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五月 1

「あのさ、斉藤センパイってどんな人?」

 朝のざわつく教室でそう尋ねると、ぱっぱっと手を動かしていた千田柚菜はぎゅっと眉間に皺を寄せた。

「え、凛音先輩狙ってんの?キモ」

「狙ってねーし。キモ言うな」

 口が動いている間も柚菜の手は止まらない。なんかのダンスらしいが、オレにはただ手をくるくる回しているだけにしか見えない。腕の動きにつれて、きっちりツインテールに括った髪がゆらゆら揺れている。柚菜とオレは家が近くで保育園から一緒。高野と千田で五十音順だとだいたい前後になるので、学年の最初は席も近い。まあ腐れ縁だ。ちなみに背の順でもチビ同士前後くらいだったのに、中学に上がる前くらいから柚菜の方が急に伸びて置いて行かれた。ちっ。

「え、狙っても無いのに急に知りたくなったの?ヤバ」

「だからそういうのじゃなくて。なんか女子に人気あるじゃんか」

「カッコイイもん、凛音先輩。バスケやってほしい」

「あーなんか上手いらしいね」

「ぜんぜん興味無いじゃん。聞くなし」

「興味はある。……いやそういう意味じゃなくて」

 堂々巡りしているうちに先生がやってきて、結局何の情報も引き出せなかった。ホームルームをぼんやり聞き流しつつ、昨日の出来事を思い返していく。

 昨日家に帰り夕ご飯を食べる頃になって、少し頭が落ち着いてきた。落ち着いてきたら改めて訳が分からない事態に頭が混乱していった。学校が変になって、変な夕方で、変な女の子がいて、センパイが変だった。あ、あと変な猫みたいのがいた。何もかもが変だ。オレがおかしくなって変な夢を見ていたと考えるのがいちばん納得できる。学校でいきなり変な夢の世界に落っこちる自分、というのも怖いが、あれが現実に起きたって方が怖い。全部が妄想で、二度と起きないでくれればそれでいい。

 ただ、妄想だとすると一つ問題がある。

『話はまた今度、ね』

 そう言った斉藤センパイは、確かに現実だった、と思う。だとすると、センパイと話していた猫モドキも現実だ。斉藤センパイも妄想だったとしたら……あの何もかもおかしい空間の中で、なんでセンパイだけ現実のままの姿だったんだろうか。オレでも知っているくらい有名なセンパイではあるけど、特に何か気にしたことは無かったはずだ。センパイが現実だとすると、猫モドキも現実。全部が妄想なら、センパイだけ現実からはみ出してきていて逆に変。現実と妄想の境界線上になぜかセンパイがいる。理由が全く思い浮かばなかったので情報が欲しくて柚菜に聞いてみたらこのザマである。

 まあいい、放課後までにもう一度聞こう。そう思っていたら、情報は向こうから笑顔でやって来た。

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