45.首飾り……君に決めた!
この状況をどうすればいいのかわからず、僕はただただ玄関の上がり框に腰掛けている。
「お前いつまでここにいるんだ?」
玄関の扉を無理やり開けられてから、ゴブリンはオーガの金棒を持った状態で玄関前に立っている。正確に言えばゴブリンは家の中に入れないのだ。
ホーンラビットと戦った時には理解していたが、目の前でずっと立たれていると改めて実感できる。
そろそろ退いてもらわないとホブゴブリンを倒しに行けない。
やつが外に立っている間、スマホからネット検索をしてホブゴブリンについて調べていた。
ホブゴブリンには"ゴブリン"という名前が入っているが、人間に対して友好的かつ献身的な性格をしているらしい。
目の前にいるゴブリンが少し体格も大きいため、ホブゴブリンかと思っていたが違うようだ。僕を追いかけ回すし、オーガの金棒を盗んで返そうともしない。そんなやつがホブゴブリンのはずがない。
そして、ホブゴブリンを討伐対象としたこのデイリークエストを辞退したいと思うようになってきた。
人間に親切なやつを討伐するとか僕には出来ない。そもそも武器もないから倒すこともできないだろう。
「その金棒も返して欲しいんだよな」
僕はゴブリンを見るとやつと目が合う。ゴブリンはニヤリと笑っていた。表情は不気味ではあるが、一応笑っているからか、ずっと見ていると愛着が湧いてくる。
ゴブリンに近づくと視界の端でずっとゴブリンを見ている存在に気づいた。
「そんなに見ていても……」
ゴブリンを見ていたのは、下駄箱の上に置いてある首飾りだった。きっと僕の絶体絶命のところを見たくてうずうずしていたのだろう。
「どうせダメならお前を使ってやるか」
僕は首飾りを手に取り、こいつの能力に頼ることにした。
ゆっくりと首元に近づけると嬉しそうにギョロギョロと瞳が動いていた。
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装備品] ゴブリンの首飾り(装飾品)
効果 精神異常の付与
説明 ゴブリンの瞳で作られた首飾り。付けた者に精神異常を付与する。
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「着けるのは僕じゃないけどね」
手を伸ばしたのは玄関の前にいる仁王立ちしているゴブリンの首元だ。
素早くゴブリンの首元にかけると、何が起きたのかゴブリンは理解していないようだ。
――精神異常の付与
これで少し隙を作り、その間に外に出ることでホブゴブリンを討伐できる時間を作る。
僕は精神異常が付与されるのを待った。
「グギィ……」
ゴブリンの動きが止まった。その瞬間に僕は玄関から出て走る。
「ギギギギギ!」
精神異常が付与されたのかゴブリンは叫び出した。首飾りの黒い瞳もグルグルと回っている。それだけ強い精神異常が付与されているのだろう。
改めて効果を見ずにつけなくて良かったと安心する。
僕は家から出てホブゴブリンを探すために、すぐに自宅近くの角を曲がる。
大通りに出れば視界が広がるため、敵の存在が一番確認しやすいと思った。
「えっ……」
角を曲がった瞬間見えたのは、立派な角が生えたホーンラビットとゴブリンが共存している街だった。
今までホーンラビットかゴブリンの単体しか出てこなかった。
動きが素早いホーンラビットに力が強いゴブリン。こいつらが力を合わせたら、武器がない僕に勝ち目はない。
それに僕の後方にはオーガの金棒を持った、頭の良いゴブリンもいる。
「グアアアアアアアアア!」
玄関の前にいるゴブリンの叫び声で二種類の魔物が僕の方を見ていた。
「ああ、本当にもう終わりだ」
諦めた瞬間、直接脳内にデジタル音が響く。きっと僕の死を知らせる合図なんだろう。
そう思ったら何を言っているのかわからなかった。
「いや、もう一回言ってもらえるか」
【ちゃんと一回で聞き取ってください。ホブゴブリンに精神異常を付与した結果――】
僕は再びデジタル音声の主に内容を聞き返す。
【ホブゴブリンをテイムしました!】
「テイムって……なんだ?」
知らない間に僕はホブゴブリンをテイムしていた。
【はぁー】
デジタル音はため息をついていた。
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