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第40話 ギンロシの大陸の仙人⑭


 翌日、ミヨクは案の定、風邪をひいた。基本的に彼は出不精ですぐに世界の時間を止めて行動するので雨風雪に弱かった。


 従って彼はキースの町の宿屋で3日間を過ごす事となっ

た。


 なので余談を少々。


 ミヨクが喉の痛みに顔を顰め、氷嚢を額に乗せて寝込んでいたこの3日間、ギンロシの大陸ではいくつかの、その後が動いていた。


 天井の山の山頂では、全身の骨を砕かれたはずのエヌロクが、意識を取り戻すなり気合いと根性だけで身体を無理やりに動かして下山を開始していた。折れた骨同士が軋み、肉を裂く凄絶な音を立てながらも、彼は一切の悲鳴を上げなかった。ただその双眸には、自分を塵のように扱った絶対的な力への、どす黒く、それでいて純粋な復讐の炎を力強く宿していた。


 一方、山の麓ではハムラがたった一人で泥の中に転がったまま眠り続けていた。冷たい土の上で、彼は「……ぬいぐるみ……ずりーよ……」と呪詛のような呻き声をあげ、時折り眉間に深い皺を刻みながら、終わりのない敗北の夢にうなされていた。


 仙人は、ヌロクの執念の下山も、ハムラの悪夢もどこ吹く風で、温泉の淵でFF軍団の新しい水着のデザイン案を真剣に練り上げていた。次はもう少しフリルを増やすべきか、あるいは……。


 そんな大陸の、それぞれの因果を、ミヨクは一切知らない。


 ちなみに彼はその三日間、ゼンちゃんとマイちゃんに魂を与えなかった。


「……元気すぎるからね……。しかも2人は風邪をひかないから俺の現状が理解できないんだ……ゴホッゴホッ」


 ──その最終日、風邪がようやく治りかけて安眠ができるようになった頃にミヨクは夢を見た。夢の魔法使いによる予知夢を。


 それは例の如く、宇宙のような景色に文字がどんどんと拡大してきては、次々に消えていった。


 ハズレた!


 5分の1の確率を見事にハズシた時の魔法使いと可愛いぬいぐるみの2体!


 その分だけ時間が経過してラグン・ラグロクトの復活に間に合わないかも知れないのに……


 何をしているんだ、時の魔法使い! 何をしているんだ可愛いぬいぐるみのゼンちゃんとマイちゃん!


 結局は何だかんだと理由をつけてラグン・ラグロクトと再会するのを嫌がってるんじゃないのか?


 嘘つきなのか? お前は嘘つきなのか?


 行動が遅いぞ! 行動が遅いぞ! 時の魔法使い!


 仙人と長話をする暇があったら早く吾輩こと夢の魔法使いを探せ!


 時間がないぞ! 時間は無限じゃないぞ! 時間は有限だから……って、時間を時の魔法使いに言うのもアレか…………………… coming soon。


 ガーガーガー。


 ……ミヨクは眉間に皺を寄せながら起きあがると先ず言った。


「予知夢じゃねーよ!」


 と、声も高々に。


「──なんだよ、今の? ぜんぜん未来の話してないじゃん。過去の話してるじゃん。3日前の話とかしてるじゃん。俺を咎めてるじゃん。急かしてるじゃん。最後は自分に突っ込んでるじゃん。なんだよカミングスーンって? なんのカミングスーンだよ! くそう、やっぱりあいつ楽しんでるな」


 夢の魔法使い……確かに悪戯が好きな感じが伺えた。


 ちなみにミヨクはこの怒りの沸点にもより、風邪が完治した。


「……」



 ◇◇◇



 世界一目覚めの悪い夢を終え、そのせいで朝食も美味しくなかったけれど、それでもミヨクは気を取り直して船場に向かった。というのも、このギンロシの大陸には友好関係の国が幾つか存在感していて大陸外への航路が可能だったのだ。故にミヨクは風邪の治りかけという事もあり自前のボートよりもそちらを選んだのだった。


ミヨクにとって久しぶりの船(動力は風の魔法)は、ボートよりも静かで雨風も避けてくれて正に快適で、波の揺れに思わずうとうととしそうになったが、また予知夢という名の悪夢を見せられては堪らないので必死に耐えた。


 ──が、余興の何も行われない船で、船客は他にはおらず、海の魔獣に襲われたらなんとかしようと考えていたのだが、海は穏やかで、あと1時間くらいで目的地に着くとアナウンスがあった瞬間に、ミヨクはうっかりと油断して眠ってしまった。


 そして──


「ミョクちゃん、着いたよ。起きて、ミョクちゃん!」


 と、1時間後にマイちゃん(目覚まし時計用に魂を入れてあった)に普通に起こされた。


 あまりに普通すぎる目覚め。そこには宇宙も、拡大する文字も、吾輩を自称する煽り魔法使いもいなかった。


「……くそう。流れ的にまた予知夢があるのかと思ったら無いのかよ! 決して楽しみにしてた訳じゃないけど、なんか損した気分だよ!」


 ミヨクはベッドから跳ね起きるなり、寝癖のついた頭を抱えて叫んだ。わざわざ夢の魔法使いへのツッコミを喉元まで用意して寝たというのに、その出番すら与えられない理不尽。


「ど、どうしたのミョクちゃん? 嫌な夢でも見たの? 大丈夫?」


 マイちゃんが心配そうにミヨクの顔を覗き込んできた。


「マイちゃん……大丈夫……。寧ろ、夢が見れなかっただけだから。……というか、あいつ(夢の魔法使い)、俺が構えてる時に限って来ないんだよ。そういうところが本当に性格悪いんだ」


「そう? 見たい夢が見られないのは悲しいね。オラは寝たりしないからよく分からないけど、ミョクちゃんが大丈夫っていうならきっと大丈夫なんだね。よく分からないけど、分かったよ。えへへ、オラが起こしてあげたから、もう寂しくないね!」


 マイちゃんは、ミヨクの損した気分の核心を理解していなかったが、自分がミヨクを助けたという確信だけを持って、満面の笑みを浮かべた。


「……そうだね、ありがとうマイちゃん……」


 ミヨクは、向けられた無垢な善意に毒気を抜かれ、それ以上憤るのを諦めた。


「うん。なんかよく分からないけど、どういたしましてだよミョクちゃん」


 そう言ってマイちゃんは「えへへ」と笑い、再び窓から海の景色を楽しむのだった。


 ミヨクはもうだいぶ小さくなったギンロシの大陸の天井の山を見つめ、結局俺はアイツ(仙人)の気持ち悪い趣味(FF軍団)と、気持ちの悪い恋話をされただけだったな。長生き同士で仲良くしときたいけど、もう暫くは会わなくてもいいかな。樹海の気聖使いたちはやっぱり面倒臭いし……。としみじみと思うのであった。


 船は波を切り、次の目的地へと進んでいく。


 三日前の豪雨が嘘のように、遠ざかる大陸の空は晴れ渡り、穏やかな水平線が続いていた。



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