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七月 9

 期末テストが終わり、夏休みまでの間で図書の整理はほぼ終わった。何故か図書室にある備品の点検まですることになったけど、大した手間じゃなかったし良しとしよう。斉藤センパイも「ユミちゃん先生の頼みならやるしかないかー」って言ってたし。その「ユミちゃん先生」は、国語の先生で図書室の担当。若い気の弱そうな女の先生で、なんとなく雑用を押し付けられてる感がある。確かにやるしかないかと思わされる人だ。先生からお礼に購入してほしい本があったら教えてと言われて、柚菜は遠慮なく合唱部が舞台の小説をリクエストしていた。お前文芸部員じゃないだろ……。

「夏休みになったらー、凛音先輩に会えないー」

 すっかり図書室に入り浸るようになった柚菜がセンパイに甘えた声を出している。今日も勉強会と称するおしゃべりタイムだ。前にあんまり迷惑かけんなよと注意したら「は?」とドスの効いた声で返されたので、それ以来オレはなるべく関わらないことにした。今は図書リストには掲載されているが現物が見つからない本の処理をしている。貸出記録があれば未返却、なければ紛失。とりあえずラベル分けしておけば、帳簿上の処理は先生がやるらしい。

 図書室の窓からは相変わらず降り続く雨が見えている。あの日以来、セカイには入っていない。センパイにはメフィから聞いたことのうち、もしオレがオレのセカイに入ったとしたら分かるはず、というところだけ伝えておいた。センパイに頼りきりになるつもりはないけど、現状センパイがいなければ手も足も出ない。一人ぼっちであのブヨブヨおばけがのしかかってきたらと思うと喉がぎゅうっとなるが、センパイは「絶対助けに行くよ」と言ってくれた。それだけでスッと心が軽くなる。

「ねえ、柊真はどうする?」

 いきなり柚菜に話を振られて、何も分からず首を傾げる。ぜんぜん聞いてなかった。

「何が?」

「今ね、夏休みもたまに勉強会しようかって話してて。学校が開いてる日だったら大丈夫だろうし、柊真も来る?」

 斉藤センパイが捕捉してくれた。どうやら柚菜がゴリ押したらしい。

「え……大丈夫なんですか?」

「あたしは平気。まあ、多くて週一回くらいだと思うし」

「えっと……」

 センパイは受験生だ。今でもけっこう負担をかけていると思うのに、夏休みまで付き合ってもらうのはどうなんだ?柚菜に今言っても聞かないだろうし、どうしよう。

「まあ、やるんなら」

「んだよ、凛音先輩に失礼だろその態度」

 柚菜がぷうっとふくれる。いや失礼なのはどっちだよ、とは言えずに、オレは図書リストの確認作業に戻った。後で言って……も、聞かないだろうなあ。はあ。こいつは昔からそうだ。欲しいものは欲しい、嫌なことは嫌とはっきり言う。それでトラブルになることも多いのに、ぜんぜん変わらない。あげく性格だから変わるわけないと開き直る。そのせいでけっこうオレにも飛び火してるんだぞ?

 うーん、後でセンパイには謝っておいたほうがいい?そもそも柚菜、夏休みになったらナントカ先輩が引退するから合唱部に戻るとか言ってなかったか?文芸部の活動もそれまでのはずで。柚菜にも後で話聞いて……って、なんでオレがそんな調整しなきゃいけないんだ?ほらこうやって巻き込まれるんだ。くそ。

 しとしと降る雨まで鬱陶しい。たまには晴れてくれないかな。

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