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四神の枯れない花  作者: 月影 朧
玄武の花

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神と北山の住人


 男に促され屋敷の一部屋に通された。

暫くすると女性が一人茶を男と椿に出し、続いて男が二人部屋に入って来た。

椿の落ち着かない様子に男は微笑み

「そんなに身構えないでくれるかな?これから説明するから、その前に其方について聞きたい」

椿は頷き緊張しながら答えた。

「私は今回北山地方で起きている飢饉や行方不明を玄武様に治めて頂きたく生贄に選ばれた十七歳の椿と申します」

戸惑いながら深々と頭を下げた。

「もう分かって居ると思うが私が玄武だ」

椿と目が合うと玄武が微笑んだ。

そして部屋に居た女一人と男二人が自己紹介を始めた。

「俺達は先程、外で会ったね、狐の崑」

「僕は兎の卯吉」

髪が茶色くやや釣り目の男と白髪で目の赤い男が名前を言った。

長い黒髪に色白で細身の女が

「私は鶴です、三人は玄武様の身の回りのお世話をしています」

椿はまだ考えが追いついて居なかった。

「あの、本当に此処は玄武様のお屋敷なのですか?北山の頂上に来たのは分かるのですが」

恐る恐る聞いてみると玄武は笑いながら

「まだ信じられないと云う顔をしているね、残念ながら本当の事だよ。其方も亀に乗って此処に飛んできたのを覚えているだろう?」

「先程の狐、兎、鶴がこの方達で私を此処に連れて来て下さったのが玄武様」

椿は独り言の様に呟き状況を整理していた。

「現状を理解するのは困難だ、少しづつ理解してくれればいい」

玄武の言葉に鶴が部屋を出て行った。

鶴を見て椿は慌てて玄武に

「私は此処に来てはいけなかったのでは?」

玄武は首を傾げていた。

「鶴さんが怒って部屋を出て行かれてしまいました」

椿は泣きそうになりながら玄武に言った。

玄武、崑、卯吉は笑い始めた。

「椿の予想は外れていると思うよ」

暫くして部屋の襖が開き鶴が入って来た。

「椿様、お部屋と湯の用意が出来ました。どうぞ此方に」

椿は驚き玄武を見た。

「身体も冷えているだろう、ゆっくり温まって来なさい」

優しく言って微笑んだ。

鶴に促され屋敷奥まで着いて行き襖を開けると目の前には広い露天風呂が広がっていた。

「凄い」

椿の零れだした言葉に鶴は微笑み

「今日一日色々な事が有ったと思いますが、どうぞ心と身体を癒して下さい」

一礼して鶴は風呂場を出て行った。

着物を脱ぎ露天風呂に入り天を見上げた。

「奇麗、星に手が届きそう」

集落ではたまに武史と共に町の風呂屋に行ったが普段は身体を拭くだけだった。

身体を洗いゆっくり湯に浸かってから出ると着替えが用意されていた。

着替えて出ると鶴が待って居た。

「どうぞ此方に」

迷わない様に鶴に着いて行く

「此方が本日から椿様のお部屋に成ります」

襖を開け中に入ると布団が敷いて有った。

「この部屋の物は椿様がご自由にお使い下さい、箪笥には着物も入って居ます」

鶴が部屋から出て行き部屋には椿一人に成る。

「これは夢なのかしら?」

生贄候補に成ってからの日々から夢が続いて居る様な気持ちに成り椿は布団に入り目を閉じた。

「椿様」

椿が目を開けると朝に成って居た。

「あっごめんなさい」

鶴は微笑みながら

「良いのですよ、良く眠れましたか?」

「はい」

椿は恥ずかしくなり小さく答えた。

支度をして皆が待って居る部屋に入ると朝食の膳が出来ていた。

「椿様は此方に」

鶴に言われ腰を下ろすと

「椿の世界とは違うとは思うが食事は皆で囲むんだ」

「動物と一緒に食事は嫌だと思いますが」

玄武の説明の後に崑が申し訳なさそうに言った。

「何故ですか?食事は皆でした方が楽しいです」

人の姿だったからか椿は本心からそう思って居た。

玄武はそんな椿を微笑ましく見つめていた。

食事が終わり玄武と庭に出て話をしていた。

「玄武様、私はどうしたら良いのでしょうか?」

「と、言うと?」

「私は生贄として捧げられました。玄武様が死ねと仰るなら死にます、殺されるなら覚悟は出来てます。玄武様を始め鶴さん、崑さん、卯吉さんには昨日此処に来てから良くして頂きました」

真っすぐに玄武を見つめ言うと玄武は少し遠くを見て

「遠い昔は罪人などが殺されてから祀られた。生きた若い娘が生贄に成るとは考えても居なかった。私も今回の北山の事は調べてはいるが正直まだ分からないとしか言えない、昨日話したと思うがこれが自然に起きた事なら私は何も出来ない、調べるのに一年近く経ってしまっているのが申し訳ない」

悩んで居る玄武を見て椿は申し訳ない気持ちに成った。

「玄武様」

突然北山の麓に続く小道から猪が数頭急いだ様子で駈け込んで来た。

「どうしたんだい?」

「仲間が立ち入り出来ない区域で血だまりだけ残して数頭居なく成りました」

椿を見た猪達は怒りを露にして睨みつけた。

「人間が我ら仲間を喰うために殺して連れて行ったんだ」

椿は口元を抑え

「ごめんなさい」

振るえる声で謝罪した。

「何故、人間が此処に生きて居るのですか?」

怒りは玄武に向かった。

猪達が椿を取り囲み威嚇し始めた時だった。

「猪達、止めなさい。犯人は普通の人間では無い」

低い声のする方を見ると大きな狼が数頭近付いて来ていた。

狼の背にはまだ小さい猪が血だらけで乗って居た。

玄武は猪を背から降ろし板の上に乗せた。

「玄武様、僕達を襲ったのは確かに人の形をした男だった。でも、その場で仲間を喰う時、大きな口、鋭い爪、大きな目の人とは違う生き物に成ったのです」

玄武は生き残った猪から話を聞き何やら考えて居たが

「玄武様、傷の手当てをして下さい」

椿が玄武に頼むと玄武は首を振り

「自然が起こす事に手は出せないんだ」

玄武は悲しそうに言って横たわる猪の元に座り悲しそうな顔で

「すまない」

「良いんです、少しでも役に立てたなら十分です」

猪は目を瞑り静かに息をしていた。

椿は周りを見渡し走って庭と山の間に行った。

「椿様?」

屋敷から出て来た鶴が椿を見て慌てて椿の元に行った。

椿と何かを話鶴はまた屋敷に急いで戻って行った。

椿は両手いっぱいの草を持って帰って来た。

「何をしているのだ?」

板の上に薬草を置き石で擦り潰して居る椿に聞くと

「玄武様以外が手当して助けるのは良いのですよね?」

椿の言葉に玄武は頷く、水と布を持った鶴が屋敷から出て来た。

「椿様、これで宜しいですか?」

鶴の持って来た物を見て椿が頷き

「ありがとうございます」

それだけ言い着物を血で染めながら猪の手当を始めた。

崑、卯吉も頼まれた訳では無く自然に猪の体の方向を変えたりと椿を手伝った。

「お辞め下さい、着物が動物の血で汚れてしまう」

傷を負った猪が制止しようとしたが椿は聞き入れなかった。

手当てが終わった後、赤い小さな木の実を半分、それをまた半分にして猪の口元に出し

「これを飲んで下さい」

「それは毒の実では無いですか!」

見ていた猪が言うと椿は

「毒の実です、でもほんの少しなら薬に成る」

椿の言葉を聞き怪我をしていた猪は実を飲んだ。

椿は安堵した表情をして猪を撫でながら

「これで大丈夫」

「ありがとうございます、でも着物が」

申し訳なさそうな顔で言う猪に

「私にとって着物より命が大切です」

椿の嘘の無い行動と言葉に玄武は椿から目が離せないで居た。

椿が人間で有る事を嫌った猪は椿の元に行き

「同じ人間でも貴女は違った、仲間を助けてくれてありがとう」

「いいえ、間に合って良かった」

傷ついた猪は仲間に連れられて屋敷の庭から帰って行った。

「椿は医術の心得が有るのかい?」

見送りながら玄武が言うと

「いいえ、昔、近所に住んで居たおじいさんが薬草に詳しくて家に通って無理やり教えて頂いたんです」

椿は思い出したかの様に笑っていた。

「着物を勝手に汚してしまいすいません」

思い出したかの様に謝ると

「山の動物を助けてくれてありがとう、着物など幾らでも有る」

穏やかに微笑む玄武を見て椿の胸は高鳴った。

ふと椿が玄武を見ると深刻な顔をしていた。

「玄武様どうかなさったのですか?」

「いいや」

玄武は椿の問いに曖昧に答え

「寒いから中に入ろう」

屋敷へと歩き出した。

夕食が終わり玄武が

「すまないがこれから出かけて来るよ」

それだけを言い出かけてしまった。

「玄武様は何方へ?」

鶴に聞くと卯吉が

「多分、他の神達との会議では無いですかね?」

「他の神と」

椿は落ち着かない気持ちに成って居た。

中央山、頂上

「北山地方の混乱の理由は分かったのかい?」

「ああ、尻尾はつかめていないが生き残った者の話を聞いたよ」

玄武が他の神に話をすると

「でも何処からこの国に入って来たのだ?」

「それは分からないな、結界に亀裂が入っている気配は無い」

「噂に聞いたが生贄を捧げられたと?」

「ああ、生贄は今、我が家に居る」

玄武の答えに他の神々は驚き

「生きて屋敷に居るのか?どうするつもりだ?」

玄武は考えていると小さく答えた。

次の日、椿が目を覚まし台所に行くと鶴が朝食の用意をしていた。

「鶴さん、私にも手伝わせて下さい」

鶴の元に行き言った。

「しかし椿様に手伝わせる訳には」

「人里では貧乏な農民です、毎日やって居ました」

微笑みながら言う椿に鶴も自然と微笑み二人で支度をした。

その頃、北山の中腹では領主や神主が椿の様子を見に来ていた。

「領主様、此処に血の付いた手ぬぐいが落ちています」

「草履もそのまま置いてある、争った跡も、動物に喰われた様子も無い」

周りがざわついて居た。

「これは我らの望みを玄武様が叶えて下さるのでは無いのか?」

領主は頂上を見上げて祈った。

「おばば様に報告してくれ」

神主が付き人に報告に行かせた。

報告を受けたトキは涙を堪えて

「椿、良くやりました」

呟く様に言った後、文献に書き込み始めた。

「そんな、椿」

血が付いて居る手ぬぐいを受け取り事の詳細を聞いた武史は膝から崩れ落ちた。

「武史さん・・・」

花は武史の背をそっと擦っていた。

「今日は朝から賑やかだね」

台所を覗いた玄武が話しかけた。

「玄武様、おはようございます」

椿と鶴が明るい声で振り向いた。

食事の時も崑、卯吉が混ざり賑やかで楽しい食事だと玄武は思って居た。

食事後、玄武と共に散策をしていると

「昨日は仲間を助けて頂きありがとうございました」

椿が声のする方向を見ると猪達と他の動物が居た。

「その後はどうですか?昨日の木の実で熱は抑えられたと思うのですが」

「はい、熱は無い様に思います、傷口も化膿もして居ないと」

椿は胸を押さえ息を吐き

「良かった」

安堵の表情をしていた。

「俺達も怪我をしたら手当して貰いに行っても良いのでしょうか?」

動物達は玄武と椿を交互に見て言った。

「私は庭を貸すだけだから構わないが」

玄武が椿を見ると椿は

「勿論です、私に出来る事なら何でも言って下さい」

椿と動物達のやり取りも玄武には眩しく見えた。


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