35.女の戦い ※香里奈視点
「ねぇ、あなた達ってお兄ちゃんの何?」
私は目の前の女子高生二人に声をかける。明らかにさっきまで普通だった兄が急に困ったような顔をしていた。
きっと優しい兄だから私に心配をかけないように配慮していたけど、ずっと一緒にいる私には兄の無理している顔なんてお見通しだ。
逃げるように兄が教室に行ったのも、この人達と関わりたくないと思ったのだろう。
「私はただ謝りたくて……」
「謝る? お兄ちゃんに何かしたのはあなたですか?」
見た目が変わったお兄ちゃんにすぐに気づいた子が、兄を不登校にした原因なんだろうか。
直接兄に聞いても教えてはもらえないし、むしろ傷を深くする可能性があった。だから学校で何があったのか私達家族でも聞くことが出来なかった。
「日向まだそのことを言ってるの? そもそも妹のKARINAだっけ?」
どうやら彼女は私の名前を知っているのだろう。これでもSNSで動画投稿して毎回バズっていると言っていいほどの人気はあると思っている。
最近は兄との日常や変化を隠し撮りして話題にもなっている。今日撮った動画もすでにスマホの通知が止まらないほどコメントが来ていた。
「妹ですけど何か問題ありますか?」
私が妹だと伝えると、頭から足の先まで一通り見ていた。最終的には胸の辺りを見てくすくすと笑っている。
一目見ただけで私はこの女が嫌いだと感じた。
私の胸はまだまだ成長中だ。ホルスタインみたいに垂れた牛女よりはマシだと思っている。どちらかと言えば私は陸上をしていた影響で、全体的に引き締まっている。
負けずに私も反撃することにした。
「うさぎのぬいぐるみっていつの時代のギャルですか? そもそもあなたみたいな人が兄の友達なわけ……ないですよね」
高校三年生にもなって、大きなうさぎのぬいぐるみが鞄についていることを私は指摘する。この時代にギャルが存在していること自体珍しい。
今時ギャルコーデって文化祭の時ぐらいでしかやる人はいない。毎日脳内で文化祭でもやっているのだろう。
「二人とも喧嘩は――」
そんな私達を見て初めに寄ってきた彼女はオドオドとしていた。
「していません!」
「していない!」
この子のはっきりとしない態度にもイライラしてくる。兄に謝りたいならすぐに"ごめんなさい"と言えばよかったはずだ。
その一言が兄に言えていれば、あそこまで傷付けなくて済んだかもしれない。それを思うとさらに心の奥にあるイラつきが湧き出てくる。
「おーい、お前ら新入生をいじめるなよー!」
近くを通った先生が私達のことを見て声をかけてきた。
「チッ!」
牛女が舌打ちをすると、私に近づき耳元でそっと呟く。
「少しSNSで人気があるからって調子に乗らない方がいいよ。駒田くんの妹さん」
大きな胸を揺らしながら、教室へ向かって歩いて行った。
「KARINAちゃんにも迷惑をかけてごめんね」
「私に謝るぐらいならお兄ちゃんに謝ってよ!」
このまま話していたら怒りが爆発してしまうと思った私は教室へ行くことにした。
「今度は私がお兄ちゃんを助けてあげるからね」
彼女達が声をかけてくれたおかげで、兄が不登校になった理由の一部が彼女達にあると気づくことができた。それだけでも良い勉強になっただろう。
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