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怪物


 スキル・アビリティ、装備品による身体能力への強化補正は無い。それなのに10分と掛からず村に辿り着ける自分に呆れる。

 森を抜け、村の出入口に出た所で驚く。

 5メートルは有る外壁の高さと変わらない巨大な怪物が其処に居た。しかも、見覚えが無い。

 鑑定で[スパンキー・ドゥーム]と出るが、名前以外の情報が無い。

 その見た目は濁った緑・紫・灰・水色の混ざったヘドロを頭から被った巨人。手足は二本ずつだから一応は人型だ。身長の三分の一にもなる大きな頭は巨口と、洞窟の様な窪み(・・)。その暗闇の奥には怪しく光る赤い球体。恐らくは眼なのだろう。

 パッと見では、アンデット系か、土属性の存在。ただ、この辺りには存在しない筈──だが、彼是と考えるのは後回し。先ずは倒す。

 ──とは言え、攻撃スキルも無いから物理攻撃が効かなかったら手詰まりなんだけどな。



「────効いたっ!?」



 取り敢えず、人の胴体位の太さが有る指を試しに攻撃して見たら、切り落とせた。自分でも驚く。

 地面に落ちた指は溶解しているかの様な白い煙を上げている──が、地面は無事。指は消えた。

 少し離れた場所で鍬や鋤を持っている村人を見て叫び、遠ざける。巻き込まない(・・・・・・)為に。


 切り落とせば消えると判れば、遣る事は単純だ。兎に角、斬って斬って斬りまくる。

 当然ながら抵抗はされるが、プレリューデア達と比べれば鈍い。ただただデカイだけの的だ。

 どんどんと斬り削り、縮小していって──最後は人の頭と同じ位の大きさの眼に見えていた赤い塊を貫いて砕いたら完全に消え去った。

 結局、最後まで何の情報も得られなかったな。



「村の方々は?」

「は、はい、幸いにも軽傷者が少し出た程度です。村を助けて頂き、有難う御座います、勇者様」

「そうですか……もし良ければ、少し話を聞かせて頂きたいのですが……」



 そう言って砕けた神殿を見る。素人目に見ても、再建には時間が掛かるだろうな。勿論、勇者が降臨する場所なのだから、王国が本気で再建する事とは思うが……確証は無いしな。

 それ以外は一番近い筈の村長の家等も無事な様に見えるし、黒煙等も上がってはいない。

 見えていた黒煙も神殿からだった様だ。


 視線と態度で心配し、気遣っている体を装う。

 悪いが深く関わるつもりは無い。王国が絡むなら面倒なだけだからな。



「少し時間を頂く事になりますが……」

「大丈夫です。先ずは村の事を優先して下さい」

「有難う御座います。それでは、私の家の方に案内させますので御待ち下さい」

「判りました」



 そう言うと村長は近くに居た若い男に声を掛け、案内する様に告げ、各々に移動する。

 村長宅に着くと若い男が村長の奥さんに説明し、挨拶をした後、御茶を出してくれた。美味い。

 思い返したら、森リンゴと川の水しか口にしてはいなかったからなぁ……何してるんだろうな。




 村長の奥さんと雑談をしながら1時間程待ったら村長が帰宅した。一先ずは問題は無いそうだ。



「率直に御訊きしますが、アレ何ですか?」

「……私共にも判りません」

「神殿が壊れていましたが、村の他の場所は無事な様に見えました。それはつまり、アレは神殿内から現れた、という事になります。そうなのだとすれば勇者の様に神殿に現れたか、神殿に封印されていたという可能性が高くなりますよね?」

「いいえ、そうでは御座いません。アレは神殿へと持ち込まれた物からで現れたのです」

「持ち込まれた物?」

「はい。少し話は逸れるのですが、この村に限らず多くの村の慣習として空き家が出来ると数年経てば新しい者が入り、生活をします。そうして限られた土地を無駄無く使う様にしているのです」

「良い慣習ですね」

「有難う御座います。村の南側──丁度、我が家の真南に一軒の空き家が有り、其処に若い夫婦が入る事になり、傷んだ部分を修繕していた所、床下から土に埋まった古い壺が見付かりました」

「……それを何故、神殿に?」

「空き家になると家財道具等は全て運び出します。我が家の隣に有る村の倉庫に収納し、村の中で使う様にしています。ですから、滅多に空き家から物が見付かるという事は無いのですが……」

「その壺が見付かった、と」

「はい。他には何も見付からず、その壺だけだったという事で村の者が気にした為、神殿に暫く安置し浄めて頂こうと……」

「あの神殿には浄化の力が?」

「ああいえっ、気持ち的な意味で、で御座います。神殿は元は何処にでも有る礼拝堂でしたが、十年前から勇者様が御降臨される様になり、国の方から神殿と呼ぶ様に言われましたので……」

「ああ……神聖視し、崇めていた訳ですね」

「はい。ですから、特には何も御座いません」

「その壺はどうなりましたか?」

「神殿の最奥──私が皆様に御説明をしていた時に立っていた場所になりますが、其処に置き、神殿を出ようとした所で壺が光り出し、罅割れ始め、砕け散ったら光が弾け、神殿が崩れました。私共は光が弾ける前に神殿を出ていた為、無事でしたが……」

「アレが壺から現れて神殿が崩れたのではなくて、神殿が崩れてから、アレが現れた訳ですか?」

「はい。崩れた神殿を見詰め、茫然としていた時、神殿の瓦礫の隙間から染み出すかの様に、不気味な泥の様な物が現れ……あの様な姿へと……」



 思い出して身震いする村長。気のせいか、顔色も青くなっている気がする。そうなる気持ちも判る。アレは気色悪かったし、想像すれば……うん。

 それはそれとして壺は砕け散ったのなら、回収は難しいだろうな。鑑定で探しても見付かる可能性は低いだろうし、周回特典の岩の様に何の情報も無い砕けた壺の破片になっているかもしれない。

 探しても無駄になる可能性が高い壺よりも、壺が見付かった空き家を調べる方がいいだろう。



「壺が見付かった家は見られますか?」

「はい、それは大丈夫ですが……」

「不安なのも判りますが今調べておいた方が後々の不安を払拭する事にも繋がる筈です」

「……そうですね。判りました」



 覚悟を決めた様な表情の村長に案内され、目的の空き家へと向かう。

 出る前に「我が家に御泊まり下さい」と言われ、御世話になる事に。宿は無いし、流石に野宿をするというのも悲しかったから嬉しい。何事も無ければ野宿でも仕方無かったんだけどな。


 西の空が微かに赤く染まり始める中、会う村人に御礼を言われながら、数人が腕組みしたりしながら見ている家の前に到着する。

 頭を下げる村人に村長が説明し、中に入る。

 壺を発見した場所を見せて貰ったが……普通だ。特に何も可笑しな所も無く、鑑定や探知でも怪しい場所は物も見付からなかった。



「此処が空き家になったのは?」

「え~と……確か、十年程前になります。此処には母親と息子が二人で暮らしていました。村の中でも優しく働き者な息子でしたが、亡くなってしまい、母親も程無くして……」

「……その後は、ずっと?」

「はい。丁度、結婚する者も居なかった為、長らく空き家となっていた訳です」

「父親は?」

「子供が幼い時に……」

「その親子──夫婦が家に入る前は?」

「父親の両親が住んでいました。その為、あの家が空き家になる事は無かった筈です。少なくとも村の記録には残ってはいなかったと思います」

「そうですか……見た所、特に可笑しな様子も無いみたいですから、偶々だったのでしょうね」



 そう言えば、村長達は安堵した様に息を吐いた。取り敢えずは目的は達成したと思うとしよう。




 村長宅で食事と風呂を頂き、客室で休む。以前に降臨した勇者達により風呂の文化が広がったそうでカーンタラ村も村長宅と共同浴場が有るらしいし、料理等にも色々と影響を及ぼしている様だ。


 そんな事を思い出しながら今日の事を考える。

 あの空き家はゲームでは主人公の家で、主人公は母親と二人暮らし。父親は幼い時にモンスターとの戦いで亡くなったという設定。合致する。

 しかも、その死後に最初の勇者達が降臨したなら死んだ母子の怨念? ……流石に可笑しいか。


 だが、偶然にしては出来過ぎているとも思う。

 ……考え過ぎなのかもしれないけど。


 気になる事は、其処を村長達は結び付ける思考をしてはいないという事。説明してくれていた時にも気付いた様子は無かった。不自然だ──が、外側の自分達だから気付く、という可能性も有り得る。


 それと似た様な事で、壺の事も気になる。

 村長達は“古い壺”と言っているが発見した時に土に埋まっていたから、という理由ではないなら、その見た目という事になる。現在は使われていないデザインとかでも判断は可能だからだ。

 しかし、話を聞いた限りは欠けたりしていた様な感じではないし、あっさり土も落とせたみたいだ。そうなると、所謂“出土品”らしくはない。

 勿論、異世界で、特殊な技術や素材が使われたらあり得ない事ではないだろうけど。


 …………考えても情報が少な過ぎるか。止めた。さっさと寝よう。明日からは野宿かもしれないし。ベッドで寝られる時には寝よう。

 ──と、その前にステータスを確認しないとな。アレを倒した事で経験値が入ったかもしれない。



「────え?」



 レベルは1、総獲得経験値も0のまま。

 しかし、[呪い]という未知の状態異常に。表示されているのが状態異常の表示欄だから状態異常と思っているが……違和感や異常は感じないな。

 【状態異常完全無効】が効かないのなら、これは無属性の効果か? 無害そうだが……様子見か。


 あと、短剣に【吸魔】のアビリティが付いている事にも気付いた。与ダメ時に相手の魔力を吸収して自分の魔力を回復が出来るのは有難いな。

 装備品や魔道具にはスキルやアビリティが備わる物も有るけど、基本的に稀少だから貴重品となる。バレたら厄介だ。気を付けよう。


 色々と気にはなるが考えるのは止めて寝る。




「勇者様、昨夜は御楽しみ頂けましたかな?」



 そう言う笑顔の村長を殴りたい。マジで。

 御約束の台詞を言っただけの冗談ではない。


 夜中、寝ていた所に違和感──気配を感じたから起きたら、女性達が居た。そう複数でだ。ベッドを囲み、立っていたり、腰掛けていたりと。

 「……え?」となっている間に一人にキスされ、起こした身体を押し倒された。抵抗すれば出来たが怪我をさせるかもしれないから、取り敢えず話して状況の説明を求めた。冷静だったと思う。

 すると、そういった風習なんだと言われた。村を長く存続させる。その為にも村に災いが起きた時、救い主が男の場合は子種を貰うのだとか。

 その対象は十三歳から二十八歳の妊娠していない既婚(・・)女性全員。今回は十六人。

 全員が経験者だし、夫との子供、村の子供として育てるから気にしなくていい、と言われた。

 それでも断りたかったが……無理だった。

 夕食に一服盛られた様で、ギンギンだったから。女性達は大悦び。

 そうか……そういう方向には効かないのか。

 ──という発見をしながら押し負けた。激しくて激しくて濃厚な夜でしたよ!

 自分も経験者だから流されたし、【自己治癒】を使ったら逆に元気が増したから自棄糞になったのは墓場まで持って行く。

 今朝、女性を鑑定したら昨夜は何も無かったのに全員が[妊娠]って出てましたよっ! 全命中って確率的に可笑しくないっ?!


 “勃つ勇者、後に種残す”──笑えないっ!!


 そんなこんなで、村人に見送られながら旅立つ。村人からしたら、一度戻って来た事になるだろうが自分にとっては漸くの旅立ちになる。

 なっ! のっ! にっ!

 何故、こんなにも靄々した気持ちで旅立ちをする事になってるのかなあっ!? 自業自得だけどっ!!


 だが、今回の事で学んだ。今後、もしも村を救う様な事が有った時は夕食は絶対に鑑定するし、可能であれば村には留まらずに離れる。

 男としては悪くはないが、個人的な価値観として精神的に順応し難い。慣れたら駄目な気もする。

 兎に角! 同じ過ちは繰り返さない事を誓う。



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