迷霧
王都から歩くと半日から一日が掛かる距離だが、三分の一程なら負傷者を抱えていても3時間前後でカドセンの町に到着。門番の人達が機転を利かせて直ぐに九人を町の治療院に運んでくれた。
其処で、一旦、ヴィファレンツェの森に戻った。少しでも情報を得る為と、他の人が居る前で堂々と隠されたアイテムを回収は出来無いからだ。
その甲斐有って──と言うべきなのか、あの時の草原で[要石の破片]を見付けた。未知の物だが、結界を張っていた要石が役目を終えて砕けた残りと判ったので納得。やはり、意図的な隔離の様だ。
序に森の中を東へと進めば、ダンジョンを発見。此処は[森淵の緑洞]。ゲームでは二つ目になるが初回の序盤では攻略は不可能な敵の強さだったので知らなければ、即ゲームオーバーになる初見殺し。我ながら酷い製作者だと思う。
入ってもいいが、誰かが立ち入った痕跡は無い。攻略は日を改めてにしよう。
さくっと町に戻る。往復で1時間半。門番の人が滅茶苦茶驚いていたが気にせず助けた九人の状態を聞いてから治療院に向かう。改めて話を聞く為に。勿論、無理はさせない。
重傷者の男性三人と運んだ男性二人、女性一人は眠っていたが、残りの三人から話を聞けた。
纏めると、薬草等の採取、モンスターを追って、トイレに……と、理由は様々だったが、九人全員が街道を外れ、森に入った。
但し、単独とは限らない。話を聞けた女性一人は重傷者と運んだ男性二人と一緒で、この町で別行動だった仲間と合流する予定だったらしく、仲間達と無事に再会出来た事を感謝された。
話を聞いた後はギルドに。門番の人からも伝言でギルドに来て欲しいと言われた。此所のギルド長に直々の指名だったので逃げれない。
顔を出すと、あの受け付け嬢さんが走ってきた。そして笑顔で腕をガッチリとホールド。逃げたりはしませんが……男なので黙っています。
そのままギルド長の執務部屋に案内され、挨拶。ギルド長から、把握している情報を告げられたので此方等も情報の一部を伝える。説明出来無い部分は避けましたけどね。仕方が有りません。
「──では、その怪物を隔離する為の結界か……」
「聞いた限りでは彼等の中で一番長く中に居たのは重傷者の男性で一人、三日前です。ですが、結界の範囲だったのだと思われる彼方等此方等から合計で十三枚の登録証が見付かりました」
「…………半数近くは仲間から捜索依頼が出ていた冒険者だな。残りは一人だったのだろうが……」
ギルド長が頭を抱えたくなっているのも頷ける。このカードは所有者の冒険者が亡くなると死亡印が浮かび上がってくる。また、カードはモンスターが食べても砕かれないし、消化されずに排泄させる。そういう魔道具だから、時にはカードが命を救ったという話も有るからか、胸のポケットに入れている冒険者も少なくはないそうだ。
そんな訳で、カードの持ち主は全員死亡。遺体は見付からなかったし、彼等の装備品はモンスターが食べてしまう事も有る。勿論、見付ければ回収した者に所有権が有る為、盗みにはならない。だから、バレる嘘を吐く理由は無い。
問題はそんな事ではない。
亡くなった冒険者の中にAランクが一人居た事。Cランクも二人。助けた中にもCランクが三人。
つまり、そんな実力者を殺せる怪物を、一体誰が閉じ込めたのか、という事だ。
まあ、はっきり言って判らないけどな。
「……取り敢えず、下手な動き方は危険だろうな。有難う、ミヒラ。君が居てくれて助かった」
「あの九人だけでも助けられて良かったですよ」
「そうだな。特別報酬とランクアップが有るから、下で受け取ってくれ。それからランクアップの事になるんだが……」
「判っています。小冊子に記載されていましたし、変な前例は後の悪影響にも繋がりますから」
「個人的には今直ぐにでもSランクにしたいがな」
そう言って苦笑するギルド長に挨拶をしてから、あの受け付け嬢さんの所に。Eランクになり、特別報酬を受け取ってから宿に──と思っていた所で、馬車に乗せられ、あの御屋敷に。流石は町を治める貴族という事ですか。耳も行動も早い。
しかし、ベッドでは兎も角、御風呂も一緒なのは不味くないですか? ……優秀な子種は貴族として歓迎すべきもの? 元を辿れば、実力・功績を評価されたのが貴族だから……成る程。確かに。はい、判ってます。遠慮はしません。
屋敷を出て、森へ向かう。
男は振り返らない。
うん、奥様は仕方が無い。妊娠させたし、朝からイチャイチャしてしまったから。でも、既婚女性のメイドさん達が二十三人も群がるのは?
奥様が寝た後、「御許可は頂いております」って言われても、本人の意思確認は? そう言うよりも素早く押し倒され、流された。また全員妊娠です。マジで可笑しい! まだ[呪い]が有る訳っ?!
現実と──切り替える為に別の事を考える。
冒険者のランクアップは必ず一段階ずつ。絶対に飛び級は出来無いし、許可されない。これはゲーム由来なのかもしれない。自分が現実的に考えた時に同じ理由で禁止にしたから。
ゲームとは違うのは特別報酬。これは緊急事態や災害時の時に人命救助を積極的に行った冒険者への統治者や住民、ギルドからの感謝の証の様なもの。常に積み立てられているから財源には困らない。
まあ、復興等が必要な場合には装備品や魔道具が特別報酬となったりもするらしい。そう御風呂にて奥様が甘えながら話してくれた。
そんな事を考えている内に、森淵の緑洞の前に。街道を無視して直進すればねぇ……入るか。
中は蔓と土で作られた自然と人工物の中間的な、或いは混ざった様な不思議な作り。自分のイメージ以上の現実に感動する。
一本道を進むと十字路の部屋に出る。
其処で我が目を疑う光景が──いや、考えるより先ずは助けないとな。
体長1メートル程の緑大蟻[グリーンアント]を一掃し、囲まれていた女性を助ける──が睨まれ、拒絶する意思を見せられるが無視する。瀕死なのに見捨てられません。解毒用ポーションを口に含んでキスして無理矢理飲ませる。驚いているが、瀕死な事もあって抵抗も弱々しい……もう一本行っとく。疚しい理由ではなく、回復用のポーションをね。
「きき、きっ、きさ、貴様っ!」
「叫べる元気は戻ったな。あと、非常手段だ赦せ」
「助けてくれた事には感謝する。だがっ! その、し、舌を、アレだ……」
「誰かさんが「助けられる位なら死ぬ」という様な目をしていたからだ」
「ぅぐっ……」
屁理屈を前に黙る。真面目だな。
そして、男性経験は無い。多分、今のが初めて。可愛い事です。
しかし、それ以上に彼女の容姿が気になる。
淡い翡翠色の髪に、深い青の瞳、白い肌、巨乳、それなのに細い腰。控え目だが形の良い御尻。長く細い手足と、美人としか言えない。だが、何よりも特徴的なのは長い尖り耳だろう。
鑑定でも[エルフ]と出ている。だよね~。
ただ、ゲームにエルフは登場しない。亜人族系はドワーフにホビット、ネレイスにズゥマだけ。
仲間を、パーティーを用いないシステムだから、異種族のキャラは必要最低限だったから、エルフは構想段階で削られた。何か、御免なさい。
「此処で何を?」
「貴様には関係無い」
「確かに。それじゃあ、危ないから帰りなさい」
「私を子供扱いする気かっ?!」
「死に掛けていたのば何方等様でしょうか?」
「うぐっ……」
「ダンジョンに挑むのは勝手だ。だがな、引き際を間違えれば死しかない。命が有れば再挑戦も出来る可能性が残る。有り触れた言葉だが、こういう時は退く事も勇気だと思うがな」
「…………だが、私はっ……」
「その退けない理由は命を掛ける事かもしれないが死んだ後、それを引き継ぐ者は居るのか? 居ても同じ様に無意味に命を捨てさせ続けるのか?」
「──っ、それはっ…………」
「話せないなら構わないが、せめて助けられた命を大切にする為に身体を休ませてから再挑戦しろ」
「それでは遅すぎるっ!」
「…………」
「……済まない。勝手な事ばかり言って……」
「……秘密は守ると約束する。何が目的だ?」
「貴様には……」
「死に掛けの命を掛けるよりも、俺の方が可能性が有るだろう? だが、目的が判らなければ何を必要としているのかも判らない。どうする?」
「…………今、私の里の者の殆どが謎の病によって苦しみ、死に瀕している。その病を治すには一族に古くから伝わる、此処の奥に有る薬草が必要だ」
「その薬草の名前や見た目は?」
「[モヴェア]と言い、丸い一枚葉で茎が長い」
「判った。安全そうな場所で待っていろ。それと、これはモンスター避けだ。休む時に使え」
「…………何故だ? 何故、会ったばかりの私に、そこまでしてくれる? 何の得が有る?」
「……まあ、自己満足だな」
「……それだけで?」
「誰かを助ける時に彼是考える奴は居ないだろ?」
「…………そうだな」
小さく笑い、背を向けて出て行く彼女を見送り、先に進む為に切り替える。
このダンジョンはモンスターも強いが、ヒントを記した古文書を読んでいなければ先には進めない。この部屋は[迷いの霧]という魔法が掛かっているゲームには定番の迷わせ仕様だからだ。
その為、序盤での攻略は難しい。
右、左、左、上、下、右、下、上、左、下、下、左、右と13回。正しい順番で進むと、先へ。
下が地味に引っ掛けで指定以外の時に下に行くと外に出る。違う通路に入った後、外に出てリセットしないと無限ループ化する仕様。ははっ、鬼畜だ。
因みに進む先は固定されているが三ヶ所の通路は繋がっている為、逆から入る事は出来る。その時は再度迷いの霧を抜けなくてはならない。
通路は左と直進の二手に分かれているが、直進。この先は行き止まりだが、宝箱が有る。回収したら戻って左の通路を進む。
同様に左と直進の分かれ道に来るが今度は左へ。その先に広い空間が有り、正面の右奥に先に繋がる通路が見える。だが、敵を一掃したら、左奥の壁に購入していた鶴嘴を振り下ろす。すると、壁が崩れ隠し通路が現れ、先の空間に敵と宝箱。
戻って、直進の方の通路へ。進んで行くと今度は直進と右に分かれる。直進すると行き止まりだが、壁には判り難いボタンが有る。それを押して戻り、右の通路を進むと左右に分かれる。左に進むと右と直進で、先に直進。壁を崩した所の右奥と入り口の正面の通路に繋がっている。
戻って右に進み、分かれ道を左へ。突き当たりでボタンを押し、戻って直進。十字路に。左に進むと入り口正面の左に出るので要注意。直進するが先は行き止まり。ボタンも無い。しかし、目の前の壁は条件を満たしていると通り抜けられる。暗闇の中を進むと足元に宝箱が有り、回収。
尚、条件はレベルが80以上で、ゲーム開始から十日以内というもの。
奥に進み、もう一つボタンを押し、宝箱を回収。その先に有る空間の敵を一掃したら、角に有る光る魔法陣に入る。すると転移する。ボタンは魔法陣を出現させる為の準備。マッピングも必要条件。
転移した先は巨大な空間で敵が犇めく。ゲームは四分割されたマップだったが現実は一つ。巨大さに感動しながら一掃すると、新たな魔法陣が対角線の角に出現する。魔法陣は一方通行の一回のみ。
転移先は長い一本道。敵を倒しながら進めばボス部屋に到着。ボス[エメラルドクイーンアント]に何もさせずに瞬殺。ボス部屋にモヴェアが有る為、暴れられては困るからだ。
自然ではないので有るだけ採取し、ボスを倒した事で出現した魔法陣に。迷いの霧の掛けられた部屋の真ん中に転移するので、そのまま外に出る。
「……本当に一人で攻略したのか」
「よく判ったな?」
「後ろを見てみろ。このダンジョンは攻略されると出入口が消滅する。孰れ、再び姿を現すそうだが、それは遠い未来の事だ」
「成る程な」
はい、ゲームと同じ仕様・設定です。余計な事は言いませんけど。高難度にした理由です。




