─第二章 破邪─
昨夜は一睡も出来なかったユミだが、ふらふらの状態でマサトとの待ち合わせ場所に向かう
呪いの物語 全4話
朝10時の駅前。
なんとかここまで歩いてきた。疲れきってふらふらの状態で、マサトを見付け近寄るユミ。
「おはよう…ってか、どしたの?」
キョトンとした顔でこちらを見るマサト。
マサトと出会って少し安心したユミは、昨夜の出来事を一気に話した後、ため息をつきながら昨夜は一睡も出来なかったと言った。あのメッセージを送ってきたのはストーカー気質の変質者かもしれないし、人ならざる怪異かもしれない。物凄く怖かったが、電話が使えず両親やマサトら友達にも連絡が出来ない。何かが自分の所に迫って来る様な気がして、一晩中壁を背にして震えていたのだ。
「映画、やめとく?」
マサトが言う。
そんな悪いよ、と言い掛けたユミだが、マサトの好奇心に輝き満ちた目を見て黙る。
前々からそうなのだが、マサトはオカルト好きな一面がある。いや、一面どころかマニアと言って差し支えない。ホラーの映画や小説、漫画が大好きだし、UМAとかUFОだとかにも異常に詳しい。彼の部屋には、それらの本やディスクが山積みになっている。
ヤオイさんとミナミヤマさんのファンだそうだが、私にはさっぱり解らない話だ。
「…ひょっとして映画よりスマホのメッセージの方が気になる?」
聞くまでもなかった。今すぐにスマホを見せろと言わんばかりの表情でこちらを見ている。
確かに映画館で照明が落ちた瞬間に夢の世界に旅立ちかねない、この状態では喫茶店にでも行ってゆっくりと過ごす方が良いのかもしれない。
「じゃあ、そこの喫茶店に入ろうか」
静かに流れるジャズと珈琲の良い香り。
シンプルながら趣味の良いインテリアが、それほど広くないこの店を、居心地の良い空間に仕上げている。そんな喫茶店の奥まった一席。
「美味しい…」
運ばれてきた珈琲を一口飲んでユミが呟く。
普段はブラック派のユミだが、今日はミルクと砂糖を入れて飲む。なんとなく疲れた身体が欲しているように思えたからで、実際身体に染み入る様だった。
マサトはミルクだけを入れた珈琲に口もつけず、逸る気持ちを抑えながら、こちらが落ち着くのを待っている。
「昨晩から電源を入れてないの」
スマホを取り出して渡す。
すかさず手に取り、電源を入れるマサト。
しばらくしてスマホが立ち上がると同時に着信音が鳴り続ける。
「…新着メッセージが214件…
『ミサキちゃん、待っててね』
『ミサキちゃん、今から行くよ』
…こんなのばかりだな」
マサトが呟いてメッセージを確認している。
214件…そんなに続けざまにメッセージが来た事など一度もない。明らかに異常な件数だ。
「最終が昨晩の10時53分…」
マサトとの電話を切った10分後ぐらいだ。
「『ミサキちゃん、着いたよ』これが最後のメッセージ」
一気に背筋が凍り付く。
私が怯えていたあの時、ソイツは家まで来ていたのだろうか…。
おもむろに自分のスマホを取り出し電話を掛け出すマサト。切っては掛けを何度か繰り返した後、スマホを置く。
「使われていない番号だ」
「え?どういう事?」
「今、試しに相手の番号に電話を掛けてみたけど、現在使われていない番号だった」
「そんな事って…」
「普通あり得ないな…ひょっとしたら僕達の知らない電話の使い方があるのかもしれない…けど、ちょっと考えられない事態だ…」
しばし沈黙する二人。
マサトは黙って何やら考え込んでいるが、どことなく楽し気でもある。
「…けど私、ミサキちゃんじゃないのに…」
「うん、そうだね。今のところミサキって子と間違えられてメッセージが送られているだけだよね。昨日、眠らずにいて誰も来なかったんだろ?じゃあ、コイツはユミの事を狙ってる訳じゃないんじゃないかな」
「…そうかな?」
「そうだと思うよ。変質者の単なる番号間違いと考えるのが健全じゃないかな。なんなら後で警察に行こうよ」
オカルト好きな癖にオカルト的な結論を避けているのは、怯えている私に気を使ってか?等と邪推してしまうが、ここは素直に受け取っておく事にする。
「うん、そうしよう。ありがとう」
幾分か気持ちが軽くなり、ミルクと砂糖入り珈琲の効果もあったのか元気が出てきた。
自然と笑みがこぼれる。
そうなるとなんだかお腹が減ってきた。
「どこかご飯食べに行こう」
言った瞬間、着信音が鳴る。
スマホを見ると、あの番号からのメッセージ。
『ミサキちゃん、その男、誰?』