第40話 王国騎士団
ドアを蹴り開けて外へと勢いよく飛び出す。
すると目の前に、全身が虹色に輝いた人間が五……いや、六人固まって突っ立っていた。
彼らは輪郭しかわからない程、頭から足先にかけてグラデーションのかかった虹色に輝いており、しかもご丁寧に上から下へと色が移動している。
そしてこれがまた本当に目に悪い発色で、これならどこに隠れても一瞬でわかるだろう。
正直、ありえないほどに面白い。
「あ、アッヒャヒャヒャッ!めっちゃ光ってるやん!あ、アッハハ、ヒャハハハゴホッ、ゲホッ、は、は、腹痛い腹痛いあひゃひゃひゃ……!ヒーッ!」
「エ、エアリー!お前これッ、アッハハハハ!なな、なん、フハハ……!」
抱腹絶倒とはこの事を指した言葉なのだろう。目の前にいるのは明らかに不審者だが、あまりにも滑稽すぎる。何の目的で外に出たのかさえ忘れてしまう程だ。
「わ、罠は無いって話だっただろ!」
「詠唱は確かになかったんです!こ、痕跡だって無くて……!」
「私の魔術嘗めるからそんな光んねん!フッ、アハハハ……!」
エアリーは変わらず笑い続けている。目の前の不審者は身動き一つ取れないようで、腰を低くしたまま虹色に輝き続けている。
「はぁ、あのな?分かりやすい痕跡あったら罠ちゃうやん。そんなヘマするわけないやろ?自分ら、もっと勉強し。フハ、ヒヒヒッ……!」
あれ?確かエアリーは、使用した魔術には痕跡が残るとか言っていたはずだが……。
「馬鹿な、痕跡を残さない魔術だと!?そんな事がある訳――」
「痕跡はあるで。自分らが探知できんほど微弱にしとるし、なんなら性質もちゃうからな」
うーむ、何の話か全くわからない。とにかく、普通の調べ方だと足がつかない魔術だったってことか?
「ッ……嘗めるな!」
そう叫んだのは、きっとリーダー格の男だ。輪郭しか捉えられない為、具体的に何を持っているのかは分からないが、棒状のようなもの――恐らく剣の類だが、それを振り回し、その先端をこちらに向けた。
「我々にも意地がある。エアリー・アルパール、ここで始末させてもらう!」
……え?始末って言った?何、え?殺す気?俺もいるんだけど。まさかとは思うが……!
「バーニングブラスト!」
リーダー格の男がそう叫ぶと同時に、激しい閃光が剣の先から放たれた。
「嘘やろッ!」
エアリーは反射的に、持っていた杖を音が鳴るほど勢いよく横に一振りした。その直後、目の前の不審者よりも奥の方で大爆発が起きた。
何が起きたのか、俺にもよく分からない。ものの一、二秒だが、情報が多過ぎる。
激しい閃光、エアリーの杖、大爆発……。まるで分からない。
「“バーニングブラスト”っちゅうたな……。相手を高威力の火で貫き、体内に活性化状態の魔粒子を残留させる。そしてそれを爆破魔術へと変換し、内側から爆発させると……。ほんまに殺す気やん、それも私だけやのうて、夏月諸共か」
普段の軽い言葉じゃない。訛りも少し修正されているような気がするし、何より声が少し低い。
エアリー本人は至って冷静で、相手が使用してきた魔術を丁寧に分析していた。
というか、俺も殺されかけたってことか?冗談じゃない。一体、何の理由で。
「ッ……。何をした、何をされた、何が起きた!」
不審者一行は、何が起きたのか一切理解できていないらしい。
だが、それは俺も同じ。とにかく今は状況を把握したい。目の前の事情もそう、俺の今の立場も何もかも、把握していないことが多過ぎる。
「しっかし、私だけならともかく、夏月にも手を出そうとするとはな……。ほんまは悪戯程度で許したろ思っとったけど、もうそういう訳にはいかんわ」
そう言ってエアリーは再び杖を振った。すると、目の前の不審者六人の体が発光をやめ、本来の姿を取り戻した。
一見して山賊の類ではないと分かる程に整えられた装備。金がかかっているであろう鎧、甲冑、そして白銀の剣と杖……。どれをとっても一流だと分かるほどの輝きがある。
そんな装備を纏った人物が六人いる。顔まではよく認識できない。
だが、こいつら一体何者なんだ……?
「……王国騎士団やと?」
「王国騎士団!?なんでこんなとこに……?」
「わからへんけど、まあ、穏やかやないな」
目の前の六人は、王国騎士団らしい。元々城に勤めていたエアリーが言っているんだ、見間違えることはないだろう。
「ああ、勘違いすんなよ。自分ら全員、こっから無事には帰さんからな」
本来平和主義である筈のエアリーの口から、こんな言葉が出てくるとは思ってもいなかった。それと同時に、言葉からその内容相応の圧を感じた。
よく見ると、いつもは飄々としているような表情が、今は違う。
冷めたようで、それでいて鋭い目。ほんの少しだけ開いている口元、その口角は下がり気味。誰がどう見たって、不機嫌を通り越した怒りの表情だとわかる。
「た、隊長……」
「なんだ!こんな時に――」
「包囲魔術――その類が今、張られ、ました……」
側から見ていた俺も、その発言には驚かされた。
“無事には帰さない”というエアリーの言葉に、嘘偽りはないらしい。
「よう分かったな。なら、球状やってことも分かるな?」
包囲魔術というものが球状であること以外、どういったものなのか知る由もないが、エアリーの魔術なのだから、きっと生半可な実力なら、ここから外に出ることは決して叶わないだろう。
「……エアリーエアリー、さっきの爆発、何?」
この声は、クラリスか。爆発音で起こしてしまったらしい。目をこすりながらこちらへと歩いていた。
寝る時は飛竜態だったが、人間態の方が行動がしやすいということだろうか。まあ、そこは今はいいのだが……。
「ああ、クラリスか。大丈夫や、大したもんちゃうよ」
「ふーん……。じゃあ、あの人間擬きは?」
「まあ、敵やな。私と夏月に用事あるらし――ん?人間擬き?」
それには俺も驚いた。あの不審者六人、人じゃないっていうのか?
「人間の匂いじゃないよ、アレ。多分――あ、違う。なにか混ざってるんだ」
混ざってる?純粋な人では無いって事なのか?
「何かわかるか」
「ゴブリンとかオークでもたまに、この匂いがする奴はいたけど、みんな寄生されてたね」