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アンタレスの誘惑  作者: はなみ 茉莉
ロマネストの夏期休暇
3/24

2.留学生に気をつけて!


かき氷あるけどシロップ何にする?と教室に入るなり声をかけられ、フィアナは少々面食らった。

面食らったが、レモン、と答える。

続いてリリーとその恋人もいちご、ブルーベリー、とそれぞれ答える。


ロマネストの住人は基本何でも魔法で解決するので楽観的な性分で、例え教室で誰かがかき氷を作りはじめても誰も咎めたりはしないのだ。

フィアナはロマネストに留学生としてやってきた当初は戸惑う事ばかりだったが、慣れてしまえばなんて事はない。

配られたかき氷を受け取るとクラスメイトと雑談に投じる。


「今日新しい留学生が来るんだって」

「今日から?もうすぐ夏季休暇ですのに……」


怪訝な表情を浮かべるフィアナに、女生徒が浮かれながら答える。


「ヴィントさんみたいなかっこいい人が来てくれたらなあ!愛想はもっと良い人がいいけど」


槍玉に上げられたヴィント──親友リリーの恋人は、整った小さな顔に長い手足で精巧な人形のよう。

濃紺の髪を短髪に切り揃えてはいるものの、長めの前髪はどこか中性的で圧倒的な女性人気がある。

ただし恋人・リリーにしか興味がないようだが。

ヴィントは薄く笑うと、


「とんでもない。日々交流に励んでいる。特に海辺を見学しに来た連中とは()()()()()したくてな。学年と名前をしたためておいた」


と言った。

すぐ後ろで男生徒達が「お前死んだな」「許してください!命だけは!」と小芝居を打ちヴィントに拝み倒している。

ヴィントは確かに排他的で物静かな印象ではあるが、恋人をこよなく愛しているし、他の生徒と揶揄しあうくらいの付き合いの良さがある。


「ところでフィアナさんこれどういう顔?」


女生徒はリリーの顔を覗き込み、神妙な顔つきでかき氷を見つめていたリリーはわたわたと慌てる。


「ああ、この顔は練乳が無いって顔ですわ」


言うなりフィアナは魔法で練乳を取り出しリリーに渡す。


「ごめんなさい……!みんなかけてないのに、私だけかけてたら変かと思って……!」


リリーは顔を赤らめ照れながら大きな声で説明すると練乳のチューブを思いっきり握り締めた。

握り締めたので、かき氷の上にこんもりと練乳が乗った。


「何それー?誰も変って言わないよ!」


あはは、と笑う女生徒、ヴィントは何も言わずリリーのかけすぎた練乳を掬って自身のかき氷にも乗せた。

まだまだ盛れているのでフィアナも横から練乳をとって乗せた。甘い。






◽︎◽︎◽︎







はーい、席についてね、と足取り軽やかに教室に入ってきた教師のひと声で皆着席する。

リリーの恋人ヴィントは隣のクラスなので自分の教室に戻って行った。


「あーっと今日留学生……もう聞いてる?話早いね。じゃあ入ってもらおう。入って入ってー」


男か、女か、はたまたどんな種族かと皆期待を込めてドアを見つめた。が。

クラスはしんと静まり返り、ある種の緊張でぴりっとした。


入ってきた青年はものすごく……

何というか……


フィアナはちらっと隣のリリーを盗み見た。

盗み見てぎょっとする。

リリーは体がフィアナに向くかという勢いで顔を横に向け、フィアナを目を見開いた必死の表情で見つめていた。

……何!?

どういうことかと考える。

この顔。


少し前に寮で抜き打ちの持ち物検査があった。

留学生で寮暮らしのフィアナとリリーにとって初めての持ち物検査ではあるが、そんなに厳しく取り立たされる事はない。

せいぜいアルコールや違法薬物など学生に相応しくないというものが取り上げられるだけではあるが、寮も学校もなかなかに治安が良く、そんな物を持ち込んでいる生徒は皆無。

終始和やかな監査となるはずが、あの時もリリーはこの顔をしていた。

監査役の教師に聞かれ、リリーは正直に白状したものの、持ち込んでいた物は何と恋人のワイシャツ。


持ち込んだブツに周りの女子たちはにわかに盛り上がり、教師はそういうのは……黙ってて良いのよとため息混じりに呟いた。


……とにかく。

この顔。

どうしようもなく切羽詰まった時の顔である。


「今日からクラスメイトになるオルフェさん。みんな仲良くね〜」


顔は凶暴だけど、と付け加える教師。

顔は凶暴……教師が言う事か?とは思うものの……鋭い三白眼に目の下には深い隈、血色の悪い白い肌を白い髪が更に引き立たせている。

凶暴と称さずに何と言うか。

オルフェは何も言わず、ずかずかと教室を歩いていく。

クラスメイトは皆萎縮し、距離が縮まるとフィアナもごくりと生唾を飲み少し怯んだ。

そしてそのまま、リリーの机の足をガンと蹴りつけた。

リリーはぴいと小さく悲鳴を上げ……オルフェは通り過ぎ、後ろのドアから教室を出て行ってしまった。


「あ、あれ?オルフェさん?おーーーい?」


教師が戸惑いながら声をかけるものの、その姿はすでに無い。


何だあれリリーさん大丈夫?と若干下心あってか良い所を見せようと男生徒が声をかけるも興奮した女生徒が被せ気味に質問した。


「もしかして知り合いなの!?」

「えぇとぉー……」


知り合いなのだろう、嘘が苦手な彼女の顔には知り合いですと書いてある。


「元カレ!?元ダンとか!?」


元彼か元配偶者か。ほんのり失礼な質問にフィアナが割って入ろうとするとリリーは、


「し、知り合いっ!でもまだ三回くらいしか会った事無くて!!」


と声を張り上げた。

フィアナは思わず女生徒と顔を見合わせる。


「……こんな所で会うなんて♪これからもよろしくなっ!ガンッてこと?」


女生徒は言いながら片足で蹴る真似をした。


「ぜんぜん分からない……」


眉尻を下げて答えるリリーは困惑顔だ。


「昔バリバリやっちゃった因縁の相手とか?」


笑いながら冗談のつもりで言う女生徒にそれはあるかも、と密かにフィアナは思う。

愛らしい美少女然としたリリーだが中々に性格が豪胆で、男相手に一歩も引かないのだ。

得意の雷魔法でバリバリやっていてもおかしくはない。


「そ、それは――……」


リリーが口を開きかけたタイミングで轟音が響き、隣の教室が吹っ飛んだ。

んああ!?とリリーは絶叫して椅子から立ち上がる。


「ヴィントとは!仲が!!よろしくない!!」


あああ、と皆それぞれ感嘆の声を上げてヴィントのクラスの方に目線を移した。











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