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落ちこぼれ学生、異世界で最強になる-翼ある姉妹と挑む運命の戦い-  作者: NOVENG MUSiQ
虚ろな光-幻影集落と闇の巫女-

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白い虚像―足跡の残響

 夜の闇と吹雪の恐怖が交差する厳しい北方の旅。仲間たちは“幻の集落”という衝撃的な出来事を味わい、思うように進まない現実に疲弊しながら、まだ見ぬ脅威を探り続けている。雪の大地には足跡さえ簡単に消え、追い求める真相もまた白い闇に溶け込むかのごとく捉えどころがない。

 テントの中はまばらな暖かさと安堵がある一方、外にはどこかに“別の何者か”の気配がちらつき、仲間たちの神経を休ませてはくれない。そうした過酷な環境のなかで、それぞれが抱く不安、そしてかすかな希望が行き交いながら、一夜の野営を営む姿が描かれる。

 先の“幻”が提示したのは、さらなる不可解な闇が潜むという示唆。果たして、それは新たな罠なのか、あるいは真に何者かの術なのか――吹雪の音を耳にしながら、凝結する不安と仲間同士の結束が、凍てつく夜の帳の中でかすかに灯されていく。

 “幻の集落”を出てしばらく、俺たちは野営での疲労感を抱えたまま雪原を進んでいた。朝日を受けた雪面はまぶしいほど白く輝いているが、心は晴れない。夜に見た家々が跡形もなく消え失せた光景が忘れられないからだ。

 ミレイは一歩一歩を慎重に踏みしめて「なんだか夢を見てた気分……あの家に泊まったのも嘘みたい」と呟く。パサラが翼を小さく開き、「でも確かに寝たよね。暖炉があって……不思議だよ」と賛同する。


 ナスティアは尻尾をばたばたさせ、「それにしても人っ子一人いなかったのが不自然だ。幻だろうが何だろうが、気味が悪い」と毒づく。セラは「あんな術を作り出せるなんて尋常じゃないわ。まるで空間ごと捻じ曲げてるみたい」と渋い顔。レナは「闇の術者なら何でもありなのかな……」と怯え気味だ。

 ナシアはフードを深く被ったまま、「ともかく、今は先へ進むしかないわね。ここに留まっても消える家が戻るわけじゃないし」と淡々と言う。俺も頷きながら、昨夜の出来事が脳裏で渦巻くのを感じていた。


   足跡の消える不安

 しばらく歩くと、また冷たい風が吹いて地面の雪をさらっていく。足跡は簡単に消え、まるで自分たちがこの世界に存在した痕跡さえ否定されるかのようだ。夜には家が出現し、朝には消える――この白い大地では“現実”と“虚像”の境目があいまいなのかもしれない。

 ミレイが短剣を握ったまま黙っているが、その横顔には神経を張り詰めている色が見て取れる。パサラは白翼をたたみ直し、寒さと恐怖で少し震えているようだ。

 ナスティアは獣人の勘で「この辺、魔物のにおいは薄いが、何か得体の知れない気配が残ってる。まさかまた“幻”じゃねえだろうな」と鼻をひくつかせる。セラやレナも魔術で探ろうとするが、はっきりとした反応はない。


   午後の吹雪と野営地捜索

 昼過ぎ、再び吹雪の前兆が見え始める。雲が厚くなり、風が強まってきた。視界が悪くなれば移動が危険だ。俺たちは焦りを感じつつ、適度な場所で野営するしかないと判断する。

 「もうあんな“集落”には入りたくないね……」

 レナが弱音を吐く。ナシアは苦笑して「よほど危険でない限り、テントのほうがマシかもしれないわ」と答える。パサラは白翼の力で多少の風は防げるが、体力を多く消耗するため乱用はできない。


 視線を巡らすと、少し先に大きな岩や木が見え、風除けに使えそうな地形があるようだ。ミレイが「あそこならテントを張れるかも」と先導し、ナスティアが周囲の安全を確認してから進む。セラとレナは荷車代わりの簡易ソリを引き、パサラが道具を支えている。俺は後ろからみんなを見守りつつ、崖下の斜面に気をつけて足を置く。


 やがて目的の岩陰に着き、急いでテントと焚き火の準備を始める。吹雪が本格化する前に設営を済ませないと、命に関わるからだ。結局、一時間ほどかかってようやく落ち着く形になる。

 夜になるころには外の風がビュウビュウと鳴り、雪が舞い散ってテントの壁を叩いていた。幸いテント内部は焚き火で少し暖かいが、明らかに気温は厳しさを増している。


   テント内の夜

 狭いテントに全員が雑魚寝する形で固まり合う。これで暖かさを保てるし、見張りも回せるから安全だ。パサラの翼がうっかり隣のミレイに当たって「ごめん!」と謝る事故も相変わらずあるが、誰も突っ込む元気がない。ナスティアは尻尾を畳んで丸まり、セラとレナは魔法書を半分開きながらも頭を下げ眠りそうだ。ナシアはフードを取って髪を直し、俺に「さあ、眠れるときに眠りなさい」と促す。

 「……うん。結局、今日は収穫もなくてがっかりだけど、死ななかっただけマシか」

 俺が自嘲ぎみに言うと、ミレイは薄目を開け、「あの集落……何だったんだろうね。夜だけ出て朝には消えるなんて」と呟く。レナは眠そうに「また出会いたくないけど、あれが闇の仕業なら、いずれまたどこかに……」と恐怖を漏らす。


 セラやナスティアも黙って聞きながら体を横たえ、ナシアは「さあ、どんな術かわからないけど、もっと調べたい気もするわね」とノートに何か書き込む。

 雪の風音がテントを揺らし、夜が深まる。パサラが小さく光のバリアを展開し、多少の暖気を補う。疲労でまぶたが重くなると同時に、昨日の幻集落の記憶が脳裏をかすめ、なかなか意識が安定しない。

 「大丈夫……きっと大丈夫……」

 パサラが寝言のように呟き、俺も目を閉じる。冷気と怖れが入り混じった夜だが、仲間と一緒なら何とかなるはずだ。


   夜の囁き

 深夜、交代で見張りを立てている最中、ナスティアが俺を揺り起こす。「ちょっと……音が聞こえたんだ。外で誰か歩いてるような……」

 外は吹雪がやや弱まっているが、視界が非常に悪い。テントから少し出てみても、人影など見当たらない。ただ白い闇が広がるばかりで、風がやむと静寂が重くのしかかる。

 「気のせい……か。でも最近、気のせいが現実化しちゃうことばっかりだしな」とナスティアが苦い笑みを見せる。俺も不安を抱えながらテントに戻り、少しでも休もうと身体を丸める。


 周囲の皆はほとんど眠りに落ちている。セラが杖を抱いたまま浅く寝息を立て、レナが毛布をかぶって鼻をすする。ミレイは短剣を握ったまま意識を失いかけ、パサラは翼をたたんで息を整える。ナシアはフードを被っているが、どうやら軽く寝息を立てているようだ。

 幻の集落を後にした俺たちが、相変わらず雪上をさまよいながら安全な野営地で一夜を過ごす様子で終わる。正体不明の現象に精神を削られつつ、闇や魔物の襲撃から逃れ、吹雪を凌ぐだけでも限界を感じていた。

 だが、まだ旅は続く。黒翼の男やエレオノーラの闇、そして謎の“幻”現象……すべてがどこかで繋がっているのかもしれない。真実を求めるには、さらに厳しい道のりを越えなければならない――そう思いながら、俺たちは一縷の温もりを頼りに夜を越していた。

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