─第一章 因果─
軽い着信音でスマホに目をやる。
マサトからの返事だろう。
楽しみにしていた明日の映画、待ち合わせ場所の確認だ。
「…あれ?」
期待していたマサトからの返事ではなく見知らぬ番号からのSMSだった。
どうせつまらない詐欺メッセージか何かだろう、と思いつつも一応目を通す。
『ミサキちゃん、久しぶり』
文面はこれだけ。
友達を装い久しぶりに連絡した様な口振りで返信を誘う、昔からよくある詐欺の手口だ。
私の名前はユミだし、ミサキという知り合いも思い付かない。
見知らぬメッセージには関わらない、と決めてテレビに目をやる。
5分程経った頃、再び着信音が鳴る。
『ミサキちゃん、届いてる?』
先程の番号からのメッセージだった。
「もう!何?気持ち悪いなぁ!無視無視」
無視してテレビに目を戻そうとしたところでまたもや着信が鳴る。
今度はマサトからの電話だった。
明日の映画の話や何やで、小一時間ほど一盛り上がりした。
「んじゃ明日、10時に駅でね。はーい、おやすみー」
電話を切った途端、着信音が響く。
電話中にSMSにメッセージが届いていた様だ。
「…何これ?メッセージ…34件?」
相手は先程の番号から。
『ミサキちゃん、どうしてるの?』
『ミサキちゃん、また会いたいな』
『ミサキちゃん、返事待ってるよ』
『ミサキちゃん』
『ミサキちゃん』
ひたすらミサキちゃんに対する一方的な呼び掛けが続く。全部のメッセージに目を通した訳ではないが、何件かをチラ見して気持ち悪さに鳥肌が立つ。
この短時間にこれだけ送ってこられたら、例え知り合いでも迷惑だ…と思っていた矢先にまたもや着信音。
『ミサキちゃん、家に行ってもいい?』
気持ち悪さとしつこさに堪り兼ねて思わず
『私はミサキちゃんではありません。人違いなので迷惑です。メッセージを送るのを止めてください。』
と殴る様に打ち込み、返信した。
…と着信音
『いたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいたいた』
「ひっ!!」
画面いっぱいに「いた」が表示され、思わずスマホを放り投げた。気味の悪さに心臓が強く脈打ち、嫌な汗が流れる。
「いた」って何?
「居た」ってこと?
私はミサキちゃんじゃないのに?
そう言えば返信する直前のメッセージは「家に行ってもいい?」だった…。
私ではないはず。
ミサキちゃんちのはず。
けど…。
着信音!
着信音!
続け様に着信音が鳴り続ける!
『いたいたいたいたいた!』
『ここにいた!!』
『ミサキちゃん!』
『見付けた!』
『見付けた!』
次々とメッセージが送られてくる。一体どんな速度で打ち込んでいるのか、次々にメッセージが送られてくる。
咄嗟にスマホの電源を切って布団の中に放り込む。電源を切った事で急に静かになったが、恐怖は拭えず、独り部屋の隅で震えていた。