54.必殺仕事人 ※香里奈視点
「香里奈一緒にご飯食べよ!」
「あー、今日はちょっと行きたいところがあるからさ」
私は兄と一緒にご飯を食べるために、お弁当箱を持っていると友達に声をかけられた。彼女は高校入学前にSNSで繋がった友達だ。
「あっ、お兄ちゃんでしょ? あんなにイケメンなら仕方ないわね」
「ごめんね!」
元々しばらくは兄と食べるつもりでいた。私は友達に謝ると、早く行けと手を振っている。
すぐに兄の教室に向かうと、教室には兄の姿はすでになかった。声をかけようとしたが、誰も知っている人はいなかった。
教室の端で昔の私に似ている生徒が静かに食事をしていた。少し親近感を覚えた私は彼女に声をかけた。
「すみません、駒田健ってどこにいるかわかりますか?」
「わかりません!」
思ったよりも大きな声に私はびっくりした。流石にそんなに大きな声を出せばみんなの視線は集まってしまう。
「ありがとうございます」
私は彼女に謝り、兄が行きそうなところを探すことにした。流石にトイレでぼっち飯をするような人ではないため、人があまり来なさそうな体育館裏や校舎裏にいるだろう。
まずは一番近い体育館裏に行くことにした。
やはりこの時間の体育館は人がいないため静かだった。私が辺りを見渡しながら歩いていると、この間クラス発表の時に兄へ謝ろうとしていた生徒が歩いている。
容姿や雰囲気も清楚で、友達もたくさんいそうな彼女がお昼休みに一人で歩いていることが気になり後をついていくと、そこには兄がいた。
「お兄――」
声をかけようとしたが、兄がすぐに彼女に気づき話し始めた。兄の彼女かと思ったが、呼び方も名字だし、どうやらそんな雰囲気ではないようだ。
私は陰に隠れてこっそりと話を盗み聞きすることにした。
何を話しているのかは聞きにくいが、たまに私の名前やお弁当の話が出ていた。さすがモテない兄の会話って感じだ。
女の子に対して妹の話をするって、私としては嬉しいが相手にしては最悪だろう。
ただ、兄の話している姿を見て、ちゃんと友達がいることに安心した。少し胸が締め付けられるように息苦しいのは、相手が女性だからだろうか。
「駒田くん、私謝らないといけないことがあるんだ」
「謝りたいこと?」
この間も彼女は兄に謝りたいと言っていた。それが兄が学校に行かなくなった原因だと私は予想している。
「私があの時優樹菜ちゃんを止められなかったのが原因で駒田くんが嫌がらせにあっているんだよね?」
兄が嫌がらせを受けていることが、彼女の口から聞こえた言葉で予想が確証へと変わる。
「あれは僕がハンカチを渡しただけで、佐々木さんは特に悪くはないと思います」
以前兄に言われて、女性でも使いやすいハンカチを買ってきた。その時お願いされたのは、彼女に渡すための物だったらしい。
それでも彼女は関係ないと兄は否定していた。
「でも、次の日からあんなことになって――」
「佐々木さんのせいではないので大丈夫です」
普段大きな声を出さない兄の声が響く。それだけ兄の中で抱え込もうとしているのだろう。実際に何があったかは私にはわからない。
それが本当に兄に問題があるのか、彼女に問題があるのか。
ただ、一つ言えることはどちらかに問題があったとしても、嫌がらせをする方が確実に悪いだろう。
「もう、話すことがなければ僕は戻りますね」
兄はお弁当を片付けると立ち上がった。急いで戻ろうとする兄を必死に追いかけようと、彼女も片付けていたが、兄の歩くスピードに追いつけない。
私も見つからないように隠れた。
「あれは私のせいなのに……」
どうすることもできない彼女はその場で泣き崩れていた。彼女なりに謝ってもどうにかなる問題ではないと理解しているのだろう。
どうにかできていれば、兄が不登校になることもなかったし、あんな辛そうな顔を見ることもなかっただろう。
急いで立ち去る兄の顔は必死に何かに耐えて、涙を出さないように唇を噛み締めていた。
「はぁ……本当に私って損しているよね」
私はそーっと泣いている彼女に近づき慰めることにした。出来ることなら私も兄を追いかけたいが、今言っても何もないと言われるだけだろう。
それなら兄との関係性、兄が嫌がらせを受けるようになった理由を聞くことのほうが大事だ。
「大丈夫ですか?」
私は彼女に声をかけた。
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