31.成長した春休み
スキル"合成"を手に入れてから僕は死に物狂いでゴブリンを討伐し続けた。合成に必要なお金が中々貯まらないのだ。
鏡の世界から持ってきたお金は、再び持っていけるかと思いポケットに入れて、異世界に来た。だが、残念なことに持ってこうとしていた10万円は跡形もなく、ポケットから消えてしまった。
その恨みを晴らすためにホーンラビットのトングを使って殺人鬼となっている。
スキル短剣術の影響か、ゴブリンが弱く感じるようになってきた。前までは家の中で姿を隠し、ゴブリンが家の前を過ぎた頃に背後から討伐していた。それが隠れて倒さなくて済むようになったのだ。
実際にトングを器用に操れるようになった結果、人差し指を軸にトングをクルクルと回せるようになった。何に使うかと言われれば使うところなんてないだろう。
誰もいないこの異世界ならかっこつけたことしても見られていない。
現実世界でそんなことをしていたら気持ち悪いと言われていただろう。
「指で回してグサッと……あっ……やばっ!?」
回していたトングを掴もうとしたら、指から外れてトングが地面を滑るように転がっていく。
「あっ、すみません」
誰かの足に当たったのだろう。トングが転がって少し戻ってきた。謝りながらもトングを拾い、ゆっくりと顔を上げると、目の前にはゴブリンがいた。
ニヤリと笑うその姿が、すぐに脳内に警報を鳴らす。今まで姿を見せなかった知能が高いゴブリンだとすぐに気づいた。
全身がピリピリとするその空気感に、やつはまた強くなったと肌で感じる。
「おいおい、筋トレしたら大きくなったレベルじゃないだろ!」
筋肉は以前よりも膨れ上がり、マッチョからゴリマッチョへと進化していた。身長も少しばかり伸びているのは気のせいではないはずだ。
身長が高くなった僕と比べても大きくなったと感じるほどだ。
強くなったのは僕だけではなかった。やつも鍛えてきたのだろう。だから、今まで姿を現さなかったのだ。
すぐに体の向きを変えてその場から離れる。家から離れても勝てるようになったと慢心していたのがダメだった。
スキル逃走を使い家まで全速力で走る。あれだけ筋肉がついていれば速くは走れないだろう。
いつもより足を意識して、力を入れて蹴り出した。
素早く振り上げる足に僕は逃げ切れたと思っていた。
「これなら逃げられ――」
「グキギギ!」
「なんで早いんだよ!」
僕の横を一緒に走るようにゴブリンも走っていた。筋肉の塊が同じ速さで動くとか反則だ。
それでもやはり攻撃はできないのか、付いてくるのに必死そうに見えた。
家までの距離はおよそ100m。一瞬でも目を引きつけて扉を開ける時間を確保しなければいけない。
僕はホーンラビットのトングを使い、走りながら器用にクルクルと回す。
攻撃されるかもしれないと思わせることで、警戒して自然にトングへ視線が向くと思ったのだ。
右手、左手とジャグリングするように左右へ動かす。するとゴブリンの目はトングを追っていた。
家までの距離はおよそ30m。
あとは家の中に入るだけだ。
僕は空に向かってトングを大きく投げた。
ゴブリンはトングに気が取られて、少し走る速度が遅くなったのだろう。僕の斜め後ろを走っていた。
その間に僕は急いで玄関の扉を開けて家の中に入った。
「はあ……はあ……久しぶり気持ち悪くなったわ」
胸の鼓動は病気の時を思い出すかのように鼓動が早くなる。トングはまた戻ってくるから問題ないが、再びあのゴブリンが現れるとは思いもしなかった。
息が落ち着いた僕は立ち上がり、鏡の前に向かう。デイリークエストをすでに終えているため、あとは戻るだけだった。
「姿もだいぶ変わったよな」
鏡に映る僕を見て少し安堵する。春休みの間に行ける日はほぼ毎日きた鏡の世界。
身長は伸びて、引き締まった体。あの時のデブで小さい気持ち悪い顔をした僕はいない。
僕は鏡に触れて現実世界に戻った。
――――――――――――――――――――
《ユーザー》
[名前] 駒田健
[種族] 人間/男/童貞
[年齢] 17歳
[身長] 181cm
[体重] 65kg
[◯長] 最大7cm
《ステータス》
駒田 健 Lv.19
[能力値] ポイント0
HP 30 (+10)
MP 17
STR 21 (+5)
INT 0
DEF 10
RES 0
DEX 20 (+7)
AGI 20 (+5)
LUK 10
[固有スキル] キャラクタークリエイト
[スキル] 逃走、急所突き、合成、短剣術
[称号] ホーンラビットの殺戮者
幸運の持ち主
――――――――――――――――――――
ブックマーク、⭐︎評価よろしくお願いいたします。




