─第三章 流転─
誰かに見られている?
逃れる為に2人が取った行動とは
呪いの物語 全4話
つけられている?
元気を取り戻しかけた気持ちが、またもや一気に沈んでいく。おそらく、あのメッセージは私を指している。ターゲットは私だったのだ。
メッセージを見た直後、マサトは私の手を引き、映画館のある建物に入っていった。ここは映画館以外にも色んなお店がある複合施設で、大抵の用事はここだけで賄える。
洋服屋に入ると2人分の服を素早く買って、映画館に向けて歩く。
「マサト、どうするの?」
「映画館に入ろう」
「こんな時に映画?」
「今は黙ってついてきて」
それだけ言うと、見たかった映画ではなく一番開場時間が近い映画のチケットを2枚買い、開場と同時に入る。席に着き映画が始まった。
マサトは何を考えているのだろう?さっぱり解らない。
何分か経ち、物語が進展しだした辺りでマサトに手を引かれ席を立つ。劇場内の廊下に誰もいない事を確認したら口早に
「トイレに入って買った服に着替えてここを出る。私が先に行き数分後にマサト。お互い接触はせず、同じ電車に付かず離れず乗ってマサトの家まで行く」
といった事を説明された。
相手がストーカーであれば、おそらく引き離せるだろう。軽く頷きトイレに向かった。
朝は晴れていた空が徐々に曇りだし、今はいつ降りだしてもおかしくない黒雲が渦巻く空模様。
風が吹き始め空気が湿り気を帯びてきている。
電車はマサト家の最寄駅に到着した。
同じ車両だが離れて立つ2人は、その距離を維持したまま改札を抜け歩きだす。マサトのアパートはここから大通りを通って10分程の位置だ。
一方、大通りに向かわず線路脇の道を少し歩き、竹藪の中を抜けていく歩行者だけが通れる程度の細い未舗装の道に入り、少し登って降りるとマサトのアパートの裏手に出る。こちらの道を通ると5分程で着くが、薄暗くなんだか気持ちが悪いので普段は通らない。
今日は早く着きたいし、離れているとは言えマサトが一緒なので、こちらの道を選んだ。
線路脇の道を歩きながら何気なく後ろを見ると少し離れた後方をマサトがこちらに来るのが見えた。
間も無く竹藪の道に入るが、やはりあまり気乗りはしない。雨がポツポツと振り出し、余計に薄気味悪く感じる。
ここでマサトを待っておきたいのが本心だが、グッと我慢して一人で踏み込んだ。
竹藪に入ると影が強まり、昼間とは思えない暗さになる。竹が周囲の音を吸収するのか、周りの音が急激に遠退く。笹が擦れる独特の雨音が強まり、別世界に入った様に感じる。軽い坂を登り、間も無く頂上という辺りでなんとなく右手の竹藪に目をやる。
誰かが立ってこちらを見ていた。
思わず声を挙げそうになったが単に地元の人が竹藪にいただけかもしれない。声になる前に飲み込む。
暗くて影になっているので、男か女か、若いのか年寄りなのかも判らない…が、こちらをじっと見ている事は解った。
なるべくそちらを見ないようにして急ぎ足で進み、これから下りになるところで、信じられない言葉が聞こえてきた。
「ミサキちゃん、どこへ行くの?」
驚きのあまり目を剥いて人影を見る。
全身影だがどこか朧気で、その中に白い目とニィと開いた口から見える白い歯は分かった。
今度は声を挙げた。
転びそうになりながら坂を駆け降りる。
「ミサキちゃん」
後ろから声がするが振り返らない。
悲鳴を挙げひたすらに駆ける。
「ミサキちゃん」
背後に不穏な気配を感じて全身に鳥肌が走るが意に介していられない。
竹藪を抜けたところで段差に足を取られ大きく転げたが、それでも這って逃げようと踠いているところで、後ろから来たマサトに抱き起こされた。
「ユミ、大丈夫か?」
「アイツ…アイツが…」
「?」
「…!?見てないの?」
声がヒステリック気味にうわずる。
竹藪の方を見てみるが、先程の影は見当たらない。
「…雨も降ってきたし、ひとまず家に入ろう」
「………」
こけた時に強く膝をぶつけた様で立ち上がると痛みが走る。マサトの肩を借り、足を引き摺りながら家に入った。