共闘の陣――白翼と黒翼
本章は、クヴァル防衛線が始動し、北門付近が激闘の舞台となった瞬間から始まる。大雪の中、無数の魔物が襲来し、騎士や冒険者たちが命がけで防衛戦を繰り広げる中、俺たちは各自の魔法や武器で連携を深めながら、戦局の変化を必死に見極める。
特に、白翼のパサラの覚醒が光と闇のバランスを大きく揺るがす中、以前一度だけ対面した謎の「黒い翼の男」が、今やその威圧的な存在感を示し、敵としての脅威を放っていた。
この厳しい戦場の中で、ノーラ、ナスティア、セラ、レナ、ミレイ、そして俺――新堂 現太の決意と連携が、クヴァルの防衛を支え、同時に闇に潜む更なる謎への伏線となる、壮絶な一幕が展開される。
クヴァル防衛線が始動し、北門付近は戦場の様相を呈していた。大雪の中、無数の魔物が押し寄せ、騎士や冒険者たちが必死に応戦している。闇の術式を帯びた個体もおり、簡単には倒れそうにない。
俺は光弾を連射しながら、仲間たちに声を張り上げる。
「セラ、レナ! 広域魔法で先頭の魔物をまとめて吹き飛ばして!」
「了解。レナ、合わせるわよ」
「うん、任せて」
セラとレナのコンビが魔力を高め、一気に範囲攻撃を放つ。炎と氷、そして光の融合――轟音が雪原を揺らし、魔物の一部は一掃される。だがまだ後続が続々と押し寄せてきて、キリがない。
一方、ナスティアは地上戦の先頭に立って爪で魔物をかき分け、ノーラや騎士団と共に陣形を形成している。
「こいつら、数も多いし息が合ってる。まるで誰かに統率されているみたいだな……!」
ナスティアが毒づきながら、獣人の俊敏さで敵を翻弄する。ノーラは騎士の仲間たちを指揮し、剣の突進で魔物の群れを押し返す形だ。
俺は上空から状況を見極めようと城壁に登り、グレーの空を睨む。黒い翼の男はまだ姿を見せないが、魔物の動きには何かしら“司令塔”のような意志を感じる。
白翼の覚醒
「見て、あれ!」
隣でパサラが慌てた声を上げる。彼女の背にある白い翼が微かに光り始めているではないか。どうやら戦場の混乱と闇の魔力の高まりを感じ取り、パサラの翼が反応しているらしい。
「パサラ、大丈夫か?」
「う、うん……ただ、体の奥から何かが熱を持っている感じ。私、なんだか力が漲ってきて……」
パサラは初めて見るような鋭い眼差しを向け、城壁下の魔物へ向けて光の魔法陣を形成する。
「――『ルーン・オーバーレイ』、発動!」
何度か使っていた通常の回復・援護魔法とは別に、強力な範囲浄化の術を展開。眩い光が円形に広がり、魔物たちが軒並み大きく後退する。
「すごい……パサラがこんな強力な魔法を?」
俺は驚きながらも、彼女の翼に刻まれたルーンが鮮やかに光っているのを見て、改めて思う。パサラの“白翼”は、単なる装飾ではなく、世界の記憶や光の力を顕現できる特別な存在らしい。
「私もびっくり……でも、これなら一時的に闇の魔物を押し返せるかも」
パサラが汗を流しながら微笑む。彼女自身も限界を感じているのか、すぐには連発できないはずだが、この瞬間の防衛には大いに役立つだろう。
黒翼の影、降臨
パサラの術により、北門側の魔物の勢いは大きく削がれた。しかし、そのとき城壁の上方で突風が巻き起こり、漆黒の翼を持つ人影が急降下してくる。
「あいつ……!」
俺が思わず身構えると、漆黒の翼の男が軽く羽ばたき、城壁の上に降り立つ。顔には冷たい笑みを湛え、周囲の騎士や冒険者が一瞬で萎縮するほどのオーラを放つ。
「やあ、久しぶりだな。ずいぶんと活躍しているようだが……所詮は小手先の光、どこまで持つかな」
この男こそ、以前対峙した黒い翼の男。その背後に強大な存在が控えているという噂が耐えない。
パサラの翼が再び震え、彼女は恐怖混じりに構える。男はそれを見ると少しだけ眉を上げた。
「ほう……白翼の少女か。なるほど、翼を持つ者がいずれ闇を阻むなどと聞いたが、まだ幼いな」
「あなたこそ、なぜこんなことを……!」
パサラが問いただすが、男は「言う必要もない」と鼻で笑う。
城壁の下では、ミレイやナスティアたちが魔物相手に奮闘しているが、上空に黒翼の男が現れたことに気づき、そちらを見上げ始める。恐怖が広がり、士気が揺らぐ。
俺は思い切って男に詰め寄る。
「お前の目的は何だ? 闇の術師を操り、魔物をけしかけ、いったい何を――」
「お前に教える義理はない。……もっとも、この街をどうこうするのは本命じゃないのだが、踏み台としては悪くない」
男の瞳は底なしの闇を宿しているように見え、静かに羽を広げる。その瞬間、強烈な闇の風が巻き起こり、俺とパサラはバランスを崩して城壁の縁ギリギリに追いやられる。
「くっ……!」
白翼 vs 黒翼
黒翼の男は軽く羽ばたくだけで強風を操り、城壁の上の兵士たちが次々に吹き飛ばされる。パサラが必死に光のバリアを展開し、俺も光弾で反撃を試みるが、男の闇の壁に阻まれて効果が薄い。
「力が違いすぎる……!」
俺が焦りを感じたそのとき、地上からミレイやナスティアたちが城壁へと駆け上がってきた。セラやレナも援護射撃で闇の突風を抑えようと呪文を放つ。
「現太、パサラ、無事か!?」
ナスティアが叫ぶ。パサラは震える手でバリアを維持しているが、今にも限界が近い。黒翼の男は目だけでナスティアを見下し、「貴様ら程度が束になっても無駄だ」と低く言い放つ。
「無駄かどうか、試してみるかい?」
ミレイが黒い翼を少しだけ開き、まるで一瞬の瞬発力を使って男へ突撃する。彼女は普段飛行できるほどの翼ではないが、短距離の高速移動なら可能だ。
しかし、黒翼の男は余裕で受け流し、逆に闇の刃を放ってくる。その迫力に、ミレイは防御態勢を取るしかなかった。
「貴様は……同じ翼を持つ者か。だが、目覚める道を誤ったな」
「何を……言ってるの?」
ミレイが鋭く問い返すが、男はそれ以上語らない。
一瞬の攻防が激しく交わされ、俺たちは城壁の端に追い詰められる形になる。パサラの光バリアもヒビが入り、セラとレナが援護しようと魔法陣を唱えるが、男は驚異的な速度で移動して術式を叩き壊す。
(駄目だ……力の差が大きい。どうすれば……)
絶望が頭をよぎるが、ここで退けば街の防衛どころではなくなる。まさに白翼と黒翼の衝突が起きつつあるが、白翼側のパサラやミレイは完全に圧倒されている。
男はあくまで本気を出していないように見える。何か他に目的があるのだろうか。彼は最後に闇の衝撃波を放ち、俺たちを城壁から吹き飛ばそうと力を込める。
「――させないよ!」
そこに、突然強力な風切り音が響き、ノーラたち騎士団が放った遠距離攻撃や弓矢が横合いから飛んできた。集中射撃で男の背後を狙い、ほんの僅かに動きを阻む。
その隙にナスティアが背後から殴りかかり、セラとレナが光と氷の複合魔法を突き刺すように放つ。俺も光弾を重ねるが、男は片翼を広げてほとんどを防ぎ切ってしまう。
しかし、攻撃を受け止める形になったことで闇の衝撃波は不発に終わり、俺たちが城壁から吹き飛ばされる最悪の状況は回避できた。
「おのれ……手間を取らせる」
男は冷ややかな視線をこちらへ投げ、闇の霧をまとい始める。背後に黒い渦が現れ、彼の周囲に激しい魔力が渦巻く。
「逃げるの……!?」
パサラが叫ぶが、男は「今日のところはここまでだ。お前たちの力、少しは見せてもらった」と不敵に笑うと、闇の渦に紛れて姿を消してしまう。
後に残されたのは、城壁で震える兵士や仲間たち、そして遠方の雪原を埋め尽くす魔物の群れだけだ。
戦いの行方
黒翼の男が退いたからといって魔物が消えるわけではない。むしろ、指揮系統が混乱したせいか、魔物が暴走気味に街へ突進してくる。
「まだ終わりじゃない……!」
ミレイが息を整え、ナスティアが前線へ復帰。セラやレナも魔法を再編し、パサラは光バリアの最後の力を振り絞る。俺は光弾を作り出して、地上からなだれ込もうとする魔物を必死で迎撃した。
ノーラや騎士団も合流し、クヴァル全体が総力を挙げて戦う形になる。雨あられのように魔物を攻撃し、徐々に数を減らしていく。
長時間の戦闘で疲弊は大きいが、崩れることなく守り切っていることが希望だ。最終的に魔物は散り散りに雪原へ撤退していき、城壁周辺には無数の屍が残された。
こうして、黒翼の男の“挨拶”ともいえる襲撃を退けたものの、街の被害は小さくない。怪我人も出たし、闇の恐怖を目の当たりにした住民が増え、不安は増大している。
俺たちは完全勝利とは言い難い中、街を守り抜いた事実を胸に刻みながら、次の策を考えねばならないと思い知る。黒翼の男が本気を出さないまま退いたのは、別の目的があるからなのか、あるいは余興に過ぎないのか。
「……このままじゃまた来るわね。さらに大きな闇が」
セラが呟く。パサラは傷ついた兵士を回復しながら涙ぐみ、ナスティアは「絶対にぶっ倒す」と拳を握りしめる。ミレイも「翼を持つ者として、やはり立ち向かわなくちゃいけないのか」と複雑そうに呟く。
白翼のパサラと黒翼の男――対照的な力が揃いつつあるこの地で、俺たちには何ができるのか。
今回の戦いは、ただの前哨戦にすぎないかもしれない。それでも、みんなで守り抜いた成果は確かにあるし、街の人々も俺たちを信頼し始めている。
遠く雪の中に姿を消した黒翼の男を見つめながら、俺は胸の奥で燃える決意をもう一度確かめる。「必ず闇を打ち破るんだ」と。
クヴァル防衛線は成功したが、これからが本当の試練かもしれない。空には暗雲が垂れこめ、真の決着までの道は遠いのだろう。
激しい戦闘の末、黒い翼の男の襲撃を一時的に退けたものの、クヴァル防衛線は完全な勝利を収めたわけではありません。戦いの中で、パサラの白翼が輝き、ミレイやナスティア、そしてセラとレナが力を合わせた連携は、俺たちの絆の深さを示しました。しかし、敵は決して完全には消えず、黒い翼の男の存在は、背後に更なる強大な闇の勢力が潜んでいる可能性をほのめかしています。
防衛戦で傷を負いながらも、住民や騎士団、そして俺たち連合チームの決意は揺るがず、これから先の更なる試練に立ち向かう覚悟を新たにさせました。




