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落ちこぼれ学生、異世界で最強になる-翼ある姉妹と挑む運命の戦い-  作者: NOVENG MUSiQ
虚ろな光-幻影集落と闇の巫女-

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亡霊の巫女と凍れる祭壇

 氷壁の奥深くに潜む闇を探るため、一行は隙間風の吹き込む迷路のような通路を進み、ついに“亡霊”たちの巣窟へと足を踏み入れる。そこはただの自然洞窟などではなく、封じられし力が壊され、魔術や祭祀の名残が散見される、いわば人の手が加わった氷の神殿だった。

 古びた文様や崩された封印が示すとおり、並大抵の脅威では済まない予感が漂う中、彼らを待ち受けていたのは“亡霊の巫女”を名乗る謎の女性――。深い闇のオーラをまとい、死者の魂を集め「深淵」を呼び寄せようとする彼女は、この氷の祭壇の真の支配者だった。

 果たして仲間たちは、幾重にも渦巻く亡者や術式を突破し、巫女の野望を止めることができるのだろうか。容赦なく襲い来る亡霊兵の群れ、そして冷たくも妖艶な巫女の力に対し、一瞬の油断すら許されない死闘が繰り広げられる。

 歪んだ儀式を崩しきるか、あるいはさらに深い闇へと飲まれてしまうのか――ここから始まる決戦は、氷の世界で交錯する命と宿命を、また一段と先へ進めるものとなるだろう。仲間を守りたいという強い想いと、迫りくる漆黒の闇のはざまで、主人公たちは運命を切り開いていく。

 亡霊からの“誘い”を受けるように、俺たちは氷の迷宮のさらに奥へと進んでいた。通路はやがて広いホールへ合流し、天井が見えないほど高い空間が姿を現す。氷の柱が幾重にも連なり、所々に石造りの台座や装飾物が混じっている。

 「ここ……自然の洞窟じゃないわね。人の手が入ってる」

 セラが灯火を掲げ、石の彫刻めいた模様を指す。レナも「封印や祭祀に関する痕跡かも……」と見惚れるように壁をなぞる。


 足を踏み入れると、空気が一層冷え込み、肌を刺すような寒さが体中を襲う。ナスティアが尻尾をブルッと揺らし、「……さっきより格段に寒いな。氷の魔力か、闇の力か……」と唸る。パサラは翼を握りしめ、「ここ、やな感じがする」と怯えた様子を見せる。

 そうした中、ミレイが短剣を構えて中央へ慎重に歩み寄る。床には円形の文様があり、それが淡く輝いている。

 「祭壇……。もしかして、これが亡霊やゾンビを生み出してる“装置”なのかもしれない」

 ミレイが厳しい目を向ける。ナシアは無言で頷き、フードを深く被ったまま遠巻きに観察を続ける。


 すると、急にホールの上空を吹き抜ける風がうなり、闇色の霧が立ち込めた。亡霊兵と思しき半透明の人影がいくつも出現し、俺たちを取り囲もうとする。まるで“ここを荒らすな”とでも言わんばかりに、ぬらりと体を揺らしながら接近してくるのだ。

 「また戦闘か……! 気をつけて、さっきより数が多いわよ!」

 セラが杖を掲げ、火球を発射。レナが氷の槍を生み出し、パサラがバリアを展開して防御をサポートする。ナスティアとミレイが前衛で次々と敵を斬り払い、俺も光弾を重ねて亡霊を浄化しようと試みる。


 激しい戦闘が続くうち、闇色の霧がますます濃くなり、亡霊兵の数も減らない。倒しても倒しても、また新しい個体が湧いてくるようだ。

 「くそ……キリがない。どこかに本体がいるはずだ!」

 ナスティアが怒声を上げる。その時、ホールの奥、石柱の向こうから冷たい声が響いた。

 「ふふ……深淵を守る亡霊たち、もう少し遊んであげて」

 ぞっとするほど澄んだ女の声。それを聞いた瞬間、パサラがハッと目を見開き、唇を震わせる。


 次の瞬間、その女――漆黒の髪を持ち、氷のように白い肌をした人物が祭壇の上に現れた。瞳は妖しく光り、唇には哀しげな笑みを浮かべているが、圧倒的な闇のオーラをまとっている。

 「私の名はエレオノーラ・ヴァレンティーナ・クロスターニ。ここで死者の魂を集め、深淵を呼び寄せる巫女よ……あなたたち、ここまで来たということは少しは覚悟があるのね?」


 その声は氷の洞窟に反響し、一帯を支配するような威圧感を放っていた。セラが「やっぱり闇の術者……!」と構え、ナスティアは「こいつが亡霊の親玉か?」と尻尾を立てる。ミレイやレナ、パサラもぞくりと緊張が走る。俺も光弾を生み出しながら言葉を探した。

 「なぜこんなことを……死者を操って何をしようとしているんだ!」


 エレオノーラは「深淵……いずれ、この地に流れ込む死の力を解放するの。私の使命よ」と淡々と言い放つ。祭壇に触れたその手から闇色の波紋が広がり、亡霊兵がさらに数を増やす。

 「はは……来なさい。あなたたちが私の“儀式”を止められるものなら、やってみるといい」


 激しい戦闘が再開する。亡霊兵はここまでのものとは比較にならないほど強化され、一撃の重みが格段に増している。パサラがバリアを張り、セラやレナが範囲魔法でまとめて浄化を試みるが、効き目が薄い。

 「くそっ……どこまでも湧いてくる!」

 ナスティアとミレイが斬り込み、ナシアは投げナイフで支援するが、エレオノーラが祭壇から力を吸い上げているためか、亡霊がいくらでも補充されるかのようだ。

 俺も光弾を叩き込み、何体かは消せるが、巫女エレオノーラ自身の周囲には闇の壁が張られていて近づけない。


 「このままじゃ倒せない。祭壇を壊すしかないわ!」

 セラが叫ぶが、エレオノーラは邪魔をさせまいと大きく右腕を振る。闇の衝撃波が飛び散り、ナスティアやミレイが吹き飛ばされて氷床を転がる。レナとパサラは防御に回るしかなく、なかなか攻撃のチャンスを作れない。


 ――そのとき、ナシアが低く息を吐き、わずかにエレオノーラの後方へ回り込む。フードの奥で目を細め、投げナイフを狙いすまして放った。

 「ちっ……!」

 エレオノーラが視線を動かし、闇の触手を伸ばして投げナイフを弾く。しかし、その一瞬だけ防御が疎かになる。そこに俺の光弾とセラの火球が同時に叩き込まれ、巫女は初めて表情を歪める。

 「ぐっ……!」


 彼女が一瞬身体を揺らしたことで、亡霊兵の動きがわずかに乱れる。パサラがその隙に光の衝撃波を浴びせ、周囲の亡霊を大量に浄化し、ミレイとナスティアが横合いから一気に攻め込む。

 「勝てるか……!」

 俺たちの連携で巫女への包囲が完成するかと思われた。しかし、エレオノーラは「まだよ……」と低く囁き、祭壇の石柱に手をついた。瞬間、氷のような衝撃波が走って床が凍りつき、足を取られて動きが鈍る。

 さらに闇色の波動が二重三重に発生し、俺たちは氷床に転がされる。


 「くっ……なんて力……」

 ナスティアが牙をむいて我慢するが、氷の束縛に尻尾が絡まり動けない。セラも倒れ込み、ミレイが短剣を支点に踏ん張ろうとするが滑ってしまう。パサラがぎりぎりの魔力で仲間を守ろうとするが限界が近い。

 闇の亡霊は再び集まり、今度は俺たちを狙って一斉に突進してきた。


 「やめろ――っ!」

 意を決して光弾をまとめて撃つが、エレオノーラの黒いオーラが防ぎ、半分以上通らない。闇と氷が融合した恐るべき力に、次第に押し負けそうになる。そのとき、エレオノーラの瞳が一瞬揺らいだのを感じた。苦しそうに眉を寄せる表情が垣間見え、何かを葛藤しているようにも見える。


 「あなた、なぜそんな顔を……!」

 パサラが叫ぶが、巫女は冷たく笑いを浮かべ、「深淵の力は私の宿命。邪魔しないで」と言葉を吐き捨てる。


 最終的に、俺たちは最後の力を振り絞って総攻撃を展開した。ナスティアとミレイが横合いから巫女を揺さぶり、セラとレナが魔法で亡霊を牽制、ナシアが投げナイフで隙を作り、俺が光の一撃を巫女の胸元に叩き込む形だ。

 炸裂とともに、エレオノーラは大きくよろめき、祭壇から一瞬手を離す。周囲の亡霊は動きを止め、氷の闇がかすかに薄れる。

 「くっ……やるわね、でも……」

 彼女は苦しげに膝をつき、闇の波動が弱まった隙にミレイが短剣を構え、ナスティアが迫る。しかし、それでも彼女は黒い渦を生み出し、自身を包み込むようにして逃げる準備を始める。


 「待て、逃がすか!」

 ナスティアが爪を振りかざすが、闇の渦は止められない。エレオノーラは最後にこちらを振り返り、あの冷たい瞳に僅かな哀愁を宿したまま、「深淵は……いずれ開く」と囁いて闇の向こうに消えた。

 残された祭壇には、弱まった闇が漂い、亡霊兵が次々と崩れ落ちる。床に残っていた氷の紋様も割れ始めるようにひびが走り、歪んだ術式が崩壊していくのが見て取れた。


 「くそ、逃げられたか……」

 ミレイが悔しそうに唇を噛む。セラやレナも荒い息を吐きながら、魔法の力を使い果たしそうになっている。パサラはへたり込んだまま、白翼で自分を支えている。ナスティアは拳を地面に打ちつけ「仕留め損なった……」と悔やむ。

 ナシアがフードを揺らしつつ祭壇を見やり、「でも祭壇はもう使えないでしょう。亡霊はこれで一旦止まるわ」と言うと、皆が少しだけ安堵の表情を浮かべる。


 倒れ込んだ俺たちは、祭壇脇の石柱に寄りかかって息を整えながら、この先の不安を想像していた。エレオノーラという巫女がなぜ深淵を求めるのか、黒翼の男との関係はあるのか――何も解明できていない。

 氷の空洞に冷たい風が吹き込む。パサラの回復魔法で多少なりとも傷を癒すが、皆疲労は深刻だ。


 戦闘が終わってあたりが静まると、床の裂け目から時折水滴が落ちる音がこだまする。闇が去った今でも、この場所には独特の寒気が宿っているようで、次なる危険を予感させる。

 「ひとまず祭壇を壊せたのは良かった。完全じゃなくても、亡霊の量産は防げるはず」

 セラが額の汗をぬぐいながら言う。ミレイもうなずき、「ええ、あの女もそう簡単にはここを再利用できないでしょう」と続ける。


 こうして“亡霊の巫女”エレオノーラ・ヴァレンティーナ・クロスターニとの初対峙は幕を下ろす。俺たちの勝利とも言い難いが、最低限の成果は得られたはずだ。

 半壊した祭壇の周囲は氷の欠片が散乱し、亡霊の残滓も消えかけている。仲間同士で声をかけ合い、足取りを確かめ、今夜は一度地上へ出て体を休めようという意見で一致した。


 それぞれが抱える胸の内――ミレイは黒翼を負いながら同じような宿命に縛られるのかと怯え、パサラは白翼の力をもっと引き出せないか悔やみ、ナスティアは仇や怒りを募らせる。セラとレナは古代封印や魔術の解明欲を強め、ナシアは闇の情報を整理しようと考えている。

 俺自身は、自分がどこまでこの世界の危機に立ち向かえるのか、未知の不安で心が震えるが――何より仲間を守りたい。その思いだけで、今は踏みとどまっていた。

 凍れる祭壇を崩し、巫女の闇を退けたものの、まだまだ解決には遠い状態で終わる。黒翼の男や深淵の存在、そしてエレオノーラの正体に迫るには、もっと多くの鍵が必要なのだろう――雪の洞窟に消えた巫女の瞳が、何かを訴えているかのように思われた。

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