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導かれし力と最初の試練

異世界に馴染みつつある新堂 現太が、その才能を磨くために本格的な訓練を受け始める。

黒い翼のミレイ、白い翼のパサラという異世界の住人たちとの連携の中で、彼は自分の力を少しずつ理解し、制御していく。

しかし、静かな荒れ地を舞台にした訓練は突如として邪魔され、不穏な勢力が現太たちの前に立ちはだかることに。

ここで初めて「仲間を守るための戦い」を意識した現太の奮戦は、彼をさらなる覚醒へと導く鍵となるのか――。

緊張感の高まる実戦の合間に見え隠れする謎の存在や闇の力が、物語を大きく動かしていく。

 異世界に来てから、早くも数日が経過していた。あの慌ただしい召喚騒ぎと魔物との初遭遇を経て、俺――新堂 現太は、黒い翼のミレイと白い翼のパサラという姉妹とともに王都近郊で暮らしている。宿屋での共同生活は不思議と苦にならず、むしろ俺には初めての“家族”らしさを感じさせるものだった。

 そしてこの数日の間、俺は自分の“規格外の力”を少しずつ引き出す練習を重ねている。魔物との戦闘で感じた圧倒的な身体能力と魔力の扱い――まさか本当にファンタジーじみた術を使うことになるとは思わなかったが、ミレイとパサラの指導のおかげで、形だけでも“光弾”や簡単な“防壁”を作り出すことができるようになってきた。


 この日の朝、俺は宿の部屋で寝坊していた。昨夜は魔術の訓練でへとへとになり、ベッドに倒れ込むようにして眠ったからだ。

「現太さん、朝だよ。起きてる?」

 ドアの向こうからパサラの声がする。返事をしようと目を開けかけるが、体がまだ重い。魔力を使い慣れないせいで全身が筋肉痛みたいに痛むのだ。

「……あと五分……」

「ふふ、五分じゃ足りないでしょ。早く起きないと、姉さんが置いていくって怒ってる」


 渋々ベッドから起き上がり、寝癖だらけの髪を直して廊下へ出ると、階下ではすでにミレイが支度を整えていた。黒を基調としたミリタリー調のジャケットを着込み、翼を隠すようにたたんでいる。

「遅いわね。今日こそ本格的な実践訓練をするのだから、ちゃんと準備してちょうだい」

「わ、悪い悪い……。でも俺、まだ魔力のコントロールが安定しなくて……」

 言い訳がましく言うと、ミレイはツンとした表情で溜め息をついた。

「それも含めて、しっかり体に覚えさせるのよ。あなたには普通の人間にはない強さがある。でも扱いを誤れば、すぐに暴走して大怪我を負うかもしれないの」


 彼女の言葉は厳しいが、そこには確かに“仲間”を思いやるニュアンスが感じられる。それが分かるからこそ、俺も踏ん張る気になるんだ。


 朝食を手早く済ませたあと、いつものように王都の外れへ向かう。街道の石畳から外れたあたりは、人通りが少なく見渡す限り雑草まじりの荒地が広がっている。乾いた風が吹きつけ、空がどこまでも高く感じられる場所だ。

 ここは訓練にはうってつけの場所だった。

「まずは魔力を使った体術の確認。前にも試したように身体を軽くするイメージでやってみて」

 パサラが微笑みつつ指示を出すと、俺は大きく息を吸い込み、内なる力を探る。心臓の奥で燃え盛る火種のような魔力がじわじわと四肢に広がる感覚。


 軽く屈伸をして、地面を蹴る。すると以前よりもずっと高く、遠くまで跳べるようになっていた。着地と同時に軽い埃が舞い上がるが、転ぶことはない。

「すごい……この数日でここまで慣れるなんて、やっぱり特別だね」

 パサラの感嘆に、俺は内心ちょっとだけ誇らしい気分を覚える。しかしミレイは油断なく、さらなる課題を口にした。

「威力だけじゃなく、持続力も必要よ。魔物や敵が複数出てくるとき、一度や二度の攻撃で倒せるとは限らない。回避も防御も、連続してできなければ意味がないわ」


 そう――実戦では相手も動くし、いつどんなふうに攻撃されるか分からない。魔法の大技を放って一網打尽、で済むなら苦労はないだろうけど、実際には隙を突かれれば一撃でやられる可能性だってある。

「分かった。もう少し走り回ってみるよ」

 地形を活かしながら左右にステップし、時には跳び、時には魔力の小技を使って小さな光弾を宙に浮かべてみたりする。自分でも驚くほど体が動くが、そのぶん集中力を削られるのも早い。


 ミレイとパサラはそんな俺の様子を観察し、適宜アドバイスをくれる。「もっと膝を柔らかく」「光弾を放つときは手元を安定させる」など、まるで戦闘のコーチのようだ。

 まさか女子二人に教官役をやられる日が来るなんて、現実の世界では想像もしていなかった。


 数時間、みっちり動いたころには、背中は汗でびっしょりになっていた。昼近くになり、そろそろ一度休憩しようかというとき――荒地の奥から見慣れない人影が複数、こちらに近づいてくるのが目に留まった。

「なんだ……? こんな辺鄙な場所に、団体で……」

 銀色の甲冑に身を包んだ数人がいて、その後ろにはローブを羽織った人物も混じっている。王都の兵士だろうかと一瞬思ったが、よく見ると紋章が違う。いかにも禍々しい雰囲気を漂わせている連中だ。


「ミレイ、あれって……」

「分からない。でも、危険な匂いがするわ」

 彼女が警戒を強めるのと同時に、先頭の甲冑の男が剣を抜いた。

「そこにいるのは何者だ! まさか我らの儀式を探りに来たのか?」

 鋭い声が荒地に響く。ローブの人物が手をかざすと、じっと俺たちを睨むように視線を向けてきた。

「どうやら一筋縄ではいかぬ客人か……」


 まともに話をする気配がまるでない。俺は一歩前に出ようとしたが、ミレイが手で制止した。

「あなたは下がって。ここは私とパサラで――」

「いや、俺もやる。この世界でやっていくなら、こんな場面を避けては通れないし、力を試すいい機会かもしれない」


 以前の俺なら尻込みしていたかもしれないが、今は違う。訓練した成果を発揮する機会が来たのだ。そう思うと不思議と恐怖よりも高揚感が勝った。

「ふん、面白い。ならばその力、見せてもらおう」

 ローブの人物がかすれ声で呟くと、後ろの甲冑兵たちが一斉に突撃してきた。


 瞬間、俺は魔力を集中し、光弾を右手に生成する。それを数発連続で放つと、甲冑兵は盾を構えて防御するが、衝撃で足が止まる。ミレイがその隙を突いて、短剣を正確に投擲。パサラは後方で回復魔術の準備を整えている。

 甲冑兵の剣先がかすめるが、今回は冷静に動きを見切れた。以前よりも更に、スローモーションのように感じられる瞬間がある。身体がこの世界に馴染んできた証拠かもしれない。


 しかし、相手は複数。一体ずつは大したことがなくても、数で押されると厳しい。体力も魔力も消耗していたところに、この不意打ち。

「くっ……まだ終わりじゃないのか……!」

 甲冑兵の半数ほどを倒したあたりで、ローブの人物が口元を歪め、奇妙な呪文のような言葉を唱え始める。次の瞬間、禍々しい闇色のエネルギー波が放出され、地面が振動した。


「やばい、あれは何か大きな魔法かも!」

 パサラが光のバリアを展開するが、全てを防ぎきれず、ミレイの身体が吹き飛ばされる。俺も衝撃波に膝をついてしまい、肺の奥が焼けるような痛みに襲われた。

「ゲホッ……ま、まだ……!」

 なんとか立ち上がると、ローブの人物が不敵に笑っているのが目に入る。


 ――ここで負けるわけにはいかない。せっかく自分の力を認め始めた矢先に、この世界での可能性を閉ざしたくない。

「パサラ、ミレイを頼む! 俺があの呪術師を止める!」

 動悸が激しく、呼吸も荒い。けれど魔力を懸命にかき集め、右手に眩い光を宿す。呪術師の黒いオーラがうねりながら再び何かを生成しようとしていたが、それより先に俺は光の槍のような魔力を投げ込んだ。


 眩烈な閃光。次いで破裂音。呪術師は悲鳴を上げ、闇色のエネルギーが霧散する。残った甲冑兵たちは慌てて退却し、その場を去っていった。


 息を切らしながら、俺は倒れ込むミレイへ駆け寄る。彼女はうっすらと意識があるようだが、痛みに耐えている表情だ。

「……ありがとう。あなた、結構……やるじゃない……」

「無理するな、パサラが回復を――」

 するとパサラがすぐに駆けつけ、光の魔法でミレイの傷を癒やし始めた。


 その様子を見届けながら、俺は自分の右手を見つめる。燃えるような痛みと疲労感があるが、心の中では不思議な達成感が満ちていた。

「これが……俺の力……」

 ただ強いだけじゃなく、仲間を守るために必死になった結果の勝利。俺は初めて、本当にこの世界で戦う意味を掴みかけた気がする。


 こうして予想外の実戦を経験した俺たちは、さらに深まる謎――“呪術”や“不穏な勢力”の存在――に警戒を募らせることになる。だが同時に、俺の力は確実に研ぎ澄まされ始めていた。

 そして、これがきっかけで王都の治安が徐々に悪化していることを知り、俺たちは次なる行動を決断することになるのだった。

ミレイとパサラの支えを受けながら、不慣れな力を使って実戦を乗り越えた現太。初めは純粋に「強さ」だけを意識していた彼ですが、今回の戦闘を通じて「守るために戦う」という感覚を得たようです。

また、彼の力が想像以上に大きいこと、そしてこの世界には彼らを脅かす“呪術”や不穏な組織が暗躍している事実が明らかになりました。王都の治安が徐々に乱れていく現状を放っておけない彼らが、次に下す決断とは何なのでしょうか。

まだ謎の多い世界で、現太たちはどんな道を選び、これから何と戦っていくのか――彼の心に芽生え始めた責任感と仲間への想いが、さらなる激動へと繋がっていくに違いありません。

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