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ホワイトエレゲイア  作者: 奥村 葵
第一章 異世界からの来訪者
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第8話 異世界へ行……行けるの!?

 お手本のような火傷をしたエアリーだったが、その後も二個、三個と食べ進め、気がつけば無くなっていた。

 器が空になる度に新しく焼き、盛り付け、一緒に食べる。そんなことをしばらく繰り返し、生地がなくなる頃には二人とも満腹になっていた。


「ふう、ご馳走さまでした」

「おおきに、ご馳走さまでした」


 結局タコは余った為、それを竹串を使って一つずつ食べていく。独特な食感が堪らない。醤油があってもいいなこれ……。


「いやぁほんまに美味かった。これめっちゃ好きや、最後の晩餐はこれがええわ……」

「そんなに美味かったのか、また店のたこ焼きでも買おうか」

「あー……。うん、せやなぁ」


 うーん、最後の晩餐に選ぶ割には、ちょっとテンション低いな。いや、余韻に浸っているだけか。

 

「それもそうやけど、こんな温かいご飯も久しぶりやったし……。満足感がちゃうわ」

「え?加熱調理した草とか食べてたんだろ」

「まあな、でも一人やと寂しいもんやで。食事ってコミュニケーションの一つでもあると思うんよ。人と食べることがどんだけ幸せな事か……」

「ああ、なるほど」

「私今、めっちゃ幸せやもん。ほんま――いや、本当、ありがとう」


 その時に見せた笑顔は、とても言葉一つでは言い表せられないほどに美しく、綺麗だった。

 そっと目を細め、口角も少しだけ上がり、頬も薄い朱に染まったようにさえ見えた。


「と、とりあえず口拭いたら?」


 見かねてティッシュを一枚渡し、それで拭くように促した。

 というのも、口元に青海苔が付いていたからだ。

 ただ、単なる優しさとは別に、こうして誤魔化しでもしなければ、自分の気が保てないという理由もあった。それ程エアリーの笑顔には破壊力があった。

 その辺の自覚は恐らくないのだろう。冗談混じりのように超絶美少女とか言っているが、それは実際その通りだと思っている。こいつを笑顔にするには、多少の覚悟が必要かもしれない。


「なんかお礼したいなぁこれ……。せや、私の世界来てみる?」

「そうだな、俺暇だし……。ん?え?」


 私の世界って……。異世界?


「えっと、ん?帰れるの?」

「帰れんで」

「……帰れるのに帰ってないの?」

「うん」

「いや帰れよ!なんで一年も高架下で寝てたの!?夜冷えるのに!」


 てっきり、向こうに帰れないからこっちで暮らしていたと思っていたのに、なんだよそれ!帰れるのかよ!


「こっちはこっちでおもろかったしな……。あと、新鮮やったから」

「新鮮?」

「うん、こっちに魔術がない事は来た瞬間にわかったんよ。こんな世界初めてやったからなぁ」

「来た瞬間にって、そんな簡単にわかるようなものなのか?」

「魔力の素になる素粒子みたいなやつがあってな?私の世界の人間は、みんなこれを体内に吸収できるっちゅうか……。ああ、勝手に取り込むんよ。それが無かったからすぐ分かってん。違和感凄かったでほんま」

「はぁー、魔力の素になる素粒子ねぇ……。()()()ってとこか?」

「ほぉー、そう翻訳したか。ええな、気に入ったわ」


 ……こんなノリで決めていいのかな。まあ、分かりやすいか。


「って、待って。魔粒子が無いなら魔術は使えないってこと?」

「当たり前やん」

「でもお前使ってたよな」

「体内に残留してる分使ったんよ」


 なるほど……。体が勝手に魔粒子を吸収するなら、溜まる分だけ溜めておいて使わなければいいってことか。なんかゲームとかでもそんな感じだもんな。


「さて、じゃあやってええか?」

「何を?」

「私らの世界来ても、言葉分からんかったらしんどいやろ。私がやったのと同じ要領で、あんたも言葉分かるようにしたろー思ってな」

「あー、なるほど。助かるよ、お願い」

「ほなええな。やるで」

「痛くない?」

「痛くない」

「じゃあ……。お願いします」


 そう言うとエアリーは軽く返事をして、自分の頭に手をかざした。

 その時、目の前が何か輝いて見えた。キラキラとした粉のようなものが、煌めきながらゆっくりと舞っていて、少しずつ下へ下へと落ちていく。スノードームでも見ているような気分だった。


「……ふう、とりあえずできたわ」

「え、もう?」

「うん、実感湧かんやろうけど」


 ……と言われるが、実際何が変わったのか全く分からない。

 言葉がわかるようになる魔術らしいから、 向こうに行かないとわからないものかもしれない。

 

「確かに何も変わった気がしないな……」

「せやろな。まあ死んでへんって事は上手い事できてるってことや」

「ほーん……。え?何その、死んでたかもって言い方」

「まあ脳みそ弄ってるようなもんやからな。ミスったら最悪死ぬでこれ」

「聞いてないけど!?」


 こいつその辺の了承無しでやったってことか?医者なら大問題だぞ!?

 

「だって聞かれへんかったし」

「えぇ……」

「まあまあ、成功したからええやん」

「いやまあ……。うん……。成功して良かった……」


 最悪死んでいたなんて、ちょっと考えたくないな……。


「さて、下準備はできた。ほな行こか」


 そう言ってエアリーは、ぐぅーっと腕と背を目一杯伸ばし、壁に立てかけてあった杖を手に持った。

 その姿は魔法使い、白魔術師の正しい姿とも言えるものだった。

 最初に会った時は胡座で猫背のまま座ってたから、今になってこいつが魔法使いなんだと再認識できた。

 

「一応聞くけどさ、ここから先は命の危険とか無いよな?」

「多分無いな」

「た、多分?」

「なんやこう、魔物……。モンスターって言えば通じるんかな。どっちでもええけど、そいつらに襲われんかったら大丈夫や」


 そういえば、そんな世界だったな……。


「まあ私おるから大丈夫や。なんかあっても蘇生はしたるし、そうならんようにも努める」

「じゃあ……。うん、よろしくお願いします」

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