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夜の影

作者: むのたのむ
掲載日:2025/12/29

短編小説:「夜の影」


夜の風が、路地を抜けて君の背中に触れそうで触れない。

僕はその場に立ち、影だけを落として見守る。

言葉にできない気持ちを胸に抱え、今日も君の帰り道を静かに追った。


君は少し大人になった。

笑顔も声も、歩き方も、全部少しずつ変わっていくのに、

僕だけはその場に立ったまま、変わらず同じ気持ちを抱えている。


触れられない手を握ることはできない。

話しかけることも、肩に触れることもできない。

それでも君の足音が揺れるたび、胸の奥がざわつく。

守りたい。だけど、守れるのは見えないところだけ。


月明かりが街を照らし、君の影が伸びる。

その影と僕の影が、たまに重なるような気がして、

小さく笑いながら立ち尽くす。

気づかれない、届かない。

それでも、守るという気持ちは消えない。


毎日君に会える。

それなのに、触れられない距離はいつもそこにあって、

すれ違うたびに胸が痛む。

言葉にできない想いが、夜の空気に溶けて、

ただ静かに君を包む。


夜が明けても、君は目を覚ます。

僕はそのまま、影としてそこにいる。

守ることしかできないけれど、

今日もまた君を見守る。


僕の存在は、気づかれないまま。

でも、心の奥では確かに、

君を守りたいと思っている。


同じ空の下、同じ道を、

僕は今日も歩く。



雨が止んだ夜、路地に濡れた光が小さく跳ねていた。

僕はその光の先に、君の歩く姿を追った。

言葉にできない距離の中、僕はそっと後ろから見守る。

傘のない君の肩に、雨粒の代わりに影だけを落として。


君は笑っていた。

傘を持ってくるのを忘れたと、自分を責めるように。

僕はただ静かに影を揺らし、そっと肩越しに温度を添えた。

気づかれなくても、守る気持ちは確かにそこにある。


ふと、君は立ち止まった。

小さな鳩が足元に止まり、夜の湿った空気をはらんで羽ばたく。

僕は微かに息を詰め、遠くで揺れる街灯の輪郭に目を凝らす。

守ることしかできない、触れられないもどかしさを胸に抱えながら。


家までの道を君が歩く。

一歩ごとに、僕の存在は透明になり、でも想いは影として重なる。

言葉も触れることもできない。

それでも僕は、君が無事に歩ききることを、誰よりも願っている。


家の扉が閉まる音が聞こえる。

僕は路地の角に立ち、影だけを振り返る。

雨に濡れた街は静かで、星の光が一粒、僕の瞳に落ちた。

その星に願う。

今日も君を守れたことを、誰も知らないけれど、確かにここにある想いを。

朝の光が街を淡く染める頃、君はまだ眠っている。

静かに寄り添い、影だけをそっと揺らす。

昨日までと変わらない景色、変わらない笑顔。

それでも、今日の風は少し柔らかく、未来の匂いを運んでいた。


歩道の隅に置かれた小さな花が、僕の存在を映す鏡のようで、

一度だけ、君の目に僕が映ったような気がした。

驚いた顔、少しだけ笑う唇。

心の奥で、守るだけでよかった日々が、

愛しさと切なさで光をまとっていることに気づく。


時間は静かに過ぎ、街の光が強くなる。

もう触れられない、届かないことを、

少しだけ、受け入れていいのだと思った。

守ることも、想うことも、記憶の中でずっと続く。


最後に一度、息を吐くように深く胸を緩める。

影が消えるわけではないけれど、重さはなく、

ただ光の中を漂いながら、君が歩く道を見送る。


君は気づかないまま、今日も笑いながら歩く。

僕はもう、ここで静かに、光の向こうへゆっくりと溶けていく。

守ることは終わらなくても、

僕の居場所はもう、君のそばでなくてもいい。


風に溶け、街に溶け、朝に溶けた影は

やわらかな光の中で、静かに微笑んだ。


ずっとみてたよ

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