かけがえのない翼と始動する運命
厳しい戦いの後、休息の中で交わされる会話や、互いに支え合う温かさが、これから待ち受ける更なる闇の脅威への決意を深める。
――闇の儀式に関わる謎や、黒翼の男の存在が、彼らにとって単なる試練ではなく、未来への大きな伏線となることを予感させる序章だ。
遺跡を出てクヴァルの街へ帰還した俺たちは、宿の一室で休息を取りながら一連の出来事を整理していた。
「闇の翼を持つあの男……全身から漂う恐ろしさは、下手すればゴーレムや骸骨武者なんて目じゃないわね」
ミレイがベッドの淵に腰掛け、悔しそうに言う。彼女も黒翼を持つ身だが、あの男の漆黒の力はまるで別次元。相手は何らかの強大な存在から命を受けている――そんな雰囲気すら感じた。
「俺たちが倒した骸骨武者だって、あの男にとってはほんの手駒なんだろう。きっと、“主”が別にいるんだろうね」
パサラが拾ってきた石碑の欠片を眺めながら推測する。彼女は文字の断片から「この世界の記憶を喰らう儀式」に関する手がかりを見つけていたが、まだ核心には届いていないようだ。
一方、ナスティアは窓際で外の雪景色を見下ろしている。クヴァルの街は今日も薄暗く、人通りが少ない。
「結局、この街を救うにはどうしたらいいんだろうな。闇の儀式だか何だか知らないけど、放っておいたらみんな衰弱していく一方だろ」
彼女は短く息を吐き、尻尾をひと振りする。自分の故郷(獣人の里)も似たような苦境にあることを思い出しているのかもしれない。
「まだ第一段階を終えただけよ。あの男の言葉どおり、私たちは“試し”を受けたに過ぎない。これからが本番だろうし、もっと大きな戦いが待ってるはず」
ミレイの言葉に、俺は静かに頷いた。確かに、この程度で終わりそうな気配はない。むしろこれから先が本当の地獄かもしれないのだ。
夜になり、宿のロビーでナシアが合流した。彼女は街の有力者や冒険者の仲間とも接触し、今回の遺跡探索で得た情報を共有したらしい。
「皆、一様に驚いていたわ。あの遺跡にあんな化け物がいたなんて……けど、実は闇の翼を持つ者の話はちらほら聞こえてくるの。とある“勢力”の手先じゃないかって噂もあるけれど、詳細は分からずじまい」
「やっぱりそうなんだ……。何かしらの黒幕がいて、あいつは使い走りのような立場なのかしら」
ミレイが手のひらを握りしめる。悔しそうだが、今はその情報以上は得られない。
クヴァルの街は、いわば北方の最前線。さらに奥には雪に閉ざされた山岳地帯が広がり、魔物や危険な勢力がうごめくという。今回の遺跡での出来事は、まだほんの序章に過ぎない予感がする。
それでも、俺たちには確かな成果があった。闇色の翼の男に直接対面し、闇の儀式の一端を阻止したのだから。町の住民の心にも、少しは希望の光が差し込んだはずだ。
「これから先、私たちはどう動くの? さらに北へ進む? それとも一旦王都に戻って報告する?」
パサラが皆に問いかける。ミレイは地図を眺めながら考え込む。
「どちらも必要だけど……まずはこのクヴァルを安全にする方が先かしら。実際、闇の影響を受けた魔物がまだ周辺を徘徊してるわ。私たちがすべて排除はできないけど、街の兵士や冒険者たちと連携すれば被害を減らせるかも」
ナスティアもそれに賛同する。
「同感だね。ここを放置して先へ進んだら、背後からやられるかもしれないし。せめて暫定的にでも安定させたい」
こうして、俺たちはクヴァルにしばらく留まり、周辺の魔物討伐や遺跡の監視を行うことを決定した。まだ謎は多いが、焦って北上しても無駄に危険を増やすだけだ。
一夜明けてから数日、俺たちはクヴァルの人々と協力し、街の防衛と情報収集を進めることになる。おかげで魔物の襲撃が減り、わずかではあるが交易も再開する兆しが見え始めた。
人々の顔に少し笑顔が戻り、宿屋の主人も「助かったよ」と言ってくれる。ほんの小さな前進かもしれないが、俺には大きな手応えだった。
しかし、闇の翼の男の存在は常に脳裏から離れない。あの“使い”じみた振る舞い、底知れぬ実力……そして「いずれ運命に収束する」という薄ら寒い言葉。
あの闇の向こうには、一体どんな“主”がいるのか。想像するだけで震えるが、同時に確かな決意も芽生えている。
「俺はもう逃げない。ここでやり残したことがあるなら、全部片づけてから先へ進む……!」
宿の屋根裏からクヴァルの街を見下ろしながら、そう心に誓った。異世界で得た破格の力は、仲間と共にあってこそ意味がある。その仲間たちがいる限り、俺はこの世界で戦い続けられる。
黒翼のミレイが肩を並べて立つ。視線を雪の積もる遠方へやりながら、静かに言う。
「あなたが来てくれて、私たちは助かったわ。パサラもナスティアも、あなたを必要としてる。……だから、絶対に死なないで」
普段はクールな彼女の言葉に、俺は少し驚きつつも微笑んだ。
「そっちこそ。俺が倒れたら助けてくれるんだろ?」
「当然よ、私たちは仲間だから」
そう、俺たちはもう一人じゃない。異世界での冒険は、ここからが本当の始まり。闇の力を操る男たちや謎の儀式、そして背後に潜む巨大な意志――それらと対峙する運命を背負いながらも、俺たちは“自分たちらしい”進み方をしていけるはずだ。
この章の結末は、決して「完結」ではない。あくまで、さらなる戦いへの“予感”と“幕開け”だ。世界の行方を賭けた大きな運命に、俺たち自身がどう立ち向かうのか――それは、これから紡がれる物語の中で、少しずつ答えが見つかるだろう。
――そして、遠く暗い空の下、あの闇色の翼の男はどこかで微笑んでいるかもしれない。彼の“主”に報告するかのように。
まだ知らない。だが、いずれ俺たちは、その真の黒幕と向き合わなければならないと直感していた。
こうして俺たちはクヴァルに残り、短い休息と街の防衛に力を注ぐことを選ぶ。異世界に来たばかりの落ちこぼれ学生――新堂 現太が、黒い翼のミレイ、白い翼のパサラ、獣人のナスティアと共に辿る旅路は、やがて大いなる運命の歯車を回し始める。
今はまだ、小さな勝利と小さな絆があるだけだ。それでも、その一歩が未来を拓く鍵になる――そう信じて、俺たちは次のステージへ向けて歩み始めるのだった。
戦いを乗り越えたあと、クヴァルの街の不穏な空気の中で、仲間たちは未来への覚悟と新たな目標を胸に、次の一歩を踏み出そうとしている。
一つひとつの小さな勝利と絆が、やがて大きな運命の歯車となることを信じながら、彼らは今、闇の勢力に抗うための策を練っている。
この章で明かされた手がかりや、黒翼の男の不気味な言葉は、次章でさらなる衝突と真実の追求へと繋がっていく。仲間との温かな支えが、どんな困難も乗り越える力となる――。
これからの展開に、さらなる緊張と希望が交錯する物語が続くことを、静かに、しかし確かに予感させながら、ここで一旦幕を閉じる。




