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サイコパスの驚愕

椅子に緩く腰掛けてゆる~くお楽しみ下さい

私が透君を見ると彼は天を仰いでいるのか静かに一点を見つめていた。何とも爽やかな姿だろう。

 緊張で小刻みに拳が震える。頭も真っ白になってしまいそうだ。

 私は固まる自分に鞭を打って透君の目の前まで歩く。計画は全て頭から抜け落ちていて思い出そうにもうまくいかない。


 ユカ、落ち着くのよ。今考えることは告白、ただそれだけ。玉砕覚悟で突っ込むの。


「榊本君」

 私が姿勢を正したからか、透君も椅子から立って姿勢を正した。私の様子に通常とは違う何かを感じ取ったのか真剣な面持ちだ。緊張させているなら少し申し訳ない。

 

 透君は目で続きを促してくる。私は一呼吸おいて切り出した。

「私と付き合ってみませんか?」

 私は心のシェルターに閉じこもる。分かっていたとしても、爆弾並みの衝撃が私に降りかかるのは変わらないだろう。

 

 目をぎゅっと瞑って拳に再度力をこめる。

 心臓がドキドキとうるさい。

 死刑台に立つような気分だ。今だけはマリーアントワネットに共感できる。

 

 三十秒程たったが返事は帰ってこない。今気づいてしまった。

 透君が動揺して返事ができない可能性もあったのだ。迂闊だった。

 しっかり計画を練ったはずなのに。

 ど、どうしよう。何が正解なんだ?


 ばれるの覚悟で細目を開けると目をかっと見開いた透君がいた。口も半開きになっていてポカンとしていると言った方がいいのだろうか。

 

 恋愛のクソ女神は私をあざ笑っているに違いない。天界から高みの見物ということか。

 やっぱり神社でもっと賽銭しとけばよかった。

 いや、そんな性格の悪い女神なんかに負けてたまるか。

 自分の人生は自分で決める。妥協も運任せもあり得ない。理想のためにすべてを賭けてやる。


 「だめ、かな」

 優等生スマイル&媚び媚び上目遣いで制圧を試みる。透君は何とか平静を保とうと表情だけはいつものものに戻っている。私は腹をくくって透君をしっかりと見つめた。


 心情が読めない、目は微笑んでいるようにも値踏みしているようにも見える。口元も微笑みか他の感情を宿しているようだ。

 人の表情を読み取るのは得意なのだが彼には通じない。まあ、それも惹かれた要因なんだけど。


 玉砕覚悟の告白から三分くらい経過した。沈黙は空襲のように私の心へ容赦ない攻撃を仕掛けてくる。

 やっぱり、運命には勝てないのかユカ、いや耐えるんだ。今日は耐えれば勝ちだ。

 さあ、一思いにやってくれ。透、一思いに。


「わかった、僕なんかで良ければ」

「やっぱりそうだよね……」

 私から切り出そうかと思ったが彼は一思いに斬ってくれた。さて、どうやって引くんだったっけ。告白の緊張で引き際を忘れてしまった。もはや計画を立てた意味がない。

 私は爆速で頭を回転させる。まず何を言われたのか、そこから整理していく必要があるだろう。彼は私にこう言った。

 『わかった、僕なんかで良ければ』

 さあ、この言葉を検証しよう。

 『わかった』は許可や承認の時に使われる言葉だ。ここで透君は私の「付き合ってみませんか?」という問いに対して承認している。

 『僕なんかで良ければ』これは謙遜を意味している。性格の良さが溢れ出していると言えるだろう。


 ふむ、ふむ?

 もしや告白、受理されちゃった系か? いやあり得ない。脈無しを体現したような沈黙が続いたし、彼は私の『優等生スマイル&媚び媚び上目遣い』にも動じなかったのだ。

 なら、聞き間違いか。妄想って怖ぇ。


「ん?」

 透君はキョトンと首を傾げている。

 あ~、これ受理されてますね~。

 

 シェルターに隠れたはずの心が引っ張り出されてビンタされている気分だ。顔が火照っているのが自分でもわかった。目も見開いていた。とりあえず、何か言わないと。

  

「い、いや。ありがとう?」


 意図せず疑問形になってしもうた。どうしよ、どうしよ。


「連絡先、交換する?」

 彼は私と違って、動揺は微塵もない。恐ろしいほど切り替えのできる人間だ。かっこいい。


 私は自分を殴りたくなった。自分から告白しておいて、透君にすべて丸投げしてしまった。どうしよ、どうしよ。ま、とりあえずスマホ出しとこっと。


「うん、お願い」

「わかった」

 彼は淡々と目の前の作業をこなしていく。私はその様子をボーっと眺めていた。

 やっぱりカッコいい。

 『虎穴に入らずんば虎子を得ず』という諺がある。まさにその通りになった。成功の喜びが全身を駆け巡る。 

「できたよ、どうした?」

 たまらん、たまらん。透君と私の連絡先が交換された!? 信じられない、夢みたいだ。

「ううん、ありがと。また明日会おうね。透君」

 

 もうどうしたらいいかわからない、逃げるしかないのだ。でも、ただ逃げるだけなのは負けた感じがするし。とりあえず、『名前呼び』という爆弾だけ残して帰ろう。


 悪いことをしたな、透。許せ。


 健闘を称えるかのような夕日が私に影というカーペットを引いてくれる。私は女王様にでもなったつもりで影を踏みつけながら優雅に家路につく。


 計画大成功だ、うん。

 

ポイントをくださった方本当にありがとうございます。毎日投稿できそうです。


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