推しはサイコパス
お菓子片手にごゆるりとお楽しみください
推しはサイコパス
学生なら一度は思ったことがあるだろう。白馬の王子様(お姫様でもいいが)が目の前に現れて求婚してくれることを。
ただ私は違う。
私は凸るタイプだ。待っているなんて考えられない。
攻撃あるのみ! 攻撃は最大の防御!
私はこんな性格のせいか高校一年生現在、彼氏いない歴=年齢という仕打ちを受けている。マジ勘弁だ。
そんな私は高校デビューに挑戦し、見事成功を収めた。それもクラスの優等生キャラを獲得したのだ。
成績は学年一位、容姿にも気を遣うようにした。友人のコスメ大好き人間に「化粧の何たるか」の教鞭を執ってもらったのは記憶に新しい。
そう、高校デビューは成功したはずだった。友人の数だって中学までとは比べ物にならない。
男子と遊びに行く時間も増やした。
でも、何かおかしい……。おかしい!
なんで彼氏の一人もできないんだよ。クソ!
完璧だろ? 勉強できて、ファッションセンスあって、見た目もいい。性格だって猫被ってるからいい人として認識されるはず。運動? もちろんできるに決まってる。これ以上何をがんばれって言うんだ。
この醜い感情をオブラートに五回ぐらい包んでコスメの教師――りり子に聞いてみた。
「ユカはさ、なんか完璧人間っていうか高嶺の花すぎて男子も近づけないんじゃない?」
はぁーー? 頑張らなかったら「不潔ー」とか言われるのに、ちょっとがんばったら「完璧人間」「高嶺の花」。
ふざけんな!
という愚痴はほどほどにして。今私には推しというか、好きぴがいる。榊本透君だ、彼こそ超人だと思う。順位は一桁でそれほどだが、性格が良すぎる。というか、気遣いが完璧すぎる。後、会話のキャッチボールが上手すぎて話していて楽しい。
わかりやすく言うと、緩いアンダーパスを投げてくれる感じだ。
背も高い。私が160cmの壁で奮闘しているところを170cmはいってしまっているのだ。男というのは恐ろしい。
すらっとした顔立ちが知的な印象を与える。着ているブレザーはきっちり着られていて、清潔感があった。
実際クラスの中でも彼を狙っている女子が何人もいる。女子は男子と違うのか、高嶺の花みたいな感覚を持っていない。悪い言い方をすればワンチャンあると思っているようだ。
ま、私が頂くからその望みは儚く散るんだけども。というか、ほかの人間に取られる未来が見えない。計画では一か月後の今日、私は彼の隣を歩いていることだろう。
私の計画は完璧なのだ。誤算などあるはずがない。
作戦の実行日は今日だ。馬鹿な教師たちが授業を終えた放課後。既に約束は取り付けてある。
「榊本君、話したいことがあるから放課後いいかな」
「うん、わかった」
優等生スマイルと、いつもの口調で周囲に気づかれることなく約束を取り付けたのだ。他の生徒はクラス運営についてだろうと思っているはず。何せ私は優等生の代名詞、学級委員長を拝命している。
もちろんこれも計画の一つだ。委員長の仕事なら男子といても怪しまれない。
誰もいなくなった放課後の教室。THE青春といった夕日が私の行動を後押ししてくれる。二人だけになった教室はしんと静まり返っていた。実を言うと今日は負ける戦いなのだ。告白をすることで、相手から異性として見てもらおうという魂胆がある。
だからこの戦いで重要なのはいかに、精神を守り切れるかということだった。告白を断られる衝撃は身に染みている。玉砕の痛みが蘇ってきた。
私は拳を男勝りの握力で握る。そして勢いよく立ち上がった。椅子がガチャンと音を立てる。拳は震えていた。これが武者震いってやつか、いいだろう戦ってやる。
試合に負けても勝負には勝つ。
それが桐生由香なのだ!
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