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8.少しの変化

 髪を切り終えた僕は香里奈が終わるのを待っていると、他の女性スタッフに声をかけられた。


 女性にあまり話しかけられたことがない僕としては内心ドキドキしていた。


「よかったら眉毛も整えていきませんか?」


「眉毛ですか?」


 眉毛って整えるものなんだろうか。そもそも毛の手入れをしたことない僕からしたら、眉毛の整え方も知らない。


 眉毛なんて生えたままだからな。


「せっかくなのでやり方を教えますよ。この機会にどうですか?」


 香里奈を待つだけの僕はただ座って暇な時間を過ごすだけだ。


 やることもなくぼーっとしているだけなら、この時間に眉毛の整え方を教えてもらうことにした。


 違う席に案内されると目の前には小さな櫛とハサミ、そして電動シェーバーが用意されていた。


 初めて見る道具に何も知らない僕は興味深々だ。


「美容には興味があるんですか?」


 興味があるかどうかと言われれば特にない。


 美容に興味があれば、今頃肌はこんなに汚くなっていないだろう。ただ、見たことない道具に興味が湧いているだけだ。


「見たことない道具ばかりだったので……あっ、いや……櫛とハサミは見たことありますよ」


 僕の言葉に女性スタッフは笑っていた。


 櫛とハサミを見たことがない人がいたら、その人はきっと今まで大事に育てられた人か目が見えない人だけだろう。


「じゃあ、まずは長くなった眉毛を切っていこうかな」


 僕は美容師に言われたように眉毛を整えていく。昔からの手先の器用さが力を発揮していた。


 思ったよりも簡単で、長くボサボサになった毛を櫛から出たところだけを切り落とし、電気シェーバーで形を整えていくだけだった。


 ちなみに櫛だと思っていた道具を美容師はコームと呼んでいた。


 それだけでお洒落に感じるのはなんでだろうか。


 眉毛を整え終わった僕は香里奈の元へ戻ると、すでに切り終わったのか、必死に写真を撮っている。


「香里奈終わったか?」


「お兄ちゃん!?」


 僕は香里奈に声をかけるとすぐに振り返った。しかし、その姿は何かに驚いているようだった。


 何を見て驚いているのだろうか……。


「眉毛でだいぶ印象が変わるわね」


「さすが私のお兄ちゃんって感じ……」


 どうやら香里奈は僕の眉毛を見て驚いていたようだ。


 初めて自分で手入れした眉毛は成功していたらしい。僕の後ろでさっき教えてくれた女性がピースをしていた。


「せっかくだから記念に残しておきなさいよ」


「それいいね! お兄ちゃんここに座って!」


 何の記念なのかわからないが、僕が椅子に座ると香里奈はスマホを鏡の前に置いた。


「私が合図をするから少し動くのよ」


 アンジェリーナの声に合わせて僕は顔を左右に動かすと、そこで香里奈はスマホの画面に触れた。


「じゃあ、お兄ちゃん次は買い物に行くよ!」


「あっ、はい!」





 香里奈に引っ張られ美容室から出ると次は買い物に付き合わされた。


 女性ものばかり扱うお店や有名なお店を数店回ると、気づいた時には僕の腕にはたくさんの袋がかけられていた。


 その中にも何着か僕の服も混ざっていたため、さすがに中学生の妹にお金を出してもらうのは気が引ける。


 僕は財布からお金を取り出し渡そうとしたが断られてしまった。


「おい、お金はどうするんだ?」


「ああ、あれは宣伝費だから大丈夫だよ」


 何を言っているのかわからないが、香里奈はなぜかお金をたくさん持っていた。


 宣伝費というぐらいだから何かやっているのだろうか。


 美容室を出る時もお金を払っていなかったため、アンジェリーナとの間にも何かあるのだろう。


「ほら、お兄ちゃん次のお店も行くからね!」


「へっ……」


 その後も香里奈に振り回され続け、家に帰った時には夜になっていた。


 ちなみに帰ってきた僕の顔を見た両親は驚きすぎて目が点になっていた姿は面白かった。


 "鳩が豆鉄砲を食ったような顔"というのはこういうことを言うのだろう。


 意識が戻った母がお店を教えて欲しいと香里奈に聞いていたぐらいだから、余程僕の見た目が変わったのだろうか。

 

 久しぶりに出かけたことで、どこか僕の心も晴れたような気がする。


 明日からはまた学校に行けるはずだ。家から出ることができた僕なら大丈夫。


 そんな気持ちを抱き、僕は早めに寝ることにした。


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