表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ学生、異世界で最強になる-翼ある姉妹と挑む運命の戦い-  作者: NOVENG MUSiQ
黒翼と白翼の邂逅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/48

熔けゆく白銀――《ルビコン・クレバス》への墜ち口

《凍鳴の氷瀑》を越え、白銀の大地を抜けた先に待ち受けていたのは、静寂を忘れたかのような灼熱の地獄だった。足元を揺らす熱気と硫黄の匂いに、全身が凍土の感触を忘れ始める。

この先にこそ、兄さまの門を司る“本物の核”が眠っている──古文書が示す《ルビコン・クレバス》を目指して、現太たちは溶岩と炎が支配する地下世界へ足を踏み入れる。崩れかけた氷瀑、裂けた大地、そして燃え盛るマグマの奔流を前に、仲間との絆を胸に刻み、鈍く光る黒曜石の桟橋へ挑む時が来た。

 《凍鳴の氷瀑》を越えた先は、永遠に続くと信じていた白銀の世界だった。けれど三歩目で靴底がじゅっと鳴り、雪面の下から赤い光が滲み上がる。

 俺――新堂現太は思わずうずくまり、掌で雪を払った。さらさらの白粒の下に、ガラスのような薄氷。その奥で真紅の筋が脈動している。まるで大地の動脈が、氷を透かして内側から灯っているようだった。


「雪原が呼吸してる……」

 パサラが白翼を竦ませた。寒気はあるのに、顔に当たる風は妙に生ぬるい。

 レナが魔力視を開き、眉を跳ね上げる。

「熱流が……下から。氷床の厚さは三十センチもないわ!」

 言い終わる前に、雷のような地鳴り。白銀の大地が扇状に裂け、霧と湯気が噴出した。反射的にセラが火避けの障壁を張るが、硫黄を含む熱風が防寒具をたちまち重く湿らせていく。


「後ろへ下がれ!」

 ノーラの号令と同時に、峡谷全体が崩れた。雪面が折り紙のように沈下し、十数メートル下に灼熱のマグマ河が現れる。氷上の冷気は一瞬で霧散し、代わりに熱と硫黄の刺激臭が肺を灼いた。

 ティーナが震える指で裂け目を指す。

「兄さまの門は“封印”でもあったの。私たちが囮門を潰した衝撃で、下の冷却封が切れた……」


 落差十五メートルの淵へ、黒曜石の歯のような岩棚が点々と突き出ている。そこを渡らなければ先へは進めない。

 ナスティアが爪先の火霊石ソールを確かめ、蒸気の帷を蹴った。

「熱いなら熱いで、氷より動きやすいさ!」

 彼女が一番近い岩棚へ跳び移ると、橙の火花が爪の軌跡を照らした。続いてミレイが影走りで同じ位置へ。黒翼が灼風を切り裂く。

 俺たちは残る道具を総動員した――セラが耐熱符を、レナが即席の〈冷却氷板〉を靴裏に貼り、パサラの光壁を盾に足場を繋ぐ。ティーナは結界糸を地表の裂け目に刺して張り渡し、即席の安全索に変える。


 熔岩が噴き上がるたび、熱波が頬を切った。ノーラの鎧は火鱗のごとく赤く染まり、剣先から滴る汗が一瞬で蒸気になる。

 「前へ!」

 恐怖と熱で意識が霞む中、声だけが道標だった。峡谷中央の最奥、巨大な熔岩噴気孔が見える。そこには黒い石橋――人工の足場がかかり、その向こうに洞窟の口が開いていた。

 ティーナの瞳が震える。

「《ルビコン・クレバス》。父の研究記録にあった……カルデラ下層の一次通気孔よ」


 石橋に足を掛けた瞬間、マグマが天井へ噴き上がり、熱の矢が降りそそいだ。レナが逆相氷を展開して熱柱をはね返し、ナスティアが鉤爪で崩れる橋板をしがみつくように支える。

 ミレイが影走りで空間を刻み、ノーラとパサラがその影路を駆け抜けた。俺は最後にティーナの手を取り、一気に洞窟口へ飛び込む――背後で石橋が溶断され、真紅の飛沫が天へ躍った。


 洞内は温室のように蒸し暑く、壁と床は黒曜石と白熱した溶岩脈が交互に走っている。

 「氷の国の地下に、こんな地獄が……」

 セラが吐き捨てる。けれど足を止める暇はない。奥から低く重い鼓動――祭壇核の脈動が聞こえる。

 ティーナは汗に濡れた額をぬぐい、震えを押し殺した。

 「兄さまの門を超える……“本物”が、下にある」


 灼熱の胎動が壁を染め、影がざわめく。ここから先は、氷でも雪でもない。溶岩と闇と、そして深淵だ。

 俺たちは耐熱符の残りを分け合い、無言のままさらに暗い喉奥へ降りていった。

灼熱のマグマ河を飛び越え、真紅に輝く溶岩脈の閂をくぐり抜けて、俺たちはようやく洞窟の奥底へ到達した。氷の国の地下に広がる異界──熱と闇の狭間で鼓動する祭壇核は、兄さまの門柱よりも遙かに深い場所にある。

ここから先は、氷や雪が刻んだ足跡はもう通用しない。だが、真の〈深淵儀式〉を止めるためには、希望と絶望を一つに鍛えたこの手で、さらに暗い喉奥へと歩を進めるしかない。春を、そして兄の祈りを取り戻すその時まで――俺たちの旅路は、まだ終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ