表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生の夢  作者: ぱーぴん
2/2

初めての夢

 夢というのは、寝ている間に見る曖昧で幻想的な記憶や欲望が見せる、不確かな映像に過ぎない。

 そう思っていた。

 「マリアって言ったな、どんな夢でもいいんだな?」

 「えぇ、どんな欲望にまみれた夢でも見せることが出来るわよ」

 「じゃあ、例えばマリアとどこかに出かける夢とかでもいいのか?」

 俺はきっと鼻の下を伸ばしながら聞いてしまっただろう。

 多分キモかったはずだ、いや絶対キモい、、。

 「えぇ、、まぁ出来るけど、、。」

 マリアは引きつった顔で答えてくれた。

 でも一度冷静になって考えてみよう。

 もしこれから、またあのビールを飲んだときに出てくる天使がマリアだけだったとしたら、ここで関係を悪くしてしまうと、合わせる顔がなくなってしまう。

 俺は一度咳払いをした。

 「最初は軽めな夢でも見せてもらおうかな」

 自分で言って疑問に思った。

 軽めな夢とはなんだ。

 よくある異世界転生モノじゃないんだ、明日も仕事がある。

 見て目覚めがいい夢か、ハッピーになれる夢がいいだろう。

 あれこれ考えているとマリアが痺れを切らしたように言ってきた。

 「もお長いからこっちで勝手に決めちゃうね」

 「あぁちょ、まっ、、」

 白い光に包まれていく。

 「じゃ、楽しんでおいで〜」

 マリアが手を振って見送ってくれる。

 一体どんな夢にしたんだろう、酷い夢だったらあの天使の羽をもいでやろう。

 そんなことを思いながら視界がホワイトアウトした。





 目を開けると自宅のソファの上に寝転んでいた。

 「俺んち?」

 ここが本当に夢の中なのか、それとも普通に目を覚ましてしまって現実世界に戻ってきてしまったのか。

 夢だったら現実味がありすぎて不気味だ。

 分からなすぎる、一度落ち着くために飲み物でも飲もうと思って冷蔵庫に向かおうとした。

 すると突然インターホンが鳴った。

 ビクッと体が反応してしまった。

 「びっくりしたぁ、誰だよもう」

 インターホンのモニターを見てみると、そこには三年半前に別れた彼女、中川あゆが立っていた。

 そこで確信した、ここは夢の中なのだと。

 恐る恐る通話ボタンを押した。

 「はい、、」

 「海都!久しぶり!急に会いたくなっちゃって来ちゃった、開けてもらえる?」

 声を聞くとあゆ本人だ、だがしかしなぜ家の住所を知っている?

 別れてから連絡先も消していたはずだし、共通の友人もいないから知るはずがない。

 疑問が次々と浮かんだが、ここは夢の中だ。

 ご都合主義的な力なのだろう。

 「今開ける」

 高鳴る心臓を抑えつつ、あくまで平静を装いながらドアを開けた。

 「久しぶり〜、元気してた?あ、もしかして寝てた?」

 あゆがテンション高めにグイグイ中に入ってきた。

 「あぁ少し寝ちゃってた、どうしたんだよ急に」

 「いやぁ、最近嫌なことが続いててさぁ、全肯定してくれる海都のところに戻りたくなっちゃって」

 少し暗い顔になったあゆを見て、付き合っていた時の楽しかった思い出が蘇ってきた。

 別れたとはいえ、一度好きになった相手だ。

 話くらい聞いて、相手が求める言葉を言ってあげよう。

 なんせここは夢の中なんだ、きっと良いような終わり方になるだろう。

 あゆをリビングに通しお茶を出した。

 我が物顔でソファを占領し、くつろいでいる。

 何だこいつと思ったが夢だと思うとまあいいかとなった。

 「で、どんな嫌なことがあったんだ?」

 俺が聞くとあゆは少し落ち込んだ表情で話し始めた。

 「んとね、両親が離婚したの、私は母親の方に着いていったんだけどお姉ちゃんはお父さんに取られちゃって、今お母さんがお姉ちゃんの親権をこっちに渡せって怒ってて、、」

 おいおいおい、夢にしては内容がヘビー過ぎるだろ。

 「しまいには今私が付き合ってる男が浮気してたの!」

 もうどちらが本命の話か分からないほど、最近起こった嫌だったことの愚痴を話し始めた。

 付き合ってたときからそうだったのだが、一度愚痴を話し始めると止まらなくなる癖があった。

 その愚痴の中には絶対今思いついただろという内容もあった。

 俺が出したお茶がぬるいだの、この部屋は暑いだの、俺の匂いがして嫌だだの、、。

 あらかた話し終えてふうと息を吐いたタイミングで俺はフォローに入った。

 「やなことばっかで辛かったよな、よく頑張ったやん、あんま力になれることはないけどゆっくりしていけよ」

 絶対にかける言葉はこれじゃないと分かっているのだが、俺にはこれが精一杯だった。

 そこで唐突にあゆがとんでもないことを言い出した。

 「お金の余裕は心の余裕って言うよね、私今お金に余裕がないから心も狭くなっちゃってるんだと思うの」

 「ん、お、おう、まぁそういう人もいるよな」

 「そうだ私お金があれば幸せになれるんだ」

 あゆが何か覚悟を決めた顔つきになり、空気が張り詰めていくのが分かった。

 お金貸してとでも言ってくるのだろうか。

 確かに俺は社会人四年目として毎月給料が安定して入ってくるのだが、俺が働いてる工場はいわゆるブラック企業。

 安定して給料が低いのだ。

 お金を貸してあげられる余裕など無い。

 「貸してあげられる余裕は俺にはないよ?」

 「うん、借りに来たんじゃない、貰うの」

 貰う?俺に?余裕ないって言ったばかりなんだけど?

 頭の中で疑問符がいくつも出てくた。

 「ねぇ、知ってる?人間の全身の値段って三十一億円なんだって」

 「え、あ、あぁそうなんだ、、」

 急に怖いことを言い出したと思い、引きつった顔になってしまった。

 ちらりとあゆの方を見ると、手にはハンマーが握られていた。

 背筋が凍った。

 緊張と怖さで動けない。

 「内臓は高いから傷つけないようにしないと」

 俺は悟ってしまった、今から殺される。

 あゆはゆっくりとソファから立ち上がり、俺のもとに来た。

 「顔は潰れても大丈夫だよね」

 にっこりと不気味な笑みを見せるあゆを俺は呆然と眺めることしか出来なかった。

 ハンマーが掲げられ、振り下ろされる。

 俺の顔面めがけて。

 二、三発殴られたところで俺の意識はなくなった。








そんな夢の中を覗き込みながらマリアはニンマリと笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ