魔洞
バスケットボール程の大きさの丸いモンスター。それがプレリューデア。
攻撃時や加速時には転がったりするが、通常時は空気の抜けたボールの様になって地面を移動する。顔──目や口等は存在してはいない。自然の摂理の中に在る訳ではないからだ。
車のホイールスピンの様に、その場で回転をして砲弾の様に跳んできたプレリューデアを避け、隅で動きを止めている一匹を狙い──倒す。
短剣による一閃。
一撃で倒せるのは、引き継ぎによって強化されたステータスと、偶々入手した武器の御陰だ。
倒した後に残された銀貨を拾い上げると、ざっと見回し、殺る気に満ちたプレリューデア達を残し、一目散に通路に飛び込む。
最初の部屋から伸びている通路の先はと3×3のマップの下段中央に出る。
この九つのエリアを移動するとプレリューデアが無限に出現する仕様。各々のエリア──部屋を繋ぐ通路にプレリューデア達は入れないから追わる事は無いので簡易的な安地となる。
勿論、だからと言って油断はしない。ゲームとは違うかもしれないのだから。
銀貨を収納し、その枚数──倒した数を確認。
「今ので三十四匹、と……」
まだ始めたばかりだが……先は長そうだ。
そう思いながらステータスを見る。レベルが有る事は判っていたし、総獲得経験値も判る。
だが、レベルは1。総獲得経験値は0のまま。
まあ、当然と言えば当然だが、プレリューデアは倒しても経験値は獲得出来無い。だから、レベルは上がらないのは当たり前だ。
それなら、此処は何の為に存在するのか?
それはスキルとアビリティを獲得し易くする為。今所有しているスキルの様な入手方法は稀な事で、殆どはゲームを進めていく中で経験──行動と結果によって獲得するもの。そう設定している。
例えば、スキル【力溜め】は使用直後から攻撃も防御も行ってはならないが、一定時間を過ぎた時、次の行動──攻撃も防御も威力が倍に成る。
これを獲得する為にはレベルが20以下の状態で一定時間ノーダメで戦い、敵をクリティカルで倒すという条件が設定されていた。
例えば、アビリティ【剣撃強化・小】は剣を装備した状態でモンスターを千体倒す事で獲得出来る。しかし、一度でも装備──武器を変更したり外すとカウントがリセットされるし、ゲーム内での時間でカウントし始めてから丸五日が経過するとリセットされてしまう。更に倒したモンスターが十種類以上でなければならない。
つまり、条件を知り、尚且つ、強くないと強力なスキルやアビリティは獲得出来無い。
勿論、ゲーム内に獲得の為のヒントは存在する。考えて、試して、頑張れば探し出せる。
だから、周回が前提のゲーム構成となっていた。まあ、遣り込み要素という事だな。
そんな獲得が難しい上位の中でも通常プレイでは絶対に不可能な物が有る。
アビリティ【火の天恵】は火属性攻撃が五倍に、火属性防御が完全無効となる。
その獲得方法は火属性のモンスターを連続で百体倒すというもの。但し、カウント開始からゲーム内での日付が変わってしまうと失敗。二度目のチャンスは無い。
その性能に相応しい難易度だ。
通常、見た目ではモンスターの属性は判らない。序盤のモンスターは無属性が殆どで、属性を持ったモンスターは見た目も判り易いが数が少ない事から連続で百体も倒す事は不可能。時間も足りない。
それを可能にするのが、鍛者の魔洞。
出入りで時間は経過するが、此処の中は完全隔離された空間の為、時間経過が存在しない。
【鑑定】が有ればモンスターの属性が判るので、確実に狙って連続させられる。
その上、プレリューデアは見た目は全て同じだが属性はランダムであり、必ず、一部屋に最低一割は同じ属性が存在する設定となっている。
火・水・風・土が基本となる四つの属性。だから最大は七割、最低が一割となる。
当然だが、【火の天恵】だけではない。
同様に【水の天恵】【風の天恵】【土の天恵】が存在するので、それも狙っている。
彼方等此方等へと移動しながらプレリューデアを倒して【火の天恵】を獲得し、一旦、最初の部屋に戻って休憩する。森リンゴを齧り、拾った枯れ木を削ったコップに川の水を入れて飲む。火照ってると冷えたままなのが嬉しいな。
「……ゲームとは違っていて助かったな……」
入ってきて部屋を確認した時、通路と反対の壁に見た目から「御帰りは~此方等へ~」と言っている歪みが有った。アレに入るのだと判る。
ゲームでは、この部屋に一度でも戻ると強制退場という仕様だったので、休憩が出来るのは有難い。村の神殿から全く休んでは居なかったから。
プレリューデアを倒し続け、四つ全てを獲得。
すると、一つに自動統合されて【四元の天恵】に変化し、アビリティが四つから一つに減少する。
実はこれが物凄く重要。
何故ならスキルもアビリティも最大で八つまで。それ以上は獲得は出来無いし、上書きもされない。数を減らし、空きを作る方法が“統合”となる為、正しく組み合わせる様に計画的に獲得をしなければ上位のスキルやアビリティは獲得出来無い。
そんな訳で第一段階はクリア。
【四元の天恵】を獲得した事でプレリューデアの属性が光・闇・氷・雷に変化し、50%強化され、倒し難くなる。当然、これも仕様だ。
各々を連続百体倒すと各天恵を獲得出来る。
そして、プレリューデアが星属性に変化し、数も全体で百体だけになる。最初の三倍の強さとなるが倒し切ると【星の天恵】を獲得。
この時点でアビリティは六つだが、統合される事によって【九耀の天恵】となる。統合された九つの属性を完全無効化するのは変わらないが、攻撃は十倍まで強化される。
そう、こういったスキルやアビリティが無ければ真のエンディングには絶対に辿り着けない仕様だ。自分で作ったゲームだけど、可愛気は無いな。
【九耀の天恵】を獲得すると、プレリューデアは全て無属性に変わる。無限出現に戻るが、初期時の二倍の強さとなっている。
因みに、無属性は攻防共に強化が不可能な仕様。ただ、無属性に限定しない防御スキルやテクニックというのは有る為、問題ではない。
また、星属性のプレリューデアは倒すと新たには出現しない特性を利用し、部屋の中で一体だけ残し攻撃を短剣で受け流す。
これにより、スキル【防御】を獲得する。
レベルが9以下で、同一個体のモンスターからの攻撃を連続で百回、ノーダメで防ぐ事が条件な上、モンスターの攻撃間隔が5秒以上開いた時点で強制リセットされ、その個体では遣り直せなくなる。
【防御】は使用するタイミングや効果対象範囲がシビアだが、完全防御が可能なスキルなので有用。条件が条件の為、入手も難しい。
無属性を百体倒すと新たなアビリティ、スキルを獲得する。
アビリティ【自然治癒】は体力や魔力、状態異常を自動で回復してくれる。多少、時間は掛かるが、常に無償で効果が働くので地味に助かる。
スキル【自己治癒】は魔力を消費し、状態異常と体力を回復する事が出来る。体力の回復量は総量の一割だから、状態異常対策がメインだ。
スキル【探知】は文字通り、一定範囲内の存在を探知し、把握する事が出来る。ゲームでは一定時間画面上に専用のウィンドウが表示されたが、現実は頭の中に表示される感じみたいだな。平面・立体と使い分けられるのは便利だ。
プレリューデアを千体倒した事を行動に状態異常攻撃が加わる。それを態と受ける事でアビリティを獲得してゆく。
【毒耐性・小】【麻痺耐性・小】【催眠性・小】【混乱耐性・小】【狂化性・小】【魅力性・小】の六つだが、状態異常は他に火傷・凍傷・石化・暗闇が有るのだが、各々が火・氷・土・闇の属性なので既に無効化されている。
アビリティとしては各耐性は存在する。
【自己治癒】と【自然治癒】で回復していると、各々が小から中、中から大に効果が上昇する。
これはアビリティの昇格。より高い効果となり、冒険の助けとなってくれる訳だ。
六つ全てが大になると【状態異常耐性・小】に。更に戦い、大にする。
此処までの間に、状態異常になりながらも一度も体力が総量の半分以下に成らず、千体倒す事により獲得出来る【即死耐性】と統合され、あらゆる状態異常と即死を防ぐ【女神の寵愛】を獲得する。
尚、火傷等の四つの耐性は統合されない独立物。その為、入手すると確実に一枠が埋まる事になる。だから、知らないと回避は不可能。
さて、此処での目的は達成したので帰ろう。
「──と思った矢先に、現実は厳しいって事を思い知らされるものなんだよなぁ……」
あの小部屋に繋がる通路を塞ぐ格好で居座るのはゲームには存在しなかった巨大なプレリューデア。鑑定すると[エンシェントプレリューデア]と。
……無属性の上に、手下となるプレリューデアを生み出すのか。面倒臭いな。
だが、その能力は魔力を消費する。魔力の回復は出来無いみたいだから有限。持久戦か。
通路を塞いでいるから動かないから楽だった。
プレリューデアは属性も強さもランダムらしく、其処まで苦労はしなかった。一度に生み出せる数も十体までだった事も有り魔力切れまで持ち込み、どうにか倒せた。経験値は得られなかったが。
「白金貨か……これもゲームとは違うな」
エンシェントプレリューデアが残したのは白金の通貨で、1枚で100万イェン。ゲームに無かった物だな。尚、所持金の上限は1億だった。
それと、[太古の輝跡]という直径5センチ程の不規則に虹色に変色する宝玉の様な物もだ。ただ、これは鑑定をしても情報が少ない。未知の要素だ。面白い。こうでなくては異世界感が無いよな。
尚、生み出されたプレリューデアの方は倒しても何も残さなかったが、魔力で生み出されたのだから当然と言えば当然か。
念の為に、もう一周してから──と思ったのだが気付いたら他の通路が消えていた。
「ほら、さっさと出て行け」と言われている感が凄いする。一応、【鑑定】と【探知】で調べたが、何も無かったので素直に出る事にする。唯一残った通路を抜けて振り向いたら消えていたしな。
外に出たら直ぐにステータスを確認。この世界の日付が表示されているから。ゲームでも重要な要素として設定していて良かった。
予想通り、丸一日が経過していた。
「さて……どうするかな……」
王都に向かうと他の勇者達に紛れ込めるだろうが面倒事に巻き込まれる可能性も高い。村長の話から異世界物の定番“冒険者ギルド”の様な施設・制度というのは有りそうだから、それが目標になる。
カーンタラ村に戻るという選択肢だが、特に戻る理由が無いので無視でも構わない。村長の話の通り再び訪れる必要が有る様なイベントも設定して様な記憶は無いし、悪目立ちするだけだろうからな。
「──なんて考えたのがフラグだったか……」
何と無く向けた視線の先。カーンタラ村の方から黒煙が上がっている。
モンスターは自然の一部。その脅威に抗っているとは言っても戦える者は限られている世界だから、盗賊等の様な犯罪者が当たり前の様に存在しているタイプのファンタジー世界とは違う。
また、ゲームでは人同士の戦争は基本的には禁忌という設定にしていた。現実では判らないが。
そうなると、その理由は火事等か、自然災害か、モンスターに因るものの可能性が高い。
如何に神様の加護が有ろうとも、絶対ではない。現にモンスターから得られた物を結界内に持ち込む事は可能なのだから、完全には防げないという証明でもある。勿論、通常では生きているモンスターは入れないのだとしても、不可能ではないとも言える。
何者かの故意か、単なる事故か。今は判らない。だが、無視する訳にはいかない。
勇者としての使命感や正義感からではない。
彼処が自分にとっての二つの始まりの地だから。自然と駆け出していた。




