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冴えない教室と緋色の瞳

異世界召喚ファンタジーの幕開けを飾る一幕。

この章では、冴えない学生・新堂 現太が日常の延長で考えもしなかった“異世界”へと呼び出される瞬間を描写している。

赤い瞳を持つことで浮いた存在となり、退屈な学校生活を持て余していた現太。

しかし、不可思議な光とともに始まる一連の出来事によって、彼の人生は一変し、未知なる冒険へと誘われる。

教室から一転して剣や魔法が飛び交う世界へ――息つく間もなく危険な戦闘に巻き込まれた現太は、果たしてどんな運命に巻き込まれていくのか。

一歩踏み出した先に広がるファンタジーの世界で、彼が何を見つけ、どのように成長していくのか――

 午前の授業が終わり、昼休みが来ても、俺はいつものように机に突っ伏していた。名前は新堂(しんどう) 現太(げんた)。16歳。見た目は地味だし、成績も正直どん底に近い。胸ポケットに差したペンは出しっぱなしで、ノートには落書きしかない。

 グレーのジャケットは古着屋で買ったもので、袖口なんかすり減ってるし、流行とも程遠い。指には安物のドクロのシルバーリングをはめてはいるけど、別に格好良いわけでもない。そんな俺が学校で浮き気味なのは、主に“瞳”が理由だ。


 普通の日本人は黒か茶色の瞳だろうけど、俺の目は深い紅色。それこそ海外のハーフかと思われるレベルで、子供の頃からずっと奇異の視線に晒されてきた。

(まあ、今更どうこう言っても変わらないけど……)

 昼飯を食う相手も見つからないまま、俺は一人でコンビニのおにぎりをかじる。友人がいないわけじゃないけれど、何となく話しづらくて疎遠になってしまった。自分の居場所ってやつが、学校にはほとんど無いんだよな。


 午後の授業が終わったころ、クラスメイトが部活の誘いだなんだと席を立つ中、俺は一人で机に突っ伏していた。退屈な時間をただ流している。

「……今日はバイトも無いし、さっさと帰ってゲームでもするか」

 そうつぶやいて立ち上がった瞬間、背後の窓から異様な光が差し込んできた。青白いというか、虹色というか……説明しづらい不気味な色合い。教室が昼間とは思えないほど暗くなったかと思うと、床が歪んで波打つように見えた。


「な、なんだよこれ……?」

 思わず手を伸ばすが、そこには何もない。なのに空間がねじれるように揺らいでいる。周囲のクラスメイトの姿が徐々にぼやけ、まるで俺だけが異世界に取り残されたような感覚に襲われる。

 次の瞬間、視界が真っ白になった。息が詰まるような圧迫感と、身体が浮き上がるような感覚。まるで上下左右すら判別できない、カオスの中に引きずり込まれる。


 バタンッ、と大きな音がして、俺は硬い床に叩きつけられた。鈍い痛みが全身を走る。仰向けに倒れ込んだまま、目を開けると、そこは暗い石造りの部屋だった。

「いって……何だここ……?」

 床はひんやりとした石畳。周囲を照らすのは、壁に取り付けられた燭台の炎だけ。見慣れない紋章や文字が描かれているし、まるでファンタジー小説に出てくる遺跡のようだ。


 目をしばたたかせていると、ローブをまとった白髪の老人が杖を手に立っていた。深いシワの刻まれた顔と、興奮気味の表情。まるで魔法使いをイメージさせる姿だ。

「や、やっと繋がった……おお……ようこそ、異界の客人よ……」

「はあ? 何言ってんだ……?」

 敬語なのかそうでないのかも分からない口ぶりで、老人は喜びを噛みしめているように見える。でも俺には状況がさっぱり分からない。どうやら学校ではないし、夢オチにしてはリアルすぎる。


 そのとき、石造りの扉が勢いよく開き、鎧をまとった男たちが数人駆け込んできた。

「裏切り者のジジイめ、また余計なことを……!」

「しまった、もう追ってきたのか……!」

 老人が怯んだ様子を見せ、慌てて杖を構える。しかし男たちが抜刀するよりも早く、天井から光が降り注いだ。目が焼けそうなくらい眩しく、思わず目を覆う。

「な、なんだ!? うおおっ……!」


 光は一本の筋のように俺を包み込み、身体の奥底を熱くする。何かとてつもない力が身体を駆け巡り、自分じゃない自分が生まれるような――そんな感覚。

「お、おい……?」

 そのまま男たちが剣を振り下ろしてくるが、手応えを感じる前に俺は身体を捻った。まるで身体が羽のように軽く、相手の動きがスローモーションに見える。驚く彼らの胸元に素手で衝撃を与えると、ゴトリと音を立てて倒れ込んだ。


(嘘だろ……? こんなに動けるわけ……)

 自分の運動神経が急激に上がったようだ。格闘技の経験なんかないのに、予想以上のスピードとパワーで鎧を着た男たちを薙ぎ払ってしまう。

「君、すごいな……いや、まさかここまでとは……」

 老人は驚きと尊敬が入り混じった表情で、杖を握りしめたままぼう然としている。だが、相手は数が多い。次から次へと剣が振り下ろされ、俺は必死に回避しながらカウンターを入れる。


 やがて全員が床に転がると、急に老人がこちらを見て叫んだ。

「早くここを出て、街へ行くんだ。もう、わしではお前を守れん……!」

「守れんって……どういう……」

「余計な詮索は後だ! 誰かが助けに来るだろう……運命が、そう動いているはずだ……!」


 急かされるまま扉に向かうが、そこにはさらに別の兵士たちが押し寄せていた。これじゃ逃げ場がない。

 すると、通路の向こうから鋭い声が響く。

「どいて。ここは私が引き受ける。あなたは先に――急いで」

 現れたのは、漆黒の短髪に銀の羽根飾りをつけた少女。目は深いコバルトブルー、そして黒を基調としたミリタリージャケットを纏っている。


 彼女は俺の姿を一瞥すると、兵士たちを睨みつけて鋭く踵を返した。まるで空気を切り裂くような動作。

「……あなたが“呼ばれた人間”ね。よくもまあ、こんな危険な場所に来たものだわ」

「お、おれだって訳が分からないんだけど……」

 言いかけた瞬間、少女が腰に差していた短剣を投げ、敵兵の足元を正確に射抜く。兵士は悲鳴を上げて崩れ落ち、その隙に彼女はすばやく通路を突破した。


「走って。追いかけられたら私が援護する」

 冷静沈着なその声に背中を押され、俺は半ば強制的に走り出した。老人に別れの言葉をかける間もなく、俺は無我夢中で通路を駆け抜ける。後ろからは金属の衝突音や怒号が聞こえる。

 長い通路を抜けると、石造りの階段があり、その先は大きな木製の扉。少女が扉を押し開けた瞬間、外気と強い光が俺の瞳を刺した。


「わっ……!」

 目を開けると、そこには見渡す限り石畳の街並みが広がっていた。城壁に囲まれたような街で、ところどころに尖塔のような建物が見える。露店や行き交う馬車、そして剣や鎧を身につけた人々――どう見ても、ここは俺の知る日本ではない。


「おい、これ……何なんだよ?」

 呆然と立ち尽くす俺の横で、少女は淡々と言い放つ。

「ここは“王国”の辺境にある遺跡。その地下で、何らかの儀式が行われたらしいわ。あなたはその儀式で呼び出されたってところでしょうね」

「呼び出された……? ってことは、ここは……まさか本当に異世界とか……?」

 口に出してみるも信じ難い。けれど自分の足元を見る限り、夢でもCG映像でもない“現実”だ。


「あなた、名前は?」

 少女が鋭い目で問いかける。

「し……新堂 現太。高校生、一応」

「そう。私はミレイ・モントーヤ。……話は後でいいわ。とにかく目立つと余計な衝突を招くから、まずは安全な場所に移動しましょう」

 こうして俺は、見知らぬ世界に放り込まれ、正体不明の少女――ミレイと出会うことになる。

 この瞬間から、俺の平凡な“学生生活”は終わりを告げ、新たな冒険の幕が上がったのだ。

教室からわずかな猶予もなく異世界へ飛ばされた現太は、突然手に入った謎の力と、得体の知れない敵に戸惑いながらも、初めての“自由”や“冒険”の予感に胸を躍らせています。

けれど、目の前には不可思議な儀式や謎の勢力が立ちはだかり、どこをどう歩けばいいのかすら分からない新天地が広がるばかり。

そんな彼に手を差し伸べた黒髪の少女、ミレイ・モントーヤ――冷たい印象とクールな言動の奥には、きっと秘密や使命が隠されているのでしょう。

次なる章では、彼女やその他の仲間とともに、現太がどのように異世界を駆け回り、どんな試練に立ち向かうのか。

まったく違う常識と危険に満ちた舞台で、最初の一歩を踏み出した主人公の行く末に、どうぞご期待ください。

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