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落ちこぼれ学生、異世界で最強になる-翼ある姉妹と挑む運命の戦い-  作者: NOVENG MUSiQ
翼なき少年と翼ある姉妹

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荒野の襲撃と揺らぐ誇り

寒さが厳しくなる北方を目指す商隊に合流し、現太たちの旅は次の段階へと移る。

魔物が出没し、悪路と吹雪が行軍を阻む厳しい環境の中で、ミレイやパサラ、ナスティア、そしてナシアと協力しながら、仲間同士の連携と信頼を深めていく様子が描かれる。

魔力で身体を温めて雪道を進む現太の苦労や、獣人であるナスティアが感じる“誇りと呪い”の狭間の葛藤、そして旅の中で続くささやかな笑いや温もり――。

それらが交錯する中で、彼らがたどり着くキャンプの夜は、想像以上の危険を孕みながらも、心を通わせる束の間の静けさをもたらす。

 翌朝、冷え切った客舎で目覚めると、外はしんと静まり返っていた。窓から見える景色は薄白く、昨夜よりも雪が積もっているようだ。

「これ、本当に秋か冬か分からない感じだな……」

 寝袋代わりの毛布から抜け出し、首を回してみる。身体が冷えきって凝り固まっている。やはり異世界と言っても寒さは現実的に堪えるものだ。


 宿の主人に炊き出しのような朝食をもらい、商隊の人々も早々に準備を始める。ミレイは案の定、さっさと着替えて外を確認しに出て行き、パサラはナスティアを起こして苦戦している。

「うーん……あと五分……眠い……」

「ダメだよナスティア、起きないと遅れるってば!」

 そんな微笑ましいやりとりが聞こえ、俺は微苦笑しながら支度を整えた。


 支度が整った商隊は、粉雪が降りしきる中を再び出発する。地面がぬかるんでいるところもあれば、凍結しかけている場所もあって、馬車の運搬は難航していた。日差しがほとんどなく、暗灰色の雲が空を覆い尽くしている。

 寒さに負けそうになりながらも、俺たちは警戒を怠らない。万が一、魔物や盗賊が出てきてもすぐに対処できるよう、ミレイやナスティアが前衛を務め、パサラが後方支援、俺がその合間で魔力を運用する形だ。

「皆、ペースは大丈夫かしら? あまりに遅れると日没までに目的地に着けないわよ」

 ナシアが馬車の脇を歩きながら声を張り上げる。商人たちは顔を真っ赤にして寒さをこらえつつも、何とか踏ん張っているようだ。


 数時間ほど進んだ頃、遠くから猛獣の唸り声のようなものが風に乗って聞こえてきた。視界は悪いが、どうやら前方の小高い丘のあたりを何かが動いているらしい。

「魔物かもしれないわね。どんな種類かは分からないけど……」

 ミレイが翼をわずかに広げて警戒姿勢を取る。ナスティアも鋭い視線を丘に送っている。


 予感は当たった。次の瞬間、雪を蹴散らしながら、巨大なイノシシのような魔物が姿を現した。どす黒い体毛が寒空に溶け込み、牙は人間の腕ほど太く鋭い。これが一体で済めばいいが、続けざまに何匹かが現れている。

「うわ、群れで来た……まずいな……!」

「商隊のみんな、荷馬車を防御陣形にして! こっちは先頭で魔物を食い止める!」

 ナシアが指揮をとり、商人たちが慣れた様子で荷馬車を円形に並べ始める。その囲いの中心に非戦闘員が集まり、冒険者風の護衛や俺たちが外側を取り囲む形だ。


 やがて魔物たちは一斉に突進してきた。雪煙を巻き上げるその迫力は凄まじい。俺は咄嗟に魔力を練り、光弾を連射しようと構える。

「くそ、狙いが揺れる……」

 凍える指先が思うように動かないが、何とか矢を生み出し、突進してくる一体を迎撃。衝撃波が走り、魔物は転倒するが、すぐに別の個体が側面から牙を剥いてきた。

「甘いわよ!」

 ミレイが短剣でその牙をそらし、間髪入れずに横合いからナスティアが大きく爪で斬りかかる。手厚い連携で一体ずつ確実に仕留めていく形だ。


 しかし、魔物の数は多い。護衛の冒険者も数匹を相手に苦戦している。パサラが光の魔法を展開して援護を試みるが、視界が悪く、うまく狙いを定めにくい。

「……まずい。こっちにも来る!」

 後方の馬車を回り込むように数匹が突進してくるのが見えた。パサラは間に合うかどうか微妙な距離だ。俺は焦りながら氷の大地を蹴り、全力で走ってその方向へ飛び出す。

 滑りそうになりながらも踏ん張り、魔力を集中させる。拳を赤く輝かせ、突進してきた魔物の頭部を思い切り殴り上げた。手の平に強烈な衝撃が走るが、やはりこの“破格の力”があるおかげで、魔物が弾き飛ばされる。


「よしっ……!」

 息を切らしながら振り返ると、ほとんどの魔物は倒されるか逃走し始めている。ナスティアやミレイが強引に蹴散らした成果だろう。一部の冒険者が怪我を負ったものの、致命的な被害は防げたようだ。

「はぁ……結構しんどかったな」

 俺は膝に手をつき、凍えた呼吸を吐き出す。戦いながら寒さに耐えるのは想像以上にきつい。魔力を振るえば体温は多少上がるものの、消耗も激しい。


「大丈夫?現太 怪我はない?」

 パサラが駆け寄り、心配そうに声をかけてくる。俺は笑顔を返し、「ちょっと疲れたぐらいさ」と答えた。

 一方、ナスティアは倒れた魔物の死体を一瞥し、爪の血を払っている。その横顔には、どこか寂しげな表情があった。

「どうした? 疲れたか?」

「ん……いや、あたしなんか獣と闘ってると、時々、自分が人間と違うのを実感するんだよ。これが誇りなのか、呪いなのか……分からなくなる」


 いつも強気なナスティアの、そんな弱音めいた言葉に俺は少し戸惑う。彼女にも色々な事情があるだろうし、獣人としての生まれや“仇”の話はまだ聞けていない。

 でも、こうして同じ危険を乗り越えようとしている仲間だ。俺はそっとナスティアの肩に手を置き、短く言った。

「俺は仲間だと思ってるよ。獣人とか人間とか関係なくな。……もしそれが誇りを揺らがせるなら、ゆっくり一緒に探していけばいい」

 ナスティアは一瞬驚いたような目をしたが、すぐに口元を歪めて小さく笑う。

「……優しいんだな、あんた。まあ、ありがと」


 やがて荷馬車隊を中心に被害状況の確認が行われ、幸い、死者はいなかった。しかし何人かは足や腕に噛み傷を負っており、簡単な治療を施す必要がある。パサラや他の冒険者が回復薬を持ち寄り、応急処置を行った。

 このまま進むには体力的にも辛いし、馬車にも損傷がある。結局、今日の目的地は予定より手前で切り上げることになった。

 少し早いが、周囲の地形を確認すると小高い丘の裏に吹き溜まりがあり、そこを利用して野営を張る形だ。


「うーん、野営か……寒さと魔物の再来を考えると嫌だけど、仕方ないね」

 パサラが落胆した声を漏らす。けれど場所を変えて遅くまで移動し続けるよりは安全だろうと、ナシアやミレイも判断したのだ。

 夜が来る前にテントや寝袋を準備し、焚き火の周囲に人々が集まる。白い息を吐きながら、俺もテントの組み立てを手伝い、その後みんなと暖を取るために火のそばへ座った。

 大きな火がパチパチと音を立て、雪景色の荒野をオレンジ色に染めている。しんしんと降り続く粉雪が、遠目には幻想的だ。


「ねえ、現太さん。明日はもう少し安全に進めるといいんだけど……」

 パサラがスープの入ったマグカップを両手で包みながらぼそりと呟く。

「だな……道中はまだ半分もいってないんだろ? クヴァルまであとどれだけ魔物が出るか分からないし」

「寒さも増していくだろうし、気を引き締めないとね」


 焚き火の向こうでは、ナスティアが黙々と爪の手入れをしている。彼女は時々こちらを横目で見て何か言いたそうな気配を漂わせるが、言葉にはしない。

 一方、ミレイは夜警の当番を申し出ていて、今は商隊の冒険者たちと交代制の打ち合わせをしている。その落ち着いた姿は、やはり彼女が頼れるリーダー格なのだと感じさせる。


 吹きつける北風の音が、まるで遠吠えのように聞こえる。果たして、どこまで行けばクヴァルの街に辿り着くのだろうか。そこで俺たちを待っているのは安息か、それともさらなる脅威か――。

 明確な答えはまだ見えないが、少なくとも俺はこの仲間たちと一緒に乗り越える覚悟はできている。毛布にくるまりながらそんな決意を新たにし、眠りについた。

一筋縄ではいかない雪道の行軍と、予想外の魔物襲撃。それでも、現太たちは今回も仲間の力を合わせて危機を乗り越えることができました。

寂しさや不安を感じながらも、焚き火を囲む暖かな一幕が、彼らが互いを支え合う仲間であることを鮮明に映し出しています。獣人としての葛藤を抱えるナスティアや、旅の支度を万全に整えるミレイ、パサラ、ナシアらの姿は、厳しい荒野の中に確かな“家族のような絆”を築いています。

まだ道半ばで、クヴァルまでの行程は険しいまま。思いもしない魔物の出現や吹雪の恐怖が、再び彼らを襲うかもしれません。それでも彼らは、強まる仲間の信頼を糧に、さらに険しい道のりへと一歩を踏み出していくのです。次に待ち受ける困難と、その先に見える新たな光。それらを確かめるための、この旅の行方に、ぜひご期待ください。

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