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第34話 ギンロシの大陸の仙人⑧


 彼がこの樹海に足を踏み入れたのは今から5年前の、35歳の頃であった。


 身体の丈夫な男で、更には幾つもの格闘技も経験し、その内の2つは師範代まで上り詰めた猛者であった。だが、そんな体力と忍耐力を兼ね備えた彼でも、気聖の有害に慣れるまでに3日かかった。


 ──やがて、身体の異常が回復した頃、体内の臍の部分に丸い卵のような熱を感じた。


 これが気聖だという事を彼は暗黙に悟った。


 気聖の使い方は樹海での初めての戦闘の時に長年の格闘経験による勘と、そして敵の迂闊な発言により理解に及んだ。


 例えるならば、肺に空気を満たすような感覚に似ていて、それを更に全身の先端にまで伸ばしていくような感じだった。


 最初は骨が保護されたような感覚だった。それが気聖の上限値が増加していく度に厚みを増し、やがて皮膚にまで到達すると、今度は硬度が高くなり始めた。


 気聖を相手から奪えると知ったのは、初勝利を収めた時の事。瀕死になった相手の体内から光の玉のような物が出てきてそれを彼が黙って見ていると、やがて瀕死の敵が声を出すのが辛いのに出させやがってという恨めしそうな顔をしながらこう言ってきた。


「……お前、気聖の樹海は初めてか……。負けたのは悔しいが、お前とは正々堂々と闘って悔いがないから教えてやる。いま俺の体内から出ていったその光の玉のような物は、俺の気聖だ。俺の今までに集めた気聖のその半分が、俺の今の身体の状態が瀕死だから、それを留めて置く力が弱くなった事により体内から出ていっちまったんだ。気聖を体内に留めて置くには身体の正常さが必要だからな」


 体内の気聖は身体の状態が正常でなければ留めて置けない。


「……体内から出て行った光の玉……気聖はどうなるんだ? お前の身体が回復したらまた戻るのか?」


 彼はそう質問した。


「いや、戻らないな……。体内から出ていった気聖は戻らない。それを俺たち──この樹海に居る者たちは、闘いに敗れた者の代償と呼んでいる」


 敗れし者へのペナルティ。


「──そして、その代償は更に敗者に屈辱を味わせるようにもなっている。その気聖…….俺の体内から出ていった気聖は勝者であるお前が奪う事が出来るんだ。手で触れてみろ」


 彼は言われるままに気聖に手を伸ばした。


 すると、途端にまるで血液が逆流するかのように体内に熱い何かが駆け巡ってきた。身体の疲労を一気に元気にしてくれるようなエネルギーの塊のような力が。激しく、強く。故に彼はすぐにこれが相手の気聖を奪う事だと理解した。


 ──が、ボンッ! ……いや、実際にはそんな衝撃音は鳴ってはいないのだが、止めどなくエネルギーの塊が体内に押し寄せてきて、彼はまるで空気を詰め込まれすぎた風船が破裂するように頭がパンクして気を失った。


「……ちなみに言い忘れたが、お前にはお前のリミッターってのがあるから、半分とはいえ俺の気聖の全部を奪えはしない。せいぜい10%〜20%くらい。お前に限らず誰もが奪える気聖の量は大体そんなものだ。それ以上は身体が受け付けない。今お前が身をもって知った通りだ。気聖は有害だからな。まあ、本当は言い忘れたわけじゃなく、勝者のお前にせめてもの復讐をしたかっただけだ。まあ、洗礼だ。初勝利のな」


 何はともあれ、こうして彼は気聖の使い方と気聖の奪い方を学んだ。



 ◇◇◇



 この頃、気聖の樹海には3000人以上の気聖使いたちが存在していた。内訳としては個人である者がほとんどであったが、中には複数人で行動をする集団もあった。


【剛気】。のように、魔法使いの魔法のように技名が付けられのは50〜60年前くらいのこと。最古にして最大数を誇る集団の先人者が名付け、そしてそれが広く知れ渡ったものであった。


 剛気とは単純に、気聖で体内の全てを覆った状態を初段階とした際の、次の段階の事を示した。


 ──これは気聖を浴び続けていれば(奪うも含む)当たり前の自然なパワーアップなのだが、なにせ最古集団の先人たちは呼び名を付ける事にこだわっていた。恐らくそうする事で上下関係を明確にしたかったのだろう、と今は考えられていた。


 簡易的な昇段(?)条件は次のようになっていた。先ずは【剛気】、これは気聖を得た初段階の状態で10人の敵から気聖を奪うか、それと等しいくらいの気聖を浴び続けたらそう呼ばれるよになり、続いての【倍剛気】は、剛気の状態で剛気レベルの敵の5人から気聖を奪うか、もしくはそれと等しいくらいの気聖を集めたらそう呼ばれるようになった。更に次の【三倍剛気】や、その次の【四倍剛気】、【銀剛気】、【金剛気】も昇段条件は似たものなので今は割愛を。


 ちなみに金剛気はこの樹海の中で強さ的に中位の役割も担っており、気聖使いたちは誰もが先ずはそこを目指した。


 金剛気から更に上位を目指す者たちは主に2種類に分かれた。そのまま純粋にパワーアップを重ねる者と、気聖を武器(説明が長くなるので今回は省くが、飛ばしたり、一箇所に纏ったりする事ができる)のように扱う者に。


 彼は純粋なパワーアップを求めた。全身を使って闘う方が自分の性に合うと考えたからだ。そしてそれが功を奏したのか、土台にある格闘技の上位者としてのしっかりとした実力も相まって、やがて彼は樹海の中で指折りの強者としての地位を築いていった。


 そして、樹海に身を置いてから3年後となるその日、彼はその日だけで自分と同格に当たる気聖使いの強者を一気に3人も倒して、遂に樹海を超える資格を得たのだった。



 ◇◇◇



【聖上高気】。


 ──それは気聖の生みの親である仙人が自ら名付けた由緒ある位。気聖使いの上級者を意味するのと同時に天上の山への入山許可証であった。


 ──その証明証は、体内に留めていた気聖がそれでも威力が溢れてしまい黒い蒸気として体外へと立ち昇る現象の事を示した。また、その立ち昇る黒い蒸気の数はその後の気聖の量の上限によって変化をし、そしてその本数が簡易的な強さを表し、いつしか誰かがそれを【高気】と呼び、聖上高気の語尾に、蒸気の本数とそれが付け足された呼び名が天上の山では一般的となった。


 つまり今の彼は、聖上高気一高気。と呼ばれた。


 高気は五十を境に、立ち昇る蒸気の色が黒から白に変わり、それをこれまた誰かが、【ナカゴエ】と呼び、それに伴い黒い蒸気の状態を【ナカマエ】と格差をつけて呼ばれるようになり、これもまた今では天上の山での一般的な名称となった。


 彼がナカゴエになったのは天上の山に入山してから一年後のこと。365日の中で100人以上の天上高気のナカマエたちと闘い、そして連勝を重ねた結果であった。


 そして、それから更に一年が経過した、本日。彼は──いや、ハムラはシルドナとの闘いの最中に魔獣アフロベアと謎の女子高生に遭遇したのだった。


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