Prologue 天使の憂い
終戦後は独特の高揚感に満ち溢れていて、誰もがその異様な雰囲気に気がつきつつも背を向けていた。
突如産まれた魔王という存在は数多の惑星をひと呑みに文明を消し去り、勇者に屠られるまで暴虐の限りを尽くした。
戦の夜明けが来ると人々は皆歓喜し……復興に勤しんだ。
事件はそんな最中に起きた。
とある巡回サーカスの目玉として展示されていた美しい女性の彫像がどうやら本物の遺体であるらしい、と。
長い髪をたなびかせ、整った顔は微笑を讃えながら大きな鳥のような純白の翼を背に持つその彫像は、もし遺体であるのならば展示などされず然るべき方法で埋葬されるべきだと。
背に翼を持つ一族──有翼種は主張し、
終戦の象徴として飾られた女性の像を頑として譲らぬサーカスの者達との間で裁判にかけられることとなった。
公判中、女性の身元は意外な者として判明する。
女性は有翼種ではなく人間で──背中に大きな魔物の翼をつけられた紛い物の遺体であった。
人々は口々に、人間の遺体を飾るなど醜悪だ、と言い募り、世間の主張に押しつぶされるようにサーカスの者たちは女性の遺体を民族の元へ返し、女性は丁重に葬られた。
この一件で有翼種と人間の間には明確な軋轢が生じ……
有翼種の主張はすぐに通らないにもかかわらず、人間の主張はあっさりと通ってしまう。
有翼種は失望し、以降領地に息を潜めるようになり人間との交流は断絶した。