11.心の扉
声をかけてきたのは同じクラスで見た目も僕に似ている勇崎怜だ。彼女も人目を気にしているのか、髪の毛で顔を隠して、背中を曲げて歩いている。
性格も大人しくどこか見た目も暗いが、僕に話しかけてくれた優しい子だ。
「あっ、すみません」
僕が急いで立ち上がると、勇崎はどこかを指差している。
「駒田くんの席はあそこです」
視線を向けるとそこは廊下で教室の一番後ろ。特に何かが置いてあるわけでもなく、一つだけ空けられた何もない空間があった。
「何もないけど?」
「駒田くんの席は――」
「そういえば昨日送った動画見たか?」
「動画?」
「そうそう、まさかあいつが――」
視線の先には教室に入ろうとする植村悟史の姿があった。彼に会うのは黒板消しで僕の存在を消そうとした時以来だ。
「ははは、噂をすれば動画の本人が登校してきたな!」
動画とは何のことを言っているのだろうか?
「今からみんなに送るから見てみろよ!」
悟史がスマホを触るとクラスにいる全員のスマホが鳴り響いた。僕もスマホを取り出すが、僕にはその動画は送られていなかった。
きっと僕だけが入っていないクラスの連絡グループがあるのだろう。
「駒田くんこれ……」
目の前にいた勇崎は僕に見えるようにスマホの画面を見せつける。
そこに映っていたのは、髪を切った時の僕と口調が特徴的なアンジェリーナ・ガッバガバンナだった。
動画には僕との会話や髪の毛を切った後の映像が流れていた。
「ははは、髪の毛を切ったからって見た目が変わるわけでもないのにな! しかも、あの有名な美容師でも変わらないなんて流石キモデブ陰キャラだ!」
悟史は大きな声で笑っている。僕も見た目が変わったとまでは思っていない。だが、僕を変えようとしてくれた美容師や予約を譲ろうとしてくれた妹の香里奈にも文句を言っているように感じた。
「ってか陰キャラ同士で何やってんだ? ひょっとして幽霊と付き合ってるのか」
「ははは、陰キャラ同士でお似合いかよ!」
この間僕を蹴り飛ばした工藤海は勇崎と僕が付き合っていると言い出した。
勇崎は苗字の勇と名前の怜を取って、幽霊と呼ばれている。
そもそも友達のいない僕には付き合う相手すらいない。勇崎にも悪いと思わないのだろうか。
「早く言い返さないと今度はお前がいじめられるぞ?」
悟史の言葉に勇崎は小さな声で呟いた。顔を下げたままだから聞こえづらいのだろう。
「はぁん? 聞こえねーぞ?」
勇崎は震える手を抑えながら大きく息を吸う。
「違う! こんな汚い男のことが好きなはずない! 気持ち悪いし、デブだし声をかけるのも嫌よ!」
「ははは、幽霊が話したぞ!」
彼女から聞こえた言葉は僕を否定する言葉の数々だった。
同じような見た目で親近感があったが、そこまで拒否されるとは思いもしなかった。
勇崎の顔を見ようとするが、僕の顔は動かなくなっていた。心は段々と深い底に沈んでいくようだ。
自然と僕の足は廊下に向かって歩き出した。
「おい、何だよ?」
別にこいつらに用があるわけではない。すでにもう片方の扉は他のクラスの人達が覗いているため、教室から出るにはこいつらの目の前を通らないといけないだけだ。
僕はそのまま教室を出ようとすると、またあの二人に会ってしまった。
「げっ、駒田じゃん!」
顔を見て声を出したのは優樹菜だった。そんなに僕の顔を見たくなかったのだろう。
「優樹菜ちゃん約束したでしょ!」
「いや……でも――」
日向は優樹菜の腕を掴んでいる。今のこの状況で何をするつもりなのか……。
どうせまた僕を困らせて笑いものにしたいだけだろう。
僕は二人を無視してそのまま教室から外に出た。もうこんな気持ちになるのは嫌だ。再び僕の心は固く重い蓋に閉ざす。
「この間はごめんなさい」
彼女の声は僕の耳には聞こえていなかった。
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