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サイコパスのイメージ

全国のボッチに栄えあれ


 「彼氏さんってどんな人?」

 杏子が作った絶品中華を前に母親は探りを入れてくる。淡い希望でありながら忘れてくれていることを願っていた。そんな願いが叶うはずもなく私は返答に詰まっていた。何せ、連絡先を交換しただけで大したコミュニケーションをとったことがなかったのだ。


 透君を好きになった理由は単純なものだった。そう、一目惚れだ。そのためどこが好きとか、どこがカッコいいというのはなかった。ただ本能的にカッコいいと思ったのだ。


「クールな感じ」や、「知的に見える」と言ったものは理性の後付け。だから、本心にはなりえない。本心を自分からみた感情だ。


「賢そうな人だよ、クールだし」

「んんっ、いいわねカッコいいわ」

 上機嫌な母と違い、父は帰って来た時から項垂れたまま一言も発しない。ただぶつぶつと呪文のような単語を呟いている。


「さすがに怖いんだけど」

 父は杏子の作った料理をさもまずそうに食べていた。本来父は中華料理が大好きなので不味そうに食べることはほとんどない。不味そうな顔をしたのは私が初めて作ったカレーを食べたときくらいだ。


「ユカに彼氏、まだ15だぞ。つい最近まで義務教育を受けていただろ。確かにユカは美人で天才で男どもに好かれるだろう。しかし、まだ15だ。まだ、15なんだよぉ……」


 父は目尻に涙を浮かべながら悲痛な呟きをこぼした。反抗期を終えた私は父に哀れみの感情を抱いた。と、同時に娘に彼氏ができたくらいでそれほど悲しまなくてもという気持ちもある。別に消えてなくなるわけではないのだ。


「今までとなにも変わらないよ、顔上げて。ね?」

 

 ここで優等生スマイル、父はこの笑顔が気に入っているらしく一気に頬が緩んでいた。彼はハンカチで涙を拭っている。ちなみにハンカチは杏子がそっと渡した物。


「そういえば初めて彼氏できたの13歳だったっけ。私、あのときから変わったのよねぇ。『お父さん大好き』から『別に普通』になってたわ。面白いわよね、あなた」


 うん、救いようのない馬鹿だ。もうお父さんオーバーキルされてる。

 骨もねぇよ燃えカスだ、燃えカス。

 

 私のように椅子から滑り落ちそうになった父を栄子が抱える。顔を見れば明後日の方向を向いていて焦点が合っていない。全身から力が抜けていてK.Oされたボクサーそのものだ。


「大丈夫? 食べすぎじゃない?」


 母は少しも減っていない父のホイコーローを見て言った。この女正気じゃない。私の父を殺すな!


「お母さん、味わって食べない?」


 ひねり出した答えは歪そのものだった。「言い過ぎ」とか「お父さん可哀そう」とかの言葉は母には効かない。むしろ追加攻撃が飛んでくる。

「味わって食べない?」は切り札であり父を救う唯一の道である。


「それもそうね、ごめんなさいあなた」

  父は意識を取り戻すまでに5分ほどかかったが、何とか正常に生きている。

 

  ひたすら食事を掻き込んでワインを呷っていたなんて見てない、見てない。

 

 部屋に戻って思い出したことがある。計画の一部だ。


 万が一告白が成功した際には、それをクラスメイトにバラしてはいけないというものだ。

 

 あくまで勘になるが、榊本透は私が把握している人数よりも多くのファンを持つ。もし、カップルになったと知られれば嫉妬の嵐で学校での立ち位置が崩れる。せっかく作り上げたものを嫉妬ごときで失いたくない。


 私はそんな優等生離れした計画を練っていたのだ。

 善は急げで早速メッセージを送る。内容は以下の通り

『一つお願いがあって。付き合っていることは他の方には内緒にしてもらえない?』

 

 透君と駆け引きはできないと身に染みて分かったため直球で挑んでみる。

 返事は彼らしいと言えば彼らしいシンプルな返事だった。

『内緒か、了解』


 「よかった」

 

 私は胸を撫で下ろした。なぜと聞かれたら何と答えればいいか思いつかなかったのだ。

 もしかして気を遣ってくれたのか? きっとそうだ、普通なら「なんで?」と聞くところをあえて聞かなかったのだ。


 理由は私の他の見方が直球だったからだろう。きっと聞かないことを私が望んでいると分かったんだ。


「たまらん!」


 私は熊のぬいぐるみを潰れてしまうほど強い力で抱きしめた。閑静な住宅街に2度目の叫びが響き渡るのであった。

 

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