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37.もう昔の僕じゃない

 突如現実世界に現れたゴブリンに僕はびっくりした。まず、ちゃんと日本語を話していることに驚きだ。


 いや、こいつらがゴブリンに似ているんじゃなくて、鏡の中のゴブリンがなぜか目の前にいる二人の顔に似ていた。


 むしろ生き写しなのかと思うぐらい、ゴブリンの顔のタイプが植村悟史(うえむらさとし)工藤海(くどうかい)しかいなかった。


「まあ、少し見た目が良くなったからって中身までは変わらないか?」


「ははは、陰キャラのクズだからな」


 僕を悪く言ってそんなに優越感に浸りたいのだろうか。そんな二人を見て僕もついつい笑ってしまう。


 ゴブリンが優越感に浸るって考えてただけで笑えてくる。


「おい、お前何笑ってんだよ」


「いや、何もないよ」


 髪を掴まれていても全く痛くはないし、命の危険も感じない。よっぽどゴブリンに殴られた方が痛いし死ぬかと思った。


「駒田のくせに――」


 工藤はさらに髪を引っ張り、反対の手で僕を殴ろうとしてきた。だが、ただでやられている僕ではない。


 工藤の腕を掴むとそのまま強く握りしめる。現実世界も鏡の世界と変わらない。ゴブリンはすぐに殺さないと僕が殺されてしまう。


「おい、痛いって!」


 鏡の世界の影響で変わったのは、身長や体重だけではない。現実世界で数値として測ったことはないが、力も強くなっている気がする。


 僕は工藤の手を離し、立ち上がって詰め寄る。身長が高くなった影響か二人とも小さく感じた。


 今までは怖いと思っていた二人が、全く怖いと感じないのだ。


 これもゴブリンを嫌になるほど、狩り続けた影響だろう。


 あの時はお金欲しさにゴブリンを狩っていたが、今になって過去の自分に感謝だ。


「ねぇー、駒田くんなんで優樹菜を置いていくの?」


 そんな中、優樹菜が遅れて教室に戻ってきた。どこか教室の雰囲気がおかしいと感じているのか、キョロキョロしている。


「あっ、いたいた!」


 いや、単純に僕を探していたのだろう。大きな胸を揺らして近づいてきては、腕を掴み自身の胸に押し当てていた。


 それを見ていた工藤はどこか悔しそうな顔をしていた。そんなに大きな胸を意識させても、ホルスタインのような牛にしか見えない。


 むしろまだ牛の方が可愛い。僕としては早く腕を離してもらいたかった。


「今日優樹菜と一緒に帰らない?」


 さらに僕の腕を優樹菜は強く胸に押しつける。これは何かの罰ゲームなのだろうか。


 周りにカメラが置いていないか確認するが、どうやら何もないらしい。遠くではなぜか日向がこっちを見ていた。


 友達ならこの女を止めて欲しい。僕は切実に願ったが、日向は目が合うと逸らした。


「なぜ一緒に帰らないといけないんだ?」


 心で思っていたがいつのまにか口から言葉が出ていた。そもそも今日は香里奈との駅までの競争で負けたため、アイスを買ってあげないといけないだろう。


「えー、だって駒田くんと帰ったことないし、仲良くなりたいじゃん」


 何を思って仲良くなりたいのだろうか。


 あの時の出来事を忘れたのだろうか。


 僕は今でも言葉を一つ一つ覚えている。


「なら俺が優樹菜と――」


 話の途中でチャイムの音とともに先生が教室に入ってきた。


「おーい、お前らそろそろ席につけよ!」


「駒田くんまたお昼ね!」


 僕の顔を下から覗き込む優樹菜。


「あいつ絶対許さない。俺の優樹菜を……」


 工藤の震える怒りの声。


 先生の声とともにみんな僕の元から去っていった。残っていたのは、きっと工藤がしたと思われる小さな舌打ちだけだった。


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