雨夜の星
初めて書いた作品なので、未熟なとこしかないですが、最後まで読んでいただけならとても嬉しいです。
「それにしてもよくもこれだけ降るもんだねぇ」
教室の窓から外を見ながら恵介は呟いた。
外を眺めている恵介は、いつものヘラヘラした表情とは違い、どこか物悲しげな顔をしていた。
恵介にとっては無意識なのかもしれないけど、その表情は男の僕から見ても格好いいと思ってしまう程である。
外に目をやると確かに物凄い雨の量で、トタン屋根やコンクリートを打つ雨音が、僕たちしかいない三階の教室にまでしっかりと届いていた。
「朝の天気予報で言ってたけど、台風が近づいてるんだってさ。でも、今夜あたりで通り過ぎるみたいよ」
「へぇ、そうなんだ。おっかないねぇ」
ウソつけ、そんなことコレっぽっちも思ってない癖に。口調が呑気すぎるんだよ。
「参ったねぇ、傘持ってきてないってのに」
なんだ、傘がないからそんな顔してたのか。
「そんなの谷田さんに借りればいいじゃん、どうせ一緒に帰るんでしょ?」
僕は、今の恵介の表情をいつも見ている軽薄な顔に戻したくて、恵介の彼女のことを話題にした。
「あれ、言ってなかったっけ?ゆきちゃんとはもう別れた」
「えっ、ウソ?だって付き合ってまだ1ヶ月じゃん!何で別れたんだよ!?」
「俺がこんなウソつくかよ。それに、これはもう終わったことだからいいんだよ。やっぱ、情で付き合っちゃあ駄目だなあ。」
おいおい、どういうことだ?そんなの全然聞いていないぞ。というか、情で付き合うってなんだよ。
「へ、へぇ、そうなんだ」
「そうなのだよ」
恵介は眉一つ動かすことなく、淡々と言って携帯をいじりだした。コイツは嘘をつくとすぐ顔にでるからコレは本当の事だろう。
くそっ、なんで表情一つ変えずにそんなことが言えるんだ?それに、表情を変えさせられたのは僕のほうじゃないか。
この男、中野恵介は悔しいが、異性からはとても人気がある。身長が高く、容姿は凄く中性的で目鼻も整っているし、あごのラインもすらっとしていて髪の毛を伸ばせば女の子にも見間違えるほどだ。さらに性格が無邪気で明るく子供っぽいからこれでモテないわけがない。真実かどうかは分からないが、他校では、恵介の連絡先や写真が高値で取引されるという噂もあるほどだ。
まったく、神様ってのは実に不公平じゃないか。いや、この場合は我が家の家系を恨むべきか・・・。なんにしてもだ、唯一、勝っているものが学校の成績ぐらいだなんて全くもって割に合わない。う~む、男してなんだか情けなくなってきた。
ハァ、そんな自分の情けなさと、我が友人の軽さに呆れてため息をし、そのまま黙って外に目をむけた。
外の方はというと、雨の勢いはいっこうに衰えることなく、むしろ雨音が増したようにも思える。恐るべし台風・・・。
僕たちは話すことを止めた。今聞こえてくるのは雨の音と恵介の携帯を打つ音だけである。この時、僕は不思議というか、妙な気持ちが心の底から湧きあがってきた。なんでだろう?いつも見なれている当たり前の景色がなんだけど何かが違う。いつもの事が特別に見えて、不思議と懐かしく、そして急に心細くなってこの世界が儚く不安定なものに感じた・・・。
それは、いつもと違う天気だからかもしれない。
それは、いつもと違う恵介の表情を見たからかもしれない。
それは、いつも逃げていることに僕が立ち向かおうとしているからかもしれない。
だけど、僕はこの静寂な時間が嫌いではなかった。うまく説明はできないけど、なんだか心が落ち着く。
「それで、どうすんの?今日こそ佳奈ちゃんに頑張って告白するんじゃないの?早くしないと帰っちゃうよ」
恵介はまだ携帯をいじりながら、僕の落ち着きを奪い去った。
「うっ、ちょっと待てよ。まだ、心の準備が・・・」
恵介は相変わらずこの手の話は包み隠さずに言う。恵介曰くまわりくどいのは馬鹿らしく面倒くさい。それに、結局長々と並べただけで意味は変わらない、だそうだ。
成程、恵介にしては珍しくまともな意見だと思う。しかし、今回の場合はもう少し遠まわしに言ってくれたほうが気持ちが軽くなるのだが・・・。
何を隠そう、僕は今日好きな子に告白をする・・・・・・予定だ。
告白する相手は宮野佳奈。彼女は特別頭がいいわけでもなく、運動神経もごく平均的である。ルックスだってもっといい子はクラスにもいっぱいいる。好きになっていてこう言うのは失礼だが、クラスではあまり目立たない子である。
でも、僕にとってはそれで十分だった。
いや、少し違うな。そこが僕にとってはすごく、すごく魅力的だった。勉強なんてものは目標ができたらすればいい。運動なんて出来る奴がやればいい。
僕が、宮野さんに好意を抱いてることを知ってるのは恵介だけだ。他の人は知るわけがない、知られてたまるか。恵介が知ったのだって、僕が相談したわけじゃない。こいつが急に言ってきたんだ。「佳奈ちゃんに目をつけるなんて女見る目あるじゃん」って。
そのことをいきなり言われたときは、突然すぎて僕の脳が対処に追い付かず、言い訳しようにも、頭の中が真っ白になって話すことができなかった。
後で何故わかったのかと問い詰めたら、態度が他の女子と比べて、余所余所しいからまるわかりだったそうだ。それを聞いたときは、とてつもなく恥ずかしくて、顔が熱くなり、嫌な汗が体中から噴きだしたほどだ。
そして、この先のことを考えると、このままその話をネタにされ、僕はずっと笑い者にされると考てしまった。
さて、口封じの手段を買収か力づくかのどちらか二択にしようか冷静じゃない頭で必死に考えると、恵祐は僕の肩に腕をまわしてこれまた予想外の事を言ってきた。
「なぁ、俺にできることはあるか?」
それからというもの、どれだけ隠しても恵介は僕の心を見透かしたように僕の心情を言い当てて、おせっかいながらも的確な助言をしてくれた。
そして、自分でも驚きなのだが、気付いた頃には自分から相談してしまうほどに頼ってしまっていたのである。
だが、そこからが凄かった。やはり熟練者は違うというか手慣れているというべきだろうか。
恵介に素直に相談してからというもの、僕と宮野さんの進展は一人の時と比べて驚異的な速さだった。最初の頃はお互い顔を知っている程度だったのが、恵介の助言により、教室では挨拶や日常会話はもちろん、お互い冗談が言えるような仲にまでなったのである。そして、何より一番大きかったのが、宮野さんの携帯の番号を交換できたことだ。交換した日は余りの嬉しさでなけなしの小遣いで恵介に飯を奢ったほどだ。(あの日の恵介は僕のことをとても気味悪がってたが、全然気にならなかった。)
そして、決意を決めた今に至るのである。
さて、告白する!と意気込んではみても、どこでどういうことを言えばいいのか全く分からない。というかどのタイミングで言えばいいのか全く分からないのだ。そういうのは雰囲気でその場の流れと勢いだと恵介に言われたが、そんなの全然わかるわけがない。
「なぁ」
「ん~、なに?」
「そういえばさ、宮野さんっていつも真誠と一緒にいるよな?インターシップも一緒の場所だったしさ。なんか、俺が入り込む隙がないように思えないんだよね。どう思う?」
「・・・・・・」
僕が返事を待っても、恵介は黙ったまま携帯をいじったままだ。
「なぁ、そういえば、お前って傘持ってきてるのか?」
恵介が唐突に聞いてきた。
「んん?何だ突然?そんなの当たり前だろ、朝の天気予報で言ってたんだからさ」
僕の質問を無視して、いきなり関係のない話を持ちだしてきたので僕は投げやりに言った。その時に恵介の携帯から子供の頃にハマった懐かしいゲームのファンファーレが流れた。
「お、きたきた」
くっそ~、楽しそうに携帯をいじりやがって。というかその着信音いいな。あのファンファーレって確かレベル上がった時に流れるんだよなぁ。小さい頃は、あの音楽が流れる度に喜んだものだ。・・・って今はそんな事どうでもいいか。
それにしてもコイツ、自分から話を振っておいて、僕の返事に無関心とは。しかも、僕の質問にまだ答えてないじゃないか。
まあ、いいさ。対して期待をしていたわけでもない。自分でも情けないことを言ったっていうのはわかってる。これはただの弱音なのだから。
「雨、いつになったらやむんだろうな・・・」
ボソリと小さく呟いてみた。僕は時々考えてしまうことがある。本当に宮野さんのことを好きなのか?告白する気あるのだろうか?と。
きっと僕が抱いているこの気持ちは、今の呟きと一緒で凄く細く、小さいもので他の人にはわからないものだろう。だから、その気持ちをどれだけ振りまわし叫んでみても、届かなくて気付いてもらえることもない。そして、いつか、今の台風みたいな大きなものが突然現れて、僕の小さな気持ちなんか簡単に吹き飛ばして宮野さんを連れ去ってしまうだろう。
そしていつもこの考えの先は・・・。
それなら・・・最初から期待しないほうがずっとマシだ・・・・・・。
はぁ、情けないな、今日は帰るか・・・いや、今日も・・・か。
「俺、そろそろかえ・・・」
僕が席を立って鞄を掴もうとすると・・・。
「わかんねぇよ」
「え?」
何を言ってるんだこいつ?もしかして僕の呟きが聞こえてたのか?
「あ、ああ雨のことは一人言だから別にいいんだよ」
「なんのこと言ってるんだお前?まぁいいや、佳奈ちゃんのことだよ。俺に分かるわけないだろう、だって本人じゃないんだから」
「そっちかよ!というか人の話聞いてたんだ」
僕は自分の弱音にちゃんと応えてくれたことが素直に感心した。
「当たり前じゃん、いいか?大体だなぁ、確かに佳奈ちゃんは真誠といつも一緒にいるかもしれないけど、あいつの駄目さは天下一品だ。俺が女でもあいつだけは駄目。生理的に受け付けないわ。それに他の女子からも評判は良くない。というか何いまさらそんなこと気にしてんだよ。」
少し言いすぎな気もするが、今の僕は気持ちに余裕がなくなってきているので、それぐらい大げさに言ってくれたほうが気が楽だった。
「っていうことは、恵介からみて俺に勝機があるってことか?」
僕は恵介に訊いてみた。
「少なからず他の男子よりかは好感があると思うぞ。それに、ここまで来たんだ、今さら逃げんなよ」
恵介は右手を腰に当てて、左手はビッと親指をたてて、いつもの無邪気な笑顔をしながら笑いかけた。
そんな姿を見て、僕は、言葉が出なかった。いや、必要無かった。何故なら、先の事が怖くて逃げていたはずなのに、不思議と笑っている自分がいることに気付いたからだ。
すげぇ、すげぇよ恵介。僕が持ってないものを、僕がずっと欲しかったものをお前はずっと持っていたんだな。ああ、今になって気づくなんてな。僕のほうがずっと頭が悪くて馬鹿だったじゃないか。
「ったく、簡単に言ってくれやがって、こっちはお前と違って本気の恋愛しかしないっていうのに。それに、そのポーズださすぎ」
「んだと、俺が遊びの恋でもしてるっていうのかよ?そっちこそ、さっきまでビビってやがったくせに、よくそんなこと言えたもんだな」
まさに、売り言葉に買い言葉である。お互い本気で言ってないのは解ってる。この憎まれ口で僕たちには十分だった。
僕たちは、気持ちをそのまま伝えれるほど、純粋じゃないし素直でもない。素直に礼をいったりなんて恥ずかしいし悔しいので、絶対にいわない。
だから・・・僕は、言葉ではなく行動で示そうと思う。
「じゃ、そろそろ行こうかな。宮野さんもそろそろ部活が終わるころだろうし」
僕は、自分のカバンを掴んで席を立った。
「おう、やっとかよ、さっさといけいけ」
恵介は厄介払いするかのように手を払って追い出そうとしていた。
「言われなくても行くっての」
そう言って、僕が教室のドアを開けようと取っ手に手を伸ばした時に、ふと疑問に思った。
「あ、そういやさ、お前、なんでここまで俺に協力してくれたんだ?てっきり他の連中に言いふらして笑いの種にするものだと思っていたのに」
今さらだな、恵介は後ろ髪を掻きながらそう呟いた。その顔は少し困ったような、何か躊躇うような表情をしていた。
「たいした理由はないぞ?実を言うとだな、お前が惚れていることを知るずっと前に佳奈ちゃんに告白してたんだよ」
え?なに?いつの間に?僕は動揺して目眩がした。ん?まてよ・・・でも、ずっと前ということは・・・。
「まぁ、お前の予想通り、結果は惨敗だったね。もう一撃、ズバァって斬られた。佳奈ちゃんが侍だったら、切り捨て御免って言ってたなありゃ。あ、このことは誰にも言うなよ、周りに知ってる奴は一人もいないんだから」
恵介は手を刀のようにして、斜めに空を切りながらへらへらと笑って答えた。
ったく、相変わらずというか、打たれ強いというか・・・。でも、こいつはその失恋を一人で乗り越えたんだよな。結果だけをみれば、それはとてもださくて、かっこ悪くみえるだろう。でも、今の僕からしてみれば、少しもかっこ悪いとは思えなかった。
「なんだよ。だったら、俺はお前の敵討ちに行くようなものじゃないか」
「あれ?そのつもりじゃなかったのか?」
「なんでお前のために行かなきゃ駄目なんだよ、阿呆らしい」
「うわ、ひでぇ。お前は相変わらず口が悪いよな」
こいつと馬鹿なやりとりをしたお陰でだいぶ落ち着くことができた。
もし、うまく付き合うことができたらコイツに嫌というほどのろけを聞かせてやろう。きっと冷たい目でこっちを見るだろうな。話題を変えようと必死にもなるだろうな。それでも僕はたっぷりと聞かせてやろう。たくさん嫌がった顔を見てやろう。
覚悟を決めた僕は、ガラッと音を立ててドアを勢いよく開けると、目の前には予期しない人物がいた。
そこにいたのは、宮野佳奈とそれともう一人知らない女の子がいた。
「え?あ、あれ?どうしてここに?確か部活中じゃ・・・」
おいおい、こんなの聞いてないぞ?覚悟していたとはいえこんなの不意打ちすぎじゃないか。というか、僕の態度が不自然すぎてかっこ悪い・・・。一体何処にいったんだ?僕の覚悟は・・・
「いやあ、実はね、台風のせいで部活が中止になってさ。まぁ、早く帰れていいんだけどね」
宮野さんはいつも通りの軽い感じで僕に話しかけた。よかった。どうやら、不信感は抱いてくれなかったようだ。
「というか、二人ともまだ教室にいたんだね」
僕はなるベく自然に、いつも通りに、意識してないことを意識しながら声を出した。
「ちょっと二人で話してたら雨が降ってきてさ、帰ろうとしたら恵介が傘持ってきてないって言うんだよ。それで雨宿りに付き合わされてたってわけ」
もちろん嘘である。
「あ~、この天気で雨具無しは大変だよね。実は私も忘れちゃって・・・。でも、カッパなら職員室で借りれるみたいだよ」
「はっ、小学生じゃあるまいし、この年になってカッパなんて着れねえよ」
うん、それは僕も同意見である。そして、雨具には油性マジックで大きく学校名が書かれているだろう。
「それに迎えならもう呼んであるんだよ。なっ」
そう言って、恵介はもう一人の女の子のほうに目をやった。その子は恵介と眼が合うと、顔を俯かせながら少し恥ずかしそうに笑っていた。
え?何、その反応?まさか・・・
「さて、と、お迎えもきたことだし、俺達は先に帰るわ。じゃあな」
「じゃあね~」
恵介は女の子の手を握りながら、教室を出て行った。その姿を宮野さんが手を振って見送った。僕だけがその状況を察することができずにただ呆然としていた。
「ねえ、もしかしてあの二人って付き合ってる?」
二人の姿が見えなくなったので、僕は気になったことを訊いてみた。
「あれ、知らなかったの?確か二週間前から付き合ってたはずだけど」
初耳である。あいつめ、こっちの事だけしっかり聞いておいて自分の事は隠したままなんてのは不公平じゃないか。
「もしかして知らなかった?」
宮野さんが少し気まずそうな顔をして訊いてきた。
「全然知らないよ!あの馬鹿、一言もなしかよ」
まあまあまあ、宮野さんはそういって僕をなだめた。本気で怒ってないとはいえ、僕をなだめてくれるのは恥ずかしいけど、とても嬉しかった。
「あの子、あたしと一緒の部活をやってるんだけど、少し内気な性格なのよ。だから、気を使って誰にも言えなかったんじゃないかな」
以外だった。あいつがそんな子に手を出すなんて。いつもならもっと派手な子と付き合うのに。
「まあ、そういうことなら許してやろうかな」
まだ納得したわけじゃないけど、そういうことなら許すしかないじゃないか。
それにしてもずるいよな。自分はしっかり大事な人をその手で掴んでいるもんなあ。
「そういえば、この教室に傘があると中野君がいってたらしいんだけど、知らない?」
宮野さんは教室の中を見渡しながら訊いてきた。
「らしいって曖昧だなあ。そんなこと訊いたことないけど」
「そっか、残念だな。私も中野君の彼女から訊いたから、どこかで間違えちゃったかな」
ん、まてよ、そういえばあいつは迎えを呼んだといっていたな。もしかして、あいつ、宮野さんも傘がないことを知っていたのか。だとしたら・・・あいつが言っていた傘っていうのは・・・。
ふっ、ふふふ、あはははは
そっか、そういうことか。何だよ畜生、余計なおせっかいしやがって。
「な、なに、いきなり?大丈夫?」
ほら、見ろ。いきなり笑ったから、宮野さんが気味悪がっているじゃないか。まったく、お前のせいだぞ。
「ごめんごめん、ちょっと、あの馬鹿のことを思い出してね」
「ばか?馬鹿って、もしかして中野君のこと?」
おい、恵介、馬鹿だけで宮野さんに伝わったぞ。お前のことを馬鹿だと思っているのは、僕だけじゃなかったんだぜ。
「そうそう、恵介のこと。あいつ、馬鹿だけど格好いいよなと思って」
僕は心からの気持ちを口にしてみた。本人を前にしたら言えないことも簡単に言葉にすることができた。いや、きっと宮野さんがいたというのもあるかもしれない。
「うん、そうだね」
宮野さんは、目を大きく開いて驚いた表情をしながらそう返した。
「それにしても、びっくりしたな。まさか君が中野君のことを褒めるなんて。いつも悪口しかいわないから」
「うーん、そうだっけ?僕は人の悪口いうの苦手なんだけどな」
「嘘だ。いつも、言ってるよ。ばかだー、あほだーって。」
クスクス笑いながら僕たちのことを話す宮野さんはとても可愛かった。その姿を見ていると僕まで笑ってしまう。
なぁ、恵介――
ん、ごほん
僕は、わざとらしく偉そうに咳ばらいをした
僕はさ、お前みたいに堂々と自分の気持ちを大声で伝えれないや。だって似合わないし、柄じゃないよ。何より恥ずかしいじゃないか。
だけど、それでも、ちゃんと伝えたい人には伝えるからさ。僕の声は、小さくて風にかき消されてしまうけどさ、僕の声が聞こえないなら、聞こえる距離まで僕から近づくよ。
「あいつがいっていた傘のことなんだけどさ――」