上げた上の方には二つの大きな缶のようなものがくっついていて、先端近くに付いた横棒から伸びる数本の紐の根元と繋がっていた。
「なんすかね……これ。ん?」
棒を見ていたエーは棒に絶対取れないくらいしっかりと貼り付けられたプレートのようなものを見つけた。それには、『電柱注意』と書かれており、無論エーには読めないのだが、その模様のようなものに見覚えはあった。
「これって……異界ルーン!?」
異界ルーン。
それは数百年前、このウィユベールと呼ばれる世界に召喚された異界の青年が書いたとされる模様のような文字のことである。
言葉が通じなかった青年は文字を書いて意志疎通をしようとしたらしいのだが、ウィユベールの人には読むことができなかった。しかし、その時書いた文字には魔力を宿す特性がついており、これを書いた武器や服には異界ルーンに応じた魔法を大幅に強化したり異質な力を発揮したりする力があったことで青年への扱いは大きく変わった。
応じたものというのはその異界ルーンの意味に沿った魔法でなければならないらしく何年もの時間をかけ、魔法使いや武器職人が異界ルーンの意味を青年と共に調べあげた。
だが、意味が分かってもウィユベールの人が異界ルーンを書いても全く強化されず、その青年が書いたものだけが強化されたことで、その世界の者が書くか、向こうですでに書かれた物でなければならないことが判明した。自分だけの物となった異界ルーンを使い、青年はさまざまな英雄譚を残したが、この異界ルーンの武器や防具を一つに纏めていては災いを招くとし、死ぬ数年前に世界各地に散らした。
あるものは魔物の巣窟に。またあるものは青年自身が作った守護者に守られて。
ごくごく稀に異界から何かの拍子にウィユに来た物以外は今では一つ手に入れるだけでも相当な死人が出るのを覚悟しなければならないほどだった。
「うわあぁー……本物だぁ……!」
嬉しさで思わずその場で小躍りしてしまい、後々思い出して恥ずかしくなるのだった。
「……でもどうしたもんスかねこれ……相当大きいし、街で見つかったらうるさいし……
ま、どっちみちおじさん家に持っていくしかないっスよね。おじさんなら異界ルーン解読できるし」
おじさんというのは、うるさいところが嫌で街から離れたこの森に住んでいる魔法使い兼研究家、ダグラスのことである。
棒を引きずって持っていくと、ダグラスはひっくり返りそうなほど驚いてから、嬉々として解読を始めた。
無論うるさいのは嫌いなので、このことはエーとダグラスの秘密になるのであった。
「……これは、『デンチュウチュウイ』と読むようじゃな。チュウイとは勿論注意のこと。雷の柱に気を付けよと言う意味じゃ」
「雷の柱っスか! やっぱり凄い武器だったんスね! しかも私も雷魔法使えますし私に使ってくれって言ってるんスよ!」
「そんなはずがなかろうに……しかし、異界ルーンが刻まれたものは特異な形のものが多いと聞くが……実物を見れば納得じゃ。正に特異だのう。その上わざわざ気を付けろと書いてあるのじゃ、このデンチュウというものは相当に危険なものなのやもしれん。
エーよ、お主のことだから危険でも使うつもりなんじゃろうがどうやってこんなものを使う? お主は魔法より近接戦を得意としておるのにこれでは振り回すこともできんぞ」
「大丈夫っスよ! 私にピッタリに改造しますから! それに危険と書いているのなんて凄いぞくぞくするじゃないスか!」
「……え? ま、待て! お主魔法武器製造は基本位しかできんじゃろ! それに異界ルーン装備を改造するなど前代未聞じゃ! あの破天荒で自分勝手な帝国の女帝ですらそのままなのじゃぞ!?」
「そんなもの基本だけできてればあと必要なのはヒラメキだけっスよ! それに軽くしたり仕組みを調べたりっスから大きく変えたりは、多分、きっと……おそらくしないっス! おじさん、地下の魔法工房借りるっスよー」
「ま、待たんか!
ああ……もう知らんぞ……」
そう言ってからエーが地下から出てきたのは、およそ三日後だった。
その手に持つデンチュウは三日前ほどの大きさはなく、エーより少し高いかなというくらいに全体的に縮んでいた。
「完成っスよ! あの奇妙ながらもどっしりとした外見はそのままに、軽量化に成功! もとの大きさでも振り回せるっス! 大きさは元の大きさまでなら自由に小さくできるようにして持ち運びできるようにしたっス。上の無数の紐も触手のように自由自在に動かせるんス! で、仕組みがわからなくて私はあまり手を加えられなかったんスけど何より極めつけは上のこの缶、どうやら雷を蓄えておくことができるらしくて、例え魔力が尽きても満タンまで貯めておけばしばらくは代わりになるんスよ! 更には異界ルーンのおかげで私の雷魔法は大幅強化。デンチュウは硬化もしたのでそのまま殴っても無茶苦茶な威力! 他にもいろいろ……あ」
(……うっかり話しすぎたっス)
昔からすごい武器や防具がなかなか作れなくてたまに上手くいったときには誰かに自慢したかった。だが自慢が長くなりやすく周りからめんどくさがられるのでエーは無理やりまだ語りたい思いをしまいこむ。
「……エー。凄いのはわかったから、とっとと仕事をしてきたらどうじゃ。ワシの所に来た上三日こもりっきり。飯を食う金もギリギリだったのではないのか?」
一瞬ほうけてから思い出したようにお腹を鳴らすエー。
思えばここに小遣いせびりに来るまでの数日、パンの耳でしのいでいた。お腹は空ききっていてやるせない。
自己主張をやめようとしない腹の虫をのさばらせたまま、エーはデンチュウを肩に担ぎ街へと急いで戻ったのだった。
エーは気づいていなかった。
異界ルーン装備を手に入れるとはどういうことなのかを。
もう引き返せない、止めることもできない大河の流れの中に自分が飛び込んでしまっていたことを。
この日、エーは力を手に入れる代わりに平穏という代償を、確かに、だが自分でも知らず知らずのうちに差し出してしまったのだった……