嵐の夜、語られる決意
戦いの激しさと共に、闇の儀式の陰に潜む恐るべき「闇の翼を持つ男」の存在が、まだ全貌を明かさぬ謎と深い不安を呼び覚ます。仲間たちは、監視所の惨状や失踪した騎士たちの謎を前に、これまでの戦いで得た手がかりと共に、次なる大きな試練に向けた準備を進める決意を固める。果たして、この先、我々は闇の勢力にどう立ち向かい、何を掴むのか――
亡霊の祭壇での激闘を終え、救出した人々や拘束した呪術師を連れて一行はクヴァルへ戻ることになった。途中、天候が急変して激しい吹雪が起こり、やむを得ず峠に近い廃村で夜を過ごす羽目になる。
静まり返った廃村の建物は、屋根や壁が半壊し、雪と風が吹き込む。何とか一番マシな家屋を見つけ、塞げるところを塞いで焚き火を焚くのが精一杯だ。
「寒い……」
セラが小さく震えながら毛布にくるまり、ナスティアは「獣人だから平気」と言いつつも尻尾の先が冷えきっているのか、時折ブルッと震える。レナは相対的に平静だが、それでも指先はかじかんでいるようだ。
「よし、俺も少し魔力で火を強めてみる」
俺が光の魔術を火の魔石に流し込み、火力を上げると、部屋全体がほんの少しだけ暖かくなる。救出した騎士と住民は別の部屋で休ませ、ノーラが見張りをする。しばらくしてノーラが戻ってくると、意外に素の口調で笑った。
「ふふ……少しマシになったわね。あの外の嵐はしばらく止みそうにないけど、夜明けには落ち着くという予報があったから、明日には出発できるかも」
ノーラも鎧の一部を外して軽装になり、肩と太ももあたりに包帯が巻かれている。先の戦闘でかすり傷を負ったためだが、ナスティアやレナが応急処置をして事なきを得た。
「その傷、まだ痛む?」
俺が気になって尋ねると、ノーラは少し照れたように俯く。
「騎士として恥ずかしいわ。あなたたちにばかり助けられて……」
「そんなことないよ。ノーラがいなかったら、あの祭壇で助けられなかった人もいたはずだ」
微かなランプの明かりの下でそう言うと、ノーラは頬を赤くして「ありがと」と小声で返してくる。
一方、セラとレナは火のそばで寄り添い、ナスティアが毛布の端に陣取っている。皆もそれぞれ疲れが出てきたのか、口数は少ないが、なんとなく連帯感を感じる雰囲気だ。
吹雪の音がゴウゴウと鳴り、窓枠がカタカタ震える中、ぽつりとセラが口を開く。
「ねえ、せっかくだから、こんな夜はお互いの“決意”でも語らない? どうしてこんな危険な道を歩いてるのか……って」
その提案に、ナスティアが「面倒な話だな」と言いながらも興味を示す。レナは静かに頷き、ノーラも「確かにそういうの、聞いてみたいわ」と賛同する。
そして、まず口火を切ったのはセラ本人だった。
「私の場合は……師匠を闇の呪術師に殺されたかもしれないって話を以前ちらっとしたわよね。まだそれが本当かも分からないけど、闇の勢力を追うことで真実に近づけるかもしれないって思ってるの」
セラはローブをきゅっと掴むように握りしめ、瞳に憎しみを宿して言葉を続ける。
「もちろん、世界を救うとか大義名分もあるけど、一番は“復讐”かもしれない。……けれど、あなたたちと一緒に行動してるうちに、単なる復讐じゃ解決できない何かがあるって分かってきた。だから、まだまだ先は長いわね」
そう言って微笑むセラを見て、レナは安堵したように肩の力を抜く。
「私も似てるかも。故郷が北のさらに奥地にあるんだけど、そこには“氷壁”や“古い術式”があちこちにあって……。どうやら闇の勢力と何か因縁があるみたいで、私の家族も巻き込まれて亡くなったと聞かされてる。だから、真実を知りたいの」
レナは儚げな笑顔でそう語り、俺と目が合うと小さく照れる。
「この前、氷壁の迷路で得た拓本は手掛かりになりそう。だから、これからも力を貸してほしいな……現太さん」
「もちろん。みんなで協力して、必ず何か見つけてやろうよ」
そう答えると、レナはほんのり顔を綻ばせる。
「じゃあ、ナスティアは?」
俺が振ると、彼女は尻尾を払いつつ面倒くさそうに口を開く。
「……あたしは仇を討ちたいだけ。里を焼かれたんだ。まだ確信はないけど、闇の術師や魔族が関わってると睨んでる。そのために強くなりたいし、仲間がいるなら心強い。別に大義なんかなくてもいいだろ?」
その言葉には苦い怒りが滲んでいたが、最後に小さく「お前らといるのは嫌いじゃない」なんて呟くもんだから、思わずクスリと笑ってしまった。
ノーラは興味深そうに聴いていたが、ちらりとこっちを見て遠慮がちに問いかける。
「じゃあ……現太さんは? 異世界から来たって、私はまだ半分信じきれてないけど……どうしてここまで戦ってくれるの?」
その問いに、みんなの視線が集まる。俺は少し恥ずかしくなりながら、正直な気持ちを打ち明けた。
「最初は勢いに任せて戦ってただけさ。けど、この世界で出会った人たちを見捨てたくないし、俺が“特別な力”を得たなら、役に立ちたいんだ。……異世界でもどこでも、仲間を守りたいって気持ちは同じじゃないかな」
言い終わると、ほんの少し胸が熱くなる。ミレイやパサラはいないが、代わりに目の前にはナスティア、セラ、レナ、ノーラがいて、それぞれの事情を抱えながら戦っている。
「あなたらしいね」
セラがくすりと笑い、レナは共感するように頷く。ナスティアは「変な奴」と呟き、ノーラは目を伏せて言葉を探している。
「……ありがとう。私たちクヴァルの騎士にとっても、あなたたちみたいに力を貸してくれる存在は大きい。……それに、仲間を守りたいっていう気持ちは私も同じだから」
ノーラは照れ隠しに髪をかき上げ、視線を横に逸らす。
そんな風に、お互いの決意をさらけ出した夜。ふと外を見れば、吹雪がいよいよ激しさを増し、建物が軋む音が鳴り響く。
「今日ばかりは動けそうにないね。みんな、暖を取って仮眠を……」
レナが毛布を分け合い、セラやナスティアと身を寄せ合う。ノーラも少し離れた位置で剣を傍らに置きながら横になった。
一方、俺は少し離れた場所で火をかき回し、見張りをする。時折、女性陣の寝顔や薄着のシルエットにドキッとしながらも、変な感情が湧きそうなのを必死で抑える。
(守りたい……か)
こんな状況で照れている場合じゃないと自覚しながらも、彼女たち一人ひとりが俺にとって大切な仲間であり、少しずつ違う感情――好意とか、安心感とか――を持ち始めている自分に気づかされる。
外の嵐はまだ止みそうもない。でも、この廃村の家の中には、仲間同士の温もりと、確かな決意が宿っている。闇は深いが、必ず抜け出す道はあるはずだ――そう信じて、俺は焚き火をじっと見つめた。
激闘を経た後、仲間たちとの絆を一層深めながら、救出した人々の命と失われた手がかりに改めて思いを馳せた。闇の儀式の痕跡を打ち破る中で、捕らえた呪術師たちが残した「師」という謎の言葉は、背後に潜むさらなる大いなる存在の存在をほのめかしている。だが、たとえ恐怖と不安が胸を締め付けようとも、ノーラやセラ、ナスティア、レナ、そして仲間たちと共に、我々はこの厳しい世界で守るべきものを決して見捨てはしない。小さな勝利と温かな絆が、次なる大きな戦いへの希望となる。俺たちは、未来を切り拓くため、また新たな局面へと歩みを進める覚悟を固めたのだ。




