吹雪の襲撃――焦れる想い
クヴァルの街は、激しい防衛戦を乗り越えたものの、依然として深い傷を抱え、住民の不安と疲弊が色濃く残っている。闇の呪術師と魔物たちの「最終陣形」を阻止し、街の壊滅を免れたものの、戦いの影は消えず、黒い翼の男をはじめとする謎めいた存在が背後に潜んでいる。
この物語の一幕では、俺――新堂 現太と仲間たち(ミレイ、パサラ、ナスティア、セラ、レナ、そして女騎士ノーラ)が、一時の休息を取りながらも、街の復興とさらなる脅威への備えを進める様子が描かれる。防衛戦の激闘を経て、彼らはそれぞれの傷や不安を抱えながらも、闇に立ち向かう覚悟を新たにしている。
クヴァルの街は、激しい防衛戦を乗り越えたものの、まだ深い傷を抱えていた。闇の呪術師と魔物たちの“最終陣形”を阻止したおかげで街の壊滅は免れたが、守備に当たった騎士団や住民は皆疲労困憊だ。
俺――新堂 現太たちも無事に戻り、一時の休息を取ることになった。ミレイやパサラ、ナスティア、セラ、レナ、そして女騎士のノーラら仲間たちもそれぞれ怪我や疲れがあるが、大怪我は少ない。
「これで街が少しは落ち着くといいわね」
パサラが微笑み、白い翼を小さく折りたたむ。ルーンの光が弱まりつつも、彼女自身の傷を癒す手助けにはなっているようだ。
「本当にそうだといいけど……。でも、黒い翼の男は姿を消したまま。闇の術師の本流も、まだ残っている可能性があるし」
ミレイは宿の廊下で背を壁に預けながら、憂いを帯びた目をしている。自分も黒い翼(正確には飛べないが)を持つだけに、あの“本物の黒翼”を広げる男が気になって仕方ないのだろう。
さらなる北方への準備
そんなとき、有力者たちから情報が届く。クヴァルの北方にある雪山地帯に、以前から魔物や魔族が潜んでいるという噂があり、そこを重点的に調べたいというのだ。
「確かに、この街ばかりに籠もっても仕方ないかも……根本の脅威は、もっと奥にあるのかもしれないし」
セラが地図を見つつ言う。ナスティアは「どうせまた雪山か。冷えるな……」と嘆息するが、やる気は失っていない。
そこで、街の商人仲間や騎士団の一部も参加する“キャラバン”が組まれることになり、俺たちにも声がかかった。大量の物資を運びつつ、万が一の襲撃に備える護衛役を頼みたいという。
「街の復興を待つか、それとも先に危険地帯を調べるか……迷うな」
ノーラが鎧の合わせ目を直しながら言う。彼女は街の防衛に残るつもりらしいが、騎士団の中にも数名がキャラバン同行を希望しているとか。
一方、ミレイとパサラも悩んでいた。
「街を離れれば、また闇の勢力が襲ってくるかもしれないし。でも、このままじゃ黒翼の男に先回りされる可能性も高い。あの呪術師が言っていた“北の深淵”みたいな話も捨て置けない……」
レナは「私の故郷も北にあるし……少し気になる」と小さく呟く。ナスティアは相変わらず「どこでもいいけど、仇を追う手掛かりになれば」と興味を示す。セラは「私は賛成。攻めの姿勢に出るのも必要よ」と冷静に肯定する。
吹雪に備えて
結果的に、街の防衛を強化した上で、キャラバン隊を組んで北へ向かうという折衷案が採用されることになった。ノーラはクヴァルに残り、街の騎士団を統率。俺たち数名と冒険者・商人たちは、万全を期して準備を整えたあと雪山へ挑むことになる。
ただし、数日後には再び大きな吹雪が来る予報がある。もし移動途中で吹雪に遭遇すれば、十分な対策をしておかないと遭難しかねない。
「防寒具はもちろん、食料や燃料、テントや毛布など何重にも必要だね……」
パサラが品物をチェックしながら苦笑する。今までも厳しい雪道を越えてきたが、今回はさらにスケールの大きい遠征になりそうだ。
焦れる思い
夜、宿のロビーで俺たちは最後の準備を確認していた。セラが魔術書を何冊も詰め込み、レナは氷魔法の練習用の道具を揃えている。ナスティアはケープや革鎧を新調し、ミレイとパサラはそれぞれ自分の装備を手入れしていた。
「これで北へ向かう準備は万端……とは言えないけど、やれるだけのことはしたわね」
ミレイが小さく息を吐く。ナスティアは「ま、あたしは細かいこと苦手だから任せるよ」と笑い、レナは「もし吹雪がひどくなったら私も役に立てると思うから」と控えめに微笑む。
セラはクールな面立ちをしながら、「実際に出発してみないと分からないわね。でも、あなたが焦らないようにね、現太」と言ってくる。
たしかに俺は落ち着かない気持ちでいっぱいだった。闇の勢力の動向、黒翼の男の行方、そしてクヴァルを離れることへの戸惑い……。
「焦っても仕方ないけど、早く本当の脅威をどうにかしたいとも思うんだ。みんなが安心して暮らせるように」
俺が本音を漏らすと、パサラがほほ笑みながら毛布を差し出してくれた。
「そんなに背負い込まなくても大丈夫だよ、現太さん。私たちがいるし、焦らず前に進こう? ほら、今夜は早めに休んで、明日に備えよう」
そんなやり取りをしていると、ミレイが「ふん」と照れ隠し気味に顔を背ける。「あまりパサラばかりに甘えないでよね……私もあんたを支える気はあるんだから」
思わぬミレイのツンデレに、周囲の女性陣がクスリと笑みを交わす。ナスティアは「モテる男は大変だね」とニヤリとし、セラは「まったく」と静かに肩をすくめる。レナは「そ、そうだね」と赤面しながら小さく笑う。
俺は視線の行き場に困りつつも、ほのぼのとした空気に少し救われる思いがあった。明日からまた危険な道に踏み出すけど、この仲間たちと一緒なら大丈夫かもしれない――そう信じたかった。
翌朝・吹雪の始まり
夜が明け、いよいよキャラバン出発の当日。天候はすでに怪しい雲行きで、早朝から風が強い。
宿の外で馬車の準備をする商人たちは「こりゃ今日中に雪が激しくなるな……」と眉をひそめる。ノーラも見送りに来て、騎士数名を同行させるか迷っているようだ。
「街の守りも必要だし……でも、あなたたちだけに危険を任せるわけにもいかないわ。何人か騎士を護衛に回そうかしら」
「助かる。でもノーラ、あなたは街に残るんでしょ?」
俺の問いかけにノーラは微笑む。「ええ、ここにいる人たちを見捨てられない。私が留守を守っておくから、あなたたちは自分たちの使命を果たしてきて」
こうして、キャラバン隊は馬車や荷車を連ね、出発する。先頭には冒険者の中でも経験豊富な者が立ち、俺たちは中盤に位置して必要に応じて前後を援護する役割を担う。魔物の攻撃だけでなく、雪崩や吹雪も警戒が必要だ。
「この雲……おそらく昼過ぎから本格的に雪が強くなるわね」
レナが頭上を仰ぎ、注意を喚起。ナスティアは尻尾を少し逆立て、「吹雪で視界が遮られたらどうするんだ?」と面倒そうな顔。
「無理せず途中で野営地を確保するしかないね。動けなくなったら、闇の勢力どころか寒さで死んじまう」
俺が説明すると、セラが静かに付け足す。「吹雪が嵐になる前に、ある程度安全な場所で宿営できればいいのだけど。……やっかいね」
気持ちが焦っているのは俺だけじゃないだろう。黒翼の男がいつ現れるか分からないし、魔族や呪術師の残党が待ち伏せているかもしれない。
「慎重に進もう。まあ、すごく時間はかかるけどね……」
パサラが苦笑いで言い、俺たちは早朝の暗い空をバックに、雪原へ踏み出した。吹く風は冷たいが、仲間たちと共にいる安心感は確かにある。
こうしてキャラバンの行列が北へ向かって動き出す。それは、新たな戦いや出会い、そしてさらなる試練への幕開けでもあった。
まだ吹雪は本格化していないが、どこかで息を潜める闇と、いつか再び現れるであろう黒い翼の男を思うと、胸がざわつく。しかし、振り返ればクヴァルで仲間たちと築いた絆がある。
俺は雪に足を取られそうになりながら、前を行くナスティアやセラを見つめ、「よし、行くか」と小さく呟いた。
激戦の末、クヴァルの街は一時の安堵を迎えたものの、依然として闇の勢力の影は色濃く残っている。救出された仲間たちと、呪術師の儀式を阻止できたという成果は、確かな連携と仲間たちの絆の証だ。だが、黒い翼の男の存在は、今後さらなる大きな試練の予兆であり、彼の「主」と呼ばれる存在の影が、これからの戦いに大きな影響を与えることは間違いない。
防衛戦に疲弊した街の住民や騎士団、そして仲間たち―ミレイ、パサラ、ナスティア、セラ、レナ、ノーラ―の姿は、ただの生存を超えた希望と決意を感じさせる。今後、クヴァルを守るとともに、闇の根源に立ち向かうための新たな戦いが始まろうとしている。俺たちは、互いに支え合いながら、未来への一歩を踏み出す覚悟を固めたのだ。




