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9.小さな青春

 制服に袖を通して朝食を済ませると僕は玄関の前に立った。


 昨日は外に出ることができた。自分にそう言い聞かせて扉に手をかける。だが、気持ちとは裏腹にだんだんと息が荒くなる。


 あまりの息苦しさに胸を強く抑えるが、その場に立っているのもやっとだった。


 やはり今日も学校に行くことができないのだろうか。


「お兄ちゃん大丈夫?」


 声をかけてきたのは香里奈だ。僕は邪魔にならないように上がり框に座り込む。


「やっぱりまだ体調が悪いの?」


 香里奈の言葉に僕は小さく横に首を振った。体は特に悪いところもなく元気だ。問題なのは僕の心なんだろう。


 頭の中ではあの時のみんなの笑い声がフラッシュバックしている。


「私から言えることはあまりないんだけどね」


 香里奈は僕の頭に触れると、何か髪の毛をいじっている。


「せっかく髪の毛を切ったんだから顔は見せないと!」


 髪の毛を上げられると視界が一気に広がった。そこには心配する香里奈の顔があった。


 気づいていなかっただけで、香里奈はずっと心配していたのだろう。


「辛かったら春まで(・・・)休んでたら良いんじゃない?」


 香里奈の言っていることは一理あり、 春になったら学年が上がりクラスが変わるのだ。だから香里奈はあえて"春まで"と言ったのだろう。


 もうそろそろで春休みになるため、高校二年生の期間は残りわずかだった。


「でも行かないとダメだよね……」


 流石に来年は受験生になるため、出席日数が少ないのも気になってしまう。


 一般入試であれば問題ないし、授業の出席日数が足りてないわけではない。ただ、推薦入試を考えるのであれば行くべきなんだろう。


 今後の進路が決まっていない僕は学校に行くことにした。


 上がり框から立ち上がると香里奈は玄関の扉を開けて待っていた。


「お兄ちゃん頑張ってね! 今のお兄ちゃんなら大丈夫!」


「行ってくるよ」


 僕は気持ちを切り替えていつもの駅に向かった。





 駅に着いた僕は電車が来るのを待っていた。やはり朝の時間だからか、スーツを着たサラリーマンや他校の女子高生達も大勢いる。

 

 あまりの人混みに嫌気が差した僕は柱にもたれかかる。


「ねえ、あの子可愛いよね」


「なんていうか……美少年って感じだよね!」


「しかも、昨日SNSで流れてきた動画の人に似てない?」


「えっ、嘘!? これってあの有名なオネエ美容師のやつだよね!」


 朝から女子高生達は元気にはしゃいでいた。その元気を少しでも分けて欲しいぐらいだ。


 そんなことを思っていると電車が駅に着いた。

 

 僕はそのまま電車に乗り込み、向きを変えると電車の扉が閉まった。


 扉越しに視線を女子高生に向けると、なぜか彼女達は手を振っている。


「小さな青春って感じだな」


 何気ない日常でも、彼女達には毎日違う色の鮮やかな青春なんだろう。


 "青春"という僕には無関係な言葉に少し笑ってしまった。


「えっ……今私達を見て微笑んでくれたよね?」


「見た見た! 顔面偏差値高すぎるよね!」


「顔は良いけど、あとは身長と肌のお手入れだよね」


「それ私達も人のこと言えないからね?」


 何を話しているかは聞こえないが、彼女達は最後まで楽しそうに笑っていた。

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