白と黒のない世界
彼女とは校門の前で出会った。
春。高校の入学式を終えた、帰り道のことである。
校門では、第三十二回私立北見ヶ丘高等学校入学式と書かれた立看板と共に、記念写真を撮る生徒がちらほら。
その隅の方で、彼女はイヤホンを耳にさして音楽を聴いていた(聴いていたのが音楽かどうかは分からない。僕が勝手に思ってるだけ)。
入学式直後だと言うのに彼女の姿は、入学式から想像される制服姿とはかけ離れたもので、ブラウスとブレザーの間には白いパーカーが挟まれていた。
かろうじてブレザーの胸ポケットには、新入生だと分かる赤いリボンが取り付けられていたものの、それが無ければ完全に上級生のギャルといった風貌である。
ギャルと言っても、髪は染めていないし、ピアス穴もない。
化粧もおそらくしていない。
いや、少しはしてるのかも、や、分からないけれど、していてもそれくらい自然な範囲内だ。
絵に描いたようなギャルではないけれど、優等生とも言えない見た目をしている。
もちろん僕は何事もなく彼女の前を通り過ぎた。
声をかける理由もないし、友達作りは焦るものでもない。ましてや異性ともなれば尚更。
意識なんてしていなかった。
でもそれは嘘だったかもしれない。
意識しないようにしている時点で、それはもう意識しているという話。
「あ、遅かったね」
彼女の声がする方へ、とっさに振り返ってしまった。
明らかに、僕に向けた声の響き方だった。
どこかで会った?僕を待ってたの?
どのように反応したものかと戸惑いながら、何かを口に出しかけたその時。
僕の進行方向から別の声が聞こえた。
今度は同性の。
「もう終わったの?早いね」
男は彼女に近づくと、二人は親しげに話だした。
彼女は僕に話しかけた訳ではなく、たまたま僕がいる方向に向かって、声をかけただけだった。
正直恥ずかしすぎた。
彼女と目が合う。
羞恥心がさらに高まり、僕そそくさとその場を後にした。
そうだった。
過去幾度となく経験してきたはずなのに、簡単に忘れてしまっては簡単に思い出す。新学期の高揚感。
浮き足立って、高ぶって、いずれ何かで失敗するのだ。
子供と大人の明確な違いなんて分からないけれど、こうして大人になっていくのだなと思った。
翌日から僕と彼女の、白と黒のない物語が始まったのだ。
彼との出会いは覚えていない。
私が彼の事を初めて認知したのは、高校の同じクラスとなって一番最初に行った自己紹介だった。
多分その時には、既にどこかで出会っていたのだと思う。
彼の後ろ姿に既視感を覚えて、黒板の前に立つ彼と目が合った。
彼は私を見て表情を変えた。
私が一方的に忘れているかもしれないと思うと、何だか気まづくなった。
名前はとても印象に残った。
私と同じで、誤解をされやすい名前だと思ったからだ。
だから、今までの私が彼の名前を忘れるはずは無いわけで。
つまり名前を知ったのは今が初めてだって事になると、私が気まづく感じるのは違うはずだ。
一方的というならば、私から彼ではなく、彼から私への認知とした方がよっぽど合点がいく。
断っておくと、私は有名人ではない。
高校生ながら、モデル業に興じるほど、華やかな人生を歩んできたつもりはない。
であればいつ、どこで、彼は私を知ったのだろうか。
それじゃあ何で、私は彼の立ち姿に既視感を覚えるのだろうか。
彼との縁を奇妙に思いながらも、私は決して高揚しない。
私と彼の関係について、白黒はっきりさせようとは思わない。