凍える街と新たな動乱
クヴァルの街に留まると決め、数日が経過した今、仲間たちは魔物討伐や古代遺跡の監視を通して、この北方の厳しい環境に慣れ始めている。翌朝、凍える客舎から目覚めた俺――新堂 現太は、外に広がる真っ白な銀世界と、落ち着かない寒さを肌で感じながら、これからの旅路に備えている。黒翼のミレイ、白翼のパサラ、獣人のナスティア、そして新たな仲間のセラとレナと共に、今や仲間同士の絆を深めながら、次なる闇の謎―古代遺跡に潜む「闇の儀式」の真相に迫るため、覚悟を決めたこの瞬間が、第2章の幕開けだ。
クヴァルの街に留まると決めてから、すでに数日が経過した。俺――新堂 現太たちの活躍で、一時的に大きな脅威は去ったと思われたが、街の雰囲気はいまだに重く沈んでいる。周辺の集落や道中で小規模な魔物の襲撃が相次ぎ、住民たちは不安を拭えないままだ。
雪に覆われた石畳の通りを歩きながら、俺はこの北方の厳しさを肌で感じていた。寒冷な気候はもちろん、闇の儀式の影響や魔物の出現など、日常の枠を超えた問題が山積みだ。街の人々が怯えるのも無理はない。
「今日も警戒態勢か……」
隣を歩くのは獣人の少女、ナスティア。狼の耳と尻尾を持ち、荒々しい言動だが、実は誰より仲間思いだ。彼女は昨夜も街の周囲を嗅ぎ回り、魔物や怪しい気配を探していたらしい。
「獣
あたしの鼻には、まだ怪しい臭いが漂ってる。少しは減ったかもしれないけど、決して安全になったわけじゃないね」
ナスティアが鼻をひくつかせながらボソリとつぶやく。そんな彼女の横では、淡い銀色の髪をなびかせたセラフィーナ・デュボワ(セラ)が冷静に周囲を見渡していた。彼女はクールな魔術師であり、今回の闇の儀式を追う中で偶然、俺たちと行動を共にすることになった。
「闇の術式の痕跡は薄れてきているけど、完全に消えたわけじゃないわ。……市内の魔力の流れがどこか歪んでいる気がする」
セラは厳しい表情で雪の上に視線を落とす。王都で暮らしていたときは感じなかった“異質な魔力”が、このクヴァル周辺にはまだ漂っているという。
そしてもう一人、半ば白銀の髪を持つエレーナ・イリイナ(レナ)が合流した。レナは氷や雪の魔法に長けた少女で、北方の気候にも慣れているらしい。自分の故郷がこの先にあると言い、北に足を向ける理由を探しているようだ。
「……やっぱり、雪の降り方がいつもと違う。自然の気候だけじゃなく、魔力が干渉しているかもしれない」
レナは真剣な表情で空を仰ぐ。密度のある雪がしんしんと降り続き、人々の生活を蝕んでいるようにも見える。
そんな中、街の有力者から俺たちに新たな依頼が届いた。
「北方の峠にある監視所が、最近まったく連絡を寄越さない。何らかの異変が起きている可能性が高い。……悪いが、調査を頼めないだろうか」
クヴァルの防衛隊長から直接そう頼まれたのは、ミレイとパサラが留守番に回ったからだ。姉妹は街中の巡回や住民の世話、交渉役を引き受けているため、俺たち4人が峠を見に行くほうがスムーズだろうという判断。
もともとクヴァルに残ると決めたのは、街を守るためだった。でも、街を守るには周辺の安全も確保しなければならない。監視所が正常に機能していないなら、それは重大な危険を意味する。
「行くしかないか……」
宿に戻った俺は、ナスティア、セラ、レナと顔を合わせ、明日の朝に出発する段取りを確認した。
「ひとまず装備や防寒具を整えておこう。峠は吹雪が激しくなるかもしれないし、魔物の出没も予想されるからな」
俺がそう提案すると、セラが頷き、分厚い魔術書を開いて魔力の込め方を確認し始める。レナは自分の氷魔法が充分に使えるよう、練習用の魔力石を点検。ナスティアは爪の手入れをしながら、「面倒くさいなあ」と悪態をつきつつも、獣人用の厚手のケープを用意していた。
すると、パサラが部屋に入ってきて、にこやかに微笑む。
「明日から峠へ行くんだって? お姉ちゃんと私は街を守らなきゃいけないから一緒には行けないけど……せめて支度を手伝うよ」
パサラはそう言って、各人の防寒具のサイズ合わせをしてくれたり、保存食を用意してくれたりと大活躍。
その途中、ナスティアが試着に苦戦してケープの留め具を引きちぎりそうになり、パサラと一緒に体を寄せ合って直す場面があった。獣人と人間、違う種族同士のやり取りに微笑ましい空気が流れる。
さらにレナが「この下着、保温性が高いんだけど……」とチラッと見せてしまい、俺が赤面するハプニングも。セラは呆れ顔ながら、「もう少し落ち着いて準備しなさいな」と釘を刺す。
わずかなドタバタシーンがありつつ、翌朝には全員がしっかりと装備を整え、峠へ向けて出立することになった。
夜、宿の部屋で一人考える。俺はこの世界に呼ばれてまだ日が浅いが、周囲の協力や力の成長を感じている。魔物に怯える人々を見捨てるわけにはいかないし、翼を持つ仲間――ミレイとパサラのためにも、少しでも安全な環境を作りたい。
窓の外には、雪が止む気配を見せない。闇の儀式による異常気象かもしれない。明日から始まる峠の調査で、一体何を目にするのだろうか。
「……覚悟、決めないとな」
そう小さく呟き、俺はそっと目を閉じた。外の風は冷たく強いが、心の中には不思議な熱が燃えている。きっとこの先の困難も、みんなとなら乗り越えられる。――そう信じて。




