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33.久しぶりの電車通学

 あれから食事を食べ終えると、香里奈との撮影会が始まった。


 なぜ撮影会が始まったかって?


「制服をもらったんだからお礼しないといけないでしょ!」


 という相手側へのお礼を伝えるためだった。あまり乗る気ではなかったが、伸びてまとまりにくい髪の毛も整髪剤で整えられ記念撮影だと言われたら断れない。


「えーっと、お兄ちゃん一言どうぞ!」


「えっ、一言!?」


 写真だと思っていたが、まさか動画撮影になるとは思いもしなかった。だからさっきから香里奈は変なライトとかを取り出していたのだろう。


「ほらほら、お礼を伝えるのはやっぱり動画でしょ?」


「えーっと、僕のために制服を譲って頂きありがとうございます。うれしかったです」


 スマホで動画を撮影している妹から口角を上げろとジェスチャーでの指示が飛んできた。


 急に笑えと言われてもさすがに笑えないだろう。陰キャラでひっそりしている僕には難易度が高すぎる。


「ほら、お兄ちゃん早く!」


 参考にする人物を必死に思い浮かべる。そういえばゴブリンはいつも僕の存在に気づくと笑っていた。


 あんな感じでいいのだろうか。少し戸惑いながら頭を掻いてにこりと笑った。


「くくく、お兄ちゃん笑顔苦手だね」


 香里奈はお腹を抱えて笑っていた。そんなに変な顔をしていたのだろうか。


「仕方ないだろ! もうやめろよ」


 スマホを取り上げようとしたら、すぐに香里奈はインカメラに切り替える。側から見たら妹と戯れあっている兄だろう。


「こんなお兄ちゃんだけど皆さんありがとうございました!」


 それで動画の撮影は終わった。朝から体力を使って学校に行く気も失せてくる。


「ほら、お兄ちゃん遅刻するよ!」


 それでも香里奈に引っ張られて僕は学校に向かう。今まで一人で憂鬱だった登校も少し楽しくなりそうだ。


「お兄ちゃん、駅まで競走しようか?」 


「はぁん!?」


「負けたら今日の帰りにアイス3個ね!」


「3個も!?」


 気づいた時にはすでに香里奈は走っていた。最寄駅まで歩いて7分だが、真剣に走ったら結構な距離だろう。だが、鏡の世界で鍛えられた兄を舐めてもらっては困る。


 僕は大きく足を出して走った。





「おい、なんでそんなに速いんだよ」


「それは乙女の秘密だよ?」


 結局鏡の世界とは違い、スキル逃走を使えない僕は香里奈に負けた。そういえば、香里奈って中学の時に陸上部のエースって言われていた気がする。


 今日もあの高いコンビニアイスを買うことになるのだろう。


 駅に着いた僕は息を整えながら改札を通る。今日も相変わらず人が多くて息が詰まりそうだ。


「ねぇ、あの制服の子ってKARINAじゃない?」


「うそ!? ってことは隣にいるイケメンって例のお兄ちゃん?」


 今日も女子高生達は朝から元気そうだ。どこかから聞こえる妹の名前に香里奈が陸上部でよほど有名だったと今になって気づく。


「そりゃー、頑張っても追いつけないわな」


「追いつけない?」


「いや、何もないよ」


「変なお兄ちゃんだね」


 そう言って香里奈に腕を掴まれながら電車に乗り込む。昔よりもどこか距離感が近いのは久しぶりに一緒に登校するからだろうか。


「おい、KARINA手を振られてるぞ?」


 電車の中から見える窓から、向こう側にいる女子高生はこっちを見て手を振っていた。隣にいる香里奈も手を振りかえしていた。


 大きな鞄を背負っているため、彼女らも陸上部なんだろう。


「せっかくだからお兄ちゃんも手を振りなよ!」


「なぁ!?」


 香里奈に腕を掴まれると僕も強制的に腕を振らされる。電車のドアが閉まるまでそれは続いた。

 

「やばいやばい! KARINAのお兄ちゃんめちゃくちゃイケメンじゃん! 私にもあんなお兄ちゃん欲しいよ」


「あんたのお兄ちゃんってただのゴリラだもんね」


「ゴリラの方がまだ良いわ!」


 今日も女子高生達は楽しそうだった。

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