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1.些細なきっかけ

 刻々と色を濃くしていく夕暮れの校舎。


 高校生の僕は下駄箱の棚から靴を取り出すと突然声をかけられた。


 振り返るとそこには学校で知らない人はいないと言われている女子高生が二人立っている。


「あんたなんかと日向(ひなた)が付き合うわけないでしょ!」


 突然の出来事で僕の頭は混乱している。


 心の中で密かに想いを抱いていた佐々木日向(ささきひなた)への気持ちは無惨にも砕け散ったのだ。


「優樹菜ちゃんやめなよ。告白されたわけでもないのに駒田くんに失礼だよ」


「それがおかしいんだよ! 日向はこんな手紙をもらって狙われていることぐらい気づきなよ!」


「駒田くんごめんね。早くいくよ!」


 別に告白をしたわけではない。


 この間転んで怪我をしたところに、濡れたハンカチで血を拭いてくれたのだ。


 そのお礼に新しいハンカチと手紙を日向の机の中に入れた。


 ただそれだけだったのに、彼女の隣にいる兵藤優樹菜(ひょうどうゆきな)にバレてしまった。


 優樹菜は日向に渡したはずのハンカチと手紙を汚いものを掴むように持っていた。


「日向が言わないから私が言ってあげてるのよ。こんな気持ち悪い男に私だって声をかけたくはないわよ」


 学校で有名な二人は見た目が全く正反対だ。


 日向は制服をしっかりと着ており、いつもポニーテールで束ねている。性格は物静かで自分から声をかけるようなタイプではない。


 だから今回は優樹菜が声をかけて来たのだろう。


 一方の優樹菜は制服を着崩して一番上のボタンを外している。いわゆるギャルでいつも陽気な女性だ。


 そんな彼女らとは別の世界の住人のように、僕は目立たないように生活をしていた。


 自分の容姿が気持ち悪いことなんて、昔から当たり前のように知っている。


「ほら、優樹菜ちゃんがそんなことを言うから人が集まって来ちゃったじゃん。駒田くんごめんね!」


 優樹菜の声が大きかったのか、いつのまにか遠くから生徒がちらほらと見ていた。


 日向は優樹菜を無理やり引っ張ってその場を立ち去る。


「何がしたかったんだ?」


 彼女達の意図が分からず、何か変な勘違いに巻き込まれた気もしたが、僕は特に考えることもなく靴を履いて家に帰った。


 だが、僕の地獄のような学校生活はここから始まったのだ。





 次の日、学校に登校すると周囲からの視線と声が僕に突き刺さっていた。聞こえてくるのは全て僕を軽蔑する声だ。


 教室に入ると僕の机と椅子はなく、そこには花瓶に雑草が生けられていた。


 手に取って見てみるが、花瓶に雑草はさすがにない。


 僕にはこれが似合っていると、やった人達はそう思ったのだろう。色んな意味で僕にはないセンスを感じる。


「おい、デブで短足の陰キャラが日向に告白したんだって? 身の程知らずだな!」


 突然背中に走る衝撃に僕の重たい体は止められず、花瓶に頭をぶつけた。


 花瓶はひっくり返ると水と雑草が僕の顔にかかってしまった。


「ははは、本当に惨めな姿が雑草にそっくりだぞ!」


「お前が優樹菜に話しかけられている時点で気に食わないんだよ!」


 振り返るとそこにはクラスの男子達が立っていた。その中の一人が僕に近づき、顔に何かを押し付ける。


「あれ? なんでお前は消えないんだ? あっ、チョークじゃないから消えないのか!」


「ははは、悟史(さとし)面白いな!」


 顔に押し付けられたのは黒板消しだった。何度も擦り付けられ、僕の顔は真っ白になっているだろう。


 周りには止めてくれる人もおらず、いつのまにか廊下にも人が集まっている。


「ちょっと……こんなに人が集まって何してるのよ」


 声がする方に目を向けると、日向と優樹菜が立っていた。きっと今登校して来たのだろう。


「駒田くん……」


 想いを寄せていたあの子の声も、僕の耳にはもう聞こえることはなかった。


 僕の耳に残るのは逃げるように立ち去った僕を嘲笑う声だけだった。





 学校から帰った僕は汚れた体を洗うために急いで脱衣所に向かう。


 ふと、目に入ったのは鏡に映る僕の姿だった。


 チョークの粉が僕の酷い見た目を、さらに際立たせている。


 小さな身長にアトピーで赤くボツボツと炎症した肌。思春期が重なり、ニキビも少しずつ増えてきている。


 服を脱ぎ捨てると見窄らしいお腹が露出された。


 腹筋なんて一度も目にしたことがない。


 昔から体が弱く、運動があまりできなかった僕は体だけがどんどん大きくなり、いつのまにかデブになっていた。


 さらに、身長は全く伸びずに短い脚がさらに目立っている。


 そんな姿をただ眺めることしかできなかった。


「こんな見た目だからいじめられるのかな」


 今まで虐められないように、髪も長くして隠れて生きてきた。


 少しでも目立てば、僕はいじめられてしまうと心の中で気づいていた。


 それがあんな形で目立つことになるとは……。


「くそっ! 僕の人生を返し……えっ!?」


 醜い姿の僕が映った脱衣所の鏡を勢いよく叩くと、鏡は割れることもなく僕の手は鏡の奥に消えた。


 あまりの衝撃にただ驚くことしかできない。


 突然手から先が無くなったのだ。すぐに手を引っ込めると、その先は無事に付いている。


 何度も手を入れたり、引っ込めるのを繰り返すが特に何か起こるわけでもない。


「これってマジックができる鏡だったのか?」


 今まで鏡に触れることはなかった。


 だから、脱衣所の鏡がマジックで使う物になっているとは知らない。


 僕はマジックの裏側が気になり、横から覗いてみるが映るのは僕だけだ。


 見た目は僕の体がぎりぎり映る程度の少し小さめな鏡で、普通の鏡と特に変わらない。ふと、手が入るのなら顔も入るのではないかと思った僕は恐る恐る顔を近づけた。


「中は家と変わらないか……」


 鏡の中はさっきまで見ていた浴室と特に変わりはなかった。いや、むしろ変わりないのがおかしい。


 鏡の中に違う世界が存在していることが大発見だ。ただ、少し気になるのは浴室がある場所が反対側になっていた。


 もう一度顔を鏡から出して見るが、特に顔が変わったわけではない。


 僕はそこで立ち止まればよかったが、なぜか鏡の奥が気になった。ただ、体が鏡を通るには僕のぽっこりと出たお腹は邪魔だ。


 体を横向きにして、お腹を大きく引っ込ませる。


「うっ……やっぱり引っかかるか」


 いくらお腹を引っ込めても鏡に入るわけではない。それでも必死に体を捻りながら、押し込むと少しずつ鏡の世界に入ることができた。


【キャラクタークリエイトをしてください!】


「へっ?」


 完全に体が通ると、突然AIのようなデジタルな声と共に、僕の目の前に突然透明の薄い板が現れた。


ブックマーク、⭐︎評価よろしくお願いいたします。

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